ワコCG-4ハドリアン

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ワコ CG-4 ハドリアン（Waco CG-4 Hadrian）は、第二次世界大戦中にアメリカ合衆国で開発・生産された軍用グライダーである。アメリカ陸軍航空軍に「CG-4A」として採用され、約13,900機が生産された。本機は、アメリカ軍が運用したグライダーの中で最も多く生産され、重要な役割を果たした。

開発と背景[編集]

1940年、ドイツ国防軍によるエバン・エマール要塞の戦いでのグライダーを活用した電撃的な攻撃は、連合国軍に大きな衝撃を与えた。この成功は、グライダーが戦術輸送手段として有効であることを示し、各国で軍用グライダーの開発が加速した。

アメリカ陸軍航空軍は、1941年に初の軍用グライダー計画を開始した。当初は様々な設計が検討されたが、最終的にワコ・エアクラフト・カンパニーが設計した「XCG-4」が選定された。XCG-4は、輸送能力、製造の容易さ、そして空挺作戦への適応性が評価された。

設計と特徴[編集]

CG-4Aハドリアンは、主に木材と鋼管フレームを羽布で覆った構造を持つ、シンプルで堅牢な設計が特徴である。

  • 積載能力：パイロット2名に加え、兵士13名、またはジープ1台、あるいは榴弾砲1門といった比較的重い貨物を搭載することができた。機首部分が開閉式となっており、大型の貨物の積み下ろしを容易にした。
  • 牽引：本機は、C-47スカイトレインなどの輸送機によって牽引された。牽引索は離陸後に切り離され、目標地点へ滑空して着陸する。
  • 製造：第二次世界大戦中の物資不足に対応するため、多くの非航空機メーカーが本機の製造に携わった。自動車メーカー、家具メーカー、ピアノメーカーなど、多岐にわたる企業が参加し、短期間で大量生産を可能にした。
  • 着陸装置：固定式の主脚と尾輪を備え、不整地への着陸も考慮された設計であった。着陸後は、牽引機によって回収されるか、あるいは使い捨てにされることもあった。

運用[編集]

ワコCG-4ハドリアンは、主に以下の作戦でその真価を発揮した。

  • シチリア島上陸作戦（ハスキー作戦）（1943年）：アメリカ軍初の本格的な大規模グライダー空挺作戦であったが、経験不足や夜間の強風により多くのグライダーが目標地点から逸れ、一部は海上に着水するなどの被害が出た。
  • ノルマンディー上陸作戦（オーバーロード作戦）（1944年）：D-デイにおいて、CG-4Aは兵員、車両、装備の輸送に用いられた。特に第82空挺師団と第101空挺師団は、内陸部への迅速な展開に本機を活用した。
  • マーケット・ガーデン作戦（1944年）：オランダでの大規模な空挺作戦。CG-4Aは、この作戦でも多くの物資と兵員を輸送したが、作戦自体は失敗に終わった。
  • レマーゲン鉄橋の戦い（1945年）：ライン川にかかるレマーゲン鉄橋を確保するための作戦で、グライダーが投入された。
  • ヴァーシティー作戦（1945年）：ライン川渡河作戦。大規模なグライダー空挺作戦であり、CG-4Aが多数投入された。

これらの作戦において、CG-4Aは物資や人員を敵陣深くに送り込むための重要な手段として機能した。しかし、グライダーの運用は高い危険を伴い、パイロットや搭乗員には多大な犠牲が払われた。

派生型[編集]

  • XCG-4：試作型。
  • CG-4A：量産型。最も多く生産された。イギリスでは「ハドリアン」の名称が与えられた。
  • XCG-4B：試験機。
  • CG-4B：量産型の一部。
  • XCG-4C：試験機。
  • CG-13：CG-4Aの大型化版。より多くの積載能力を持つ。
  • CG-15：CG-4Aの改良型。

諸元 (CG-4A)[編集]

  • 乗員: 2名（パイロット）
  • 収容人員: 兵士13名、または同等の貨物
  • 全長: 14.73 m
  • 全幅: 25.50 m
  • 全高: 4.70 m
  • 翼面積: 83.6 m²
  • 空虚重量: 1,724 kg
  • 最大離陸重量: 4,082 kg
  • 最大滑空速度: 約241 km/h
  • 牽引速度: 約190 km/h

豆知識[編集]

  • ワコCG-4ハドリアンは、そのシンプルで堅牢な構造から、「空飛ぶジープ」とも呼ばれました。
  • 戦後、多くのCG-4Aが民間に払い下げられ、農場での物資運搬や遊覧飛行などに利用された例もあります。一部は、改造されてモーターグライダーとして飛行を続けた機体もありました。
  • 博物館に展示されている機体の中には、実際に第二次世界大戦で使用されたものも含まれています。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • ゴードン・L・ロットマン 著、吉川和篤 監修『第二次世界大戦の空挺作戦』大日本絵画、2008年。ISBN 978-4-499-22979-3。
  • ロバート・E・リヒター 著、小川政芳 監訳『図解 グライダーと飛行船』原書房、1997年。ISBN 4-562-02987-1。
  • ジョン・F・モース 著、中村正和 訳『アメリカ軍用機発達史』光人社NF文庫、2002年。ISBN 4-7698-2358-1。
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