プリンシペ・デ・アストゥリアス (空母)

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プリンシペ・デ・アストゥリアス(スペイン語: Príncipe de Asturias)は、かつてスペイン海軍が運用していた航空母艦である。スペイン海軍が建造した初の本格的な航空母艦であり、その設計はアメリカ海軍のシー・コントロール・シップ(SCS)計画に基づいている。

概要[編集]

「プリンシペ・デ・アストゥリアス」は、スペイン海軍の洋上航空戦力の中核を担う目的で建造された。その設計は、アメリカ海軍が提案していた小型空母であるシー・コントロール・シップ(SCS)計画を基にしているが、スペイン独自の要求に合わせて改修が加えられた。特に、STOVL機の運用に特化するため、飛行甲板の先端にはスキージャンプ勾配が設けられているのが特徴である。

本艦の建造は、スペインの造船産業にとって大きな挑戦であり、その完成はスペイン海軍の能力向上に大きく貢献した。地中海、大西洋におけるNATOの多国籍演習にも参加し、その存在感を示した。

建造[編集]

「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の建造は、1979年10月8日にバサン造船所(現在のナバンティア)で起工された。当初はアメリカの設計をそのまま採用する予定であったが、スペイン海軍の運用要求と技術的な制約から、多くの変更が加えられた。これらの変更には、スペイン製の兵装システムや電子機器の統合が含まれる。

1982年5月22日に進水し、建造は順調に進められた。しかし、複雑なシステム統合と試験に時間を要し、最終的に1988年5月30日に就役した。建造費は約8億ドルとされている。

設計[編集]

本艦の設計は、STOVL機の効率的な運用に重点を置いている。飛行甲板は全長175.3メートル、幅29メートルで、前部には12度のスキージャンプ勾配が設けられている。これにより、搭載機のAV-8B ハリアー IIは、短距離での離陸能力が向上し、より多くの燃料や兵装を搭載して発艦することが可能となった。

航空機を格納するハンガーデッキは、全長103メートル、幅17.2メートル、高さ7メートルの広さを持ち、最大で29機の航空機を収容できた。エレベーターは2基装備されており、いずれも船体中央部に位置している。

機関は、ゼネラル・エレクトリック LM2500ガスタービンエンジン2基を組み合わせたCODOG(Combined Diesel or Gas)方式を採用し、1軸推進であった。これにより、最高速力は26ノットを発揮し、20ノットで6,500海里の航続距離を有していた。

搭載機[編集]

「プリンシペ・デ・アストゥリアス」の主な搭載機は、マクドネル・ダグラス(現ボーイング)製のAV-8B ハリアー II STOVL攻撃機であった。通常は12機のハリアーIIと、シコルスキー SH-3 シーキング対潜ヘリコプターやアグスタウェストランド AW101などの多目的ヘリコプターが搭載された。必要に応じて、最大29機の航空機を搭載することが可能であった。

ハリアーIIは、本艦の攻撃力の中核を担い、対地攻撃や制空任務に従事した。シーキングヘリコプターは、主に哨戒、対潜戦、捜索救難任務に使用された。

運用と活動[編集]

就役後、「プリンシペ・デ・アストゥリアス」はスペイン海軍の旗艦として、多くの演習や国際任務に参加した。

  • 湾岸戦争(1990年-1991年):直接的な戦闘には参加しなかったものの、NATOの多国籍軍の一員として、支援任務に就いた。
  • イージス艦との共同演習:アメリカ海軍のイージス艦との共同演習を通じて、多国籍での連携能力を向上させた。
  • コソボ紛争(1999年):NATOの作戦を支援するため、アドリア海に展開した。
  • 対テロ戦争2000年代には、対テロ戦争の一環として、地中海や大西洋における警戒監視活動に参加した。

本艦は、その生涯を通じて約250,000海里を航行し、スペイン海軍の国際的なプレゼンスを確立する上で重要な役割を果たした。しかし、その運用には多額の費用がかかることも課題であった。

退役[編集]

「プリンシペ・デ・アストゥリアス」は、スペイン海軍の財政的な制約と、艦の老朽化により、早期退役が決定された。2013年2月6日に正式に退役し、その後、売却または解体の検討が進められた。

最終的に、本艦は2017年トルコの解体業者に売却され、2017年9月までに解体が完了した。その役割は、後継艦であるフアン・カルロス1世に引き継がれた。「フアン・カルロス1世」は、多目的揚陸艦としての機能に加え、STOVL機の運用能力も有している。

豆知識[編集]

  • 「プリンシペ・デ・アストゥリアス」という艦名は、スペイン王位継承者の称号である「アストゥリアス公(Príncipe de Asturias)」に由来する。
  • 本艦の建造費用は、スペインのGDPの0.5%に相当すると言われていた。
  • 艦の退役時には、その保存を求める声も上がったが、維持費用や売却による財源確保の必要性から実現しなかった。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Jane's Fighting Ships
  • Naval Institute Press, "Combat Fleets of the World"
  • 海人社「世界の艦船」