ニホンオオカミ

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ニホンオオカミ
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: イヌ科 Canidae
: イヌ属 Canis
: タイリクオオカミ C. lupus
亜種 : ニホンオオカミ C. l. hodophilax
学名
Canis lupus hodophilax
Temminck, 1839
和名
ニホンオオカミ (日本狼)
ホンドオオカミ (本土狼)
ホンシュウオオカミ (本州狼)
英名
Japanese wolf
Honshu wolf

ニホンオオカミとは、かつて日本に生息していたオオカミである。

見た目[編集]

頭胴長は950~1290mmで、尻尾は27~40cm、後ろ足は24.5~25cm、耳介長は80~11.5cm、頭蓋骨は186~26.9cm[1]

オオカミの中で最も小型であった。

体色は、灰褐色で背が黒く、目の周りに淡色斑、前足前面に黒褐色の斑があった[2]

イヌに似ているが、体が細くて体毛が長かった。前足の指は5本、後足は4本で、前足の母指は地面につかない[1]

頭の骨は、小さく口先は短くて広い。前翼孔は2個である。

側頭窩の下部にある神経や血管が通っている小孔は、他のタイリクオオカミやイヌは5個だが、ニホンオオカミは6個である。

生態[編集]

本州四国九州で見ることが出来た。北海道には別の亜種の「エゾオオカミ」が生息していた。

主にニホンシカを食べ、馬を襲うこともあった。

2~10頭の群れで生活していた。

更新世の日本には、ニホンオオカミではない別のオオカミの仲間が生息していた。その巨大オオカミと、3万7千~1万4千年前にユーラシア大陸から来たオオカミが交雑してニホンオオカミが誕生した[3]

分類[編集]

1800年代前半に博物学者のシーボルトがニホンオオカミの剥製を動物学者テミンクに送り、テミンクが出版した「Fauna Japonica」でニホンオオカミを新種として発表した。

オオカミの中で遺伝情報的に最も犬に近いのは、ニホンオオカミである[4]

全ゲノム情報から、ニホンオオカミは単系統群であり、東アジアにいるオオカミの集団とは異なる独立の集団であるとされ、また、他のオオカミよりイヌに近いと分かり、犬とニホンオオカミは、共通祖先であるとする仮説が誕生した[5]

独立種か亜種か[編集]

ニホンオオカミは、タイリクオオカミの亜種説と独立種説がある。ニホンオオカミを記載したテミングは、記載時に独立種とした。

2014年、石黒直隆教授と松村秀一教授らは、ニホンオオカミのミトコンドリアDNAを北米や欧州のオオカミと比較した結果、タイリクオオカミの亜種とした。

ヤマイヌ[編集]

現在は、ヤマイヌはニホンオオカミの別名とされている。

然し、ニホンオオカミと別の種類であり、ニホンオオカミと区別するために「ヤマイヌ」と呼ばれていたという説や「ヤマイヌはニホンオオカミと犬の雑種である」という説もある。

シーボルトが持って帰った骨格標本の内、2つはヤマイヌのものであり、シーボルトは形状や行動からニホンオオカミとヤマイヌは別種と考えていた。

絶滅[編集]

ニホンオオカミが絶滅の原因した理由は、人間による狩猟と狂犬病やジステンパーなどの伝染病であるとされる。

最後の個体は、1905年1月に奈良県鷲家口で発見された個体もしくは、1910年8月福井県福井市福井城跡で発見された個体である[6]

後者の個体は、動物園から脱走したチョウセンオオカミとされていたが、残された写真や記録から2004年にニホンオオカミであったとする説が出た。この個体は剥製にされたが、戦災で焼失してしまっている。

現存する標本[編集]

毛皮[編集]

毛皮は、ベルリン自然史博物館、ロンドン自然史博物館に保管されている。

ロンドン自然史博物館
最後の個体の毛皮が保存されている。
ベルリン自然史博物館
毛皮の保存状態が良いとされる。

剥製[編集]

剥製は4つしか残っていない。剥製は国立科学博物館や東京大学農学部、和歌山県立自然博物館、オランダのライデン国立自然史博物館で保管されている。

ライデン国立自然史博物館の剥製
ニホンオオカミの模式標本。
江戸時代にシーボルトが大阪の動物商から購入したものであると言われている。
国立科学博物館の剥製 (NSMT-M100)
上野本館内で常設展示されている。
国立科学博物館の剥製2 (動物学)
ヤマイヌとして貯蔵されていたが、2024年にニホンオオカミである可能性があるとされた[7]
和歌山県立自然博物館の剥製
元々は、和歌山大学が所蔵していたもので、1881年大台山系で捕獲された個体を剥製にしたもの[8]
当初は正体不明のイヌ科とされていたが、1981年に頭蓋骨が取り出され、ニホンオオカミであると判明した[9]
東京大学農学部の剥製
東京大学岩手県の業者から購入したもので、農学部森林動物学教室で保管されていた。
この剥製になった個体は岩手県産のニホンオオカミで、それ以外の情報は不明である[10]

骨格標本[編集]

Jentink a (RMNH.MAM.39182)
シーボルトが持ち帰った3つの頭蓋骨の内の一つ。
頭蓋最大長は209.5mm。
Jentink b (RMNH.MAM.39183)
シーボルトが持ち帰った3つの頭蓋骨の内の一つ。ニホンオオカミのパラレクトタイプ標本
頭蓋最大長は223mm。
いわゆるヤマイヌの骨格標本とされる。
Jentink c (RMNH.MAM.39181)
シーボルトが持ち帰った3つの頭蓋骨の内の一つ。ニホンオオカミのレフトタイプ標本。
頭蓋最大長は186mm。
B同様、ヤマイヌの骨格標本とされる。

脚注[編集]

脚注
出典
  1. a b 子安和弘、織田銑一「オオカミ Canis lupus Linnaeus」、『レッドデータブックあいち2020 哺乳類』、愛知県、2020年、 63頁。
  2. 東吉野村とニホンオオカミ”. 東吉野村. 2023年2月20日確認。
  3. 【国立科学博物館】ニホンオオカミの起源を解明”. RPTIMS. 2023年7月26日確認。
  4. “ニホンオオカミ、犬に最も近く…共通の祖先から東アジアで枝分かれか”. www.yomiuri.co.jp. (2021年11月27日. https://www.yomiuri.co.jp/science/20211127-OYT1T50132/ 2023年7月26日閲覧。 
  5. 寺井洋平「全ゲノム情報から知るニホンオオカミ」、『哺乳類科学』第63巻第1号、日本哺乳類学会、2023年、 5-13頁、 doi:10.11238/mammalianscience.63.5
  6. “ニホンオオカミ絶滅後に姿/写真や農場記録で再分析”. www.shikoku-np.co.jp. (2004年2月28日. http://www.shikoku-np.co.jp/national/science_environmental/20040228000435 2023年7月26日閲覧。 
  7. 小森日菜子、小林さやか、川田伸一郎「国立科学博物館所蔵ヤマイヌ剥製標本はニホンオオカミ Canis lupus hodophilax か?」、『国立科学博物館研究報告A類』第50巻第1号、国立科学博物館、2024年2月22日、 33-48頁、 doi:10.50826/bnmnszool.50.1_33
  8. ニホンオオカミ”. 和歌山県立自然博物館. 2013年4月13日時点のオリジナル(リンク切れ)よりアーカイブ。2023年10月6日確認。
  9. “世界に4体、ニホンオオカミの剥製県立自然博物館で展示 31日まで”. www.sankei.com. (2019年1月13日. https://www.sankei.com/article/20190113-CCPHJHIHQ5IGZCFH42A6DL3FCI/ 2023年2月20日閲覧。 
  10. 絶滅したニホンオオカミ展」開催──上野 2006/01/27”. 動物ズーネット. 2023年10月6日確認。