トンネル (ベルンハルト・ケラーマンの小説)
『トンネル』(ドイツ語: Der Tunnel)は、1913年4月に出版されたベルンハルト・ケラーマン(Bernhard Kellermann、1879年 - 1950年)のSF小説。
概要[編集]
出版後6か月で10万部を売り上げ、1939年までの発行部数が数百万部に達する20世紀前半に最も売れた作品の1つである。
日本の漫画家・手塚治虫が本作を絶賛しており、「SFベスト作品を挙げるようにいわれれば、本作を十指のなかに入れることにいささかもためらいはない」と述べている[1]。また、本作にヒントを得たような手塚漫画も多い。
あらすじ[編集]
青年技師マック・アランには、大西洋の海底に北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸とを結ぶ大陸間トンネルを建設し、両大陸を24時間で走行する「大西洋横断海底トンネル超特急プロジェクト」を実現するという夢があった。
大銀行家ロイドの協力を仰ぎ、投資家たちからも資金を集めることに成功したアランは、18万人の労働者を動員した人類史上かつてないプロジェクトを開始する。
トンネル建設には、いくつもの困難が襲い掛かった。爆発事故、株式の取りつけ騒ぎ、労働者たちの暴動。アランは世界中からの憎悪を集めることにもなった。
26年の歳月をかけて、ついにトンネルは完成する。しかし、トンネルは開通と同時に時代遅れと化してしまった。飛行機が数時間で大西洋を横断できるの時代になっていたのだった。
評価[編集]
上述のように本作の出版は好評をもって迎えられたと言える。1915年には英語訳されたものが、イギリス、アメリカ合衆国からそれぞれ出版されている。
また、本作は1930年前後に起きた世界恐慌を予見しているとともに、本作の世界では第一次世界大戦(1914年 - 1918年)は起こっていない世界となっている。
そして、実際に飛行機による大西洋航路は確立されている現在を予見しており、(本作でのトンネル工事技術が素晴らしくとも)技術は必ず時代遅れになるという批判的な内容となっている。
手塚治虫による評[編集]
手塚治虫は本作のプロットを「荒唐無稽で子どもじみたもの」とする一方で、「綿密な構成とたたみかけるような話術」とで読ませる作品であるとする[2]。
ケラーマンはドイツ人であるが、本作の主人公はアメリカ人であり、古きよき時代のアメリカを代表するような熱血漢の主人公に大資本家が加担し、主人公の恋人や恋敵が現れるといったストーリー構成は、第二次世界大戦前のハリウッド映画の骨組みそのままであると指摘している[2]。これに加え、狂気のように突貫していくトンネル工事、落盤事故や工事中のトンネル内への浸水の恐怖に充ちた描写が秀逸である[2]。この場面では主人公たちは影をひそめて、群衆が主導権を握り、パニックと自然の脅威を念入りに描写している[2]。
上述のように手塚治虫は本作に(本作だけではないが)強い影響を受けており、以下のような作品に影響が見られる。
- 地底国の怪人 - 1948年の漫画。当初、手塚はタイトルを「トンネル」にしようとしたが、出版社の強い要望で改題となった[2]。登場人物の名前も本作の登場人物名を流用している[2]。
- 吸血魔団 - 1948年の漫画。ヒロインの名前「モオド」は、本作の主人公マック・アランの妻の名前[2]。
- 海底超特急マリンエクスプレス - 1979年放映のアニメ作品、原案・総監督は手塚治虫。太平洋横断海底特急を舞台とする。本作がアイデアのもとなっていることを手塚はエッセイで述べている[3]。
映画化[編集]
本作を原作として、以下のように4本の映画が製作されている。
- Der Tunnel - 1915年のドイツ無声映画。William Wauer監督。Friedrich Kayssler主演。
- アドルフ・ヒトラーは本作の「演説で労働者階級を鼓舞する」主人公に魅了されたと述べている。
- Der Tunnel - 1933年のドイツ映画。カーティス・バーンハート(クルト・ベルンハルト、Curtis Bernhardt)監督。パウル・ハルトマン(Paul Hartmann)主演。
- Le Tunnel - 1933年のフランス映画。カーティス・バーンハート監督。ジャン・ギャバン(Jean Gabin)主演。
- 1933年のドイツ語、フランス語の各映画、監督は同じ、セットは使いまわしであり、使いまわして各国語の映画を撮影するのは、当時は珍しいことではなかった。
- The Tunnel - 1935年のイギリス映画。アメリカ公開時は「Transatlantic Tunnel」と改題された。Maurice Elvey監督。Richard Dix主演。
日本語訳[編集]
1930年に秦豊吉翻訳による翻訳本が新潮社の世界文学全集から刊行されている。
2020年には国書刊行会から新書版として再版。再版は速水螺旋人が装画を描いている[1]。
脚注[編集]
外部リンク[編集]
- トンネル - 国書刊行会