ツーオンアイス
『ツーオンアイス』(英語: Two on ice)は、逸茂エルクによるフィギュアスケート(ペアスケーティング)を題材にした漫画[1]。フィギュアスケート監修を高橋成美[注釈 1]が務めている[1]。
概要[編集]
『週刊少年ジャンプ』(集英社)において、2023年43号(2023年9月25日発売)[2]から2024年20号[3]まで連載された。全28話[3]。単行本は全4巻。単行本4巻には描き下ろしの後日談が収録されている。
日本の漫画界ではフィギュアスケートを題材にした漫画作品自体が少ない[1]。その中でもなかで、ペアスケーティング(ペア)を題材にした漫画は、さらに少ない[1]。
実際、日本においてはフィギュアスケートそのものの人気は高く競技人口も多いが、ペアの競技人口は少ない。本作においては編集側から「ペア人気の高い並行世界」というアイデアも提出されたが、それはそれで現実のペア競技者にも失礼にあたるということで、現実と同じように競技人口が少なく、シングルよりも「下」に見られている競技として描かれている。日本国内でのペア選手層が薄いのは漫画作品内でも「東日本フィギュアスケート選手権大会」でのペア参加が2組で、出場と全日本選手権の出場がイコールになっていることとして描かれているが、実際にも選手権に出場するようなペアは日本では3組である(2024年時点)[1]。
タイトルはシンプルに第二幕のサブタイトルでもある「氷上の2人」の意味もあるが、作中で綺更&隼馬ペアが使用する音楽「Atlas:Two」[注釈 2]にも由来する。この「Two」は単に「2人」や「2番目」ではなく、エニアグラム人格診断における「タイプ2」、すなわち、自己犠牲を厭わずに他者を助けようとする「GIVER・HELPER」を表している。
あらすじ[編集]
峰越隼馬は、フィギュアスケートの大会で圧倒的な演技を披露する天才少女・早乙女綺更を見て、憧れ、綺更のビデオを見つつ独学でスケートを始めた。しかし1年後、綺更は突然姿を消し、大会にも出場しなくなってしまう。
3年後が経ち、中学3年生になって東京に引っ越してきた隼馬は綺更と再会する。隼馬は男子シングルの大会「霧島杯」に出場し、その実力を発揮したことで正式に綺更と正式にペアを結成する。
綺更がペア転向の要因となった空天雪は日本の男子シングル界トップスケーターだった。天雪と会って隼馬も恐怖することになる。隼馬は天雪への恐怖を克服するために、自身がリフトしてもらうことで、女性選手の視点に気付き、ついにはサイドバイサイド[注釈 3]でのトリプルアクセル[注釈 4]にも成功する(作中では、世界初となる)。
2022年北京オリンピックが開催され、日本からはベテランの秦冴&漢見寵児ペアが日本代表選手となったが10位に終わる。シングルのほうでは天雪が圧倒的な「芸術」を見せつけ制覇する。そんな天雪を見て隼馬も決意を新たにする。
北京オリンピック後、天雪がペア転向を宣言したことで、日本のフィギュア界の空気は一変することになる。
綺更&隼馬ペアはデビュー戦として「東日本フィギュアスケート選手権大会」にエントリーした。ペア競技の参加は2組だけなので、全日本選手権への出場は確約。しかし、東日本に出場するもう1組は同じくデビュー戦となる氷室操&天雪ペアであった。ショートプログラムで操もミス無く滑ったが、操が3回転したジャンプで天雪は4回転する(ペアの規定上、得点は3回転のみが考慮される)など全てにおいて高い技量を見せつける天雪といったユニゾンを無視した構成に高得点ではあるものの、シングルの天雪にしては低い点数といった結果だった。一方の綺更&隼馬ペアはペアとしては史上初の3回転半[注釈 5]を披露する。操&天雪ペアはフリープログラムを辞退し、綺更&隼馬ペアは初出場・初優勝を飾った。
その年・12月の全日本大会。天雪ペアを見越して地上波での生放送枠を確保していたテレビ局であったが、「(現時点で)世界唯一のペア3回転半」を飛ぶ綺更&隼馬ペアを見込んだ若手ADたちの強い推挙もあって、放送枠はそのままで開催される。
登場人物[編集]
「声」はボイスコミックでの担当声優。
- 峰越 隼馬(みねこし はゆま)
- 声 - 天﨑滉平
- 北海道生まれ。小学生の頃に東京の大会で見た同世代の綺更に憧れ、独学でフィギュアスケートを始めた。冬期になると深夜に家を抜け出しては明け方まで学校の校庭に水を張って凍らせたスケートリンクで独自練習を繰り返した。りフィギュアスケートの手本は綺更の演技を映したビデオであり、悪い癖を含めて綺更の演技内容やタイミングを覚えている。仮ペアのお披露目大会では3回転半を2人で跳んで着氷失敗するが、転倒時の姿勢も2人同じであった。
- ただし、基礎練習などもやっておらず、コーチが付いていたわけでもないので、技量は伴っていない。演技についても隼馬本人は完璧と思ってみても、実際には脚を上げる高さが足りなかったりしていた。
- ペアをやるか、男子シングルを行うかを賭けて出場した霧島杯では綺更と同じ内容のプログラムで挑む(プログラムそのものは綺更が小学校時代の大会で披露したものに同じ)。その結果、綺更と2人でこの先を歩むことを決め、ペア専業を決める。
- ペアとしては、動きがそろった「ユニゾン」が売り。
- ときおり北海道訛りが出るが本人は気付いていない。また、「気温マイナス15℃までなら(屋外でスケート練習していても)生きて帰れる」と発言し、天雪も含めて周囲をドン引きさせている。
- 中学卒業後は練習時間確保のため、通信制の高校に入学している(綺更も同じく)。上述のように幼い頃やシングルの実績が無いため、マスコミなどからは「謎の野良スケーター」扱いされている。
- 早乙女 綺更(さおとめ きさら)
- 声 - 石川由依
- 小学校5年生時に4回転ジャンプを跳んだこともあり「天才少女」とも呼ばれていた。一般的に女子フィギュア選手は成長して身体が大きくなり体重が増えるとジャンプや回転の演技ができなくなる。綺更も例外ではなかったが、あこがれの男子選手「たっくん(天雪のこと)」に言われてペアを志望するようになる。
- スケート界から姿を消したのはペア転向を志望したことで、常呂の反感を買いフィギュア界を実質追放されたためである。
- 空 天雪(そら たかゆき)
- 日本のトップスケーター。日本の男子シングル1位であり、全日本選手権4連覇を果たしている。北京オリンピック日本代表選手。
- 北京オリンピックで男子シングルをショートとフリー、どちらも1位の金メダル獲得で制覇した後、ペアに転向宣言を行い、次の2026年ミラノ・コルティナダンペッツォオリンピックへの参加を目標とすることを公言する。
- 作中のファンからは「ユキ様」と呼ばれ、各種グッズも多数販売されている。
- 4回転半を跳びながらも、ペアでデススパイラルをこなすという驚異的な身体の持ち主。
- 幼いころ、1人辞め、2人辞めし、最後に残った男子ということで女性に性的いたずらをされたことで、女性全般に嫌悪感を抱くようになっている。直後、大泣きしているところをロランに見つかり、ロランの勧め(ロランは事情は聴かなかった)もあって東京のスケートチームへと移籍する。女性に嫌悪感を抱いていることは、コーチであった常呂には見抜かれていた。また、後述の優雨子にも見抜かれている。
- 綺更が常呂の指導を受けていたこともあり、その綺更の真似から入った隼馬も天雪と演技の傾向が似ている。そのため、隼馬は純粋に向上心から天雪にアドバイスを求めに行くのだが、天雪は心底イヤそうにしている。
- 監修を務めている高橋のお気に入りキャラクターであるが、ペアの相手としては選びたくないとのこと[1]。
- 常呂 美沙緒(ところ みさお)
- 天雪のコーチ。シングル至上主義者。業界への影響力も強く、どこの団体も常呂に配慮して、ペア転向を志望した綺更に声を掛けなかった。
- 天雪は「海外(カナダ)での自主トレ」とだけ告げて、密かにペアの練習を行っていた。北京オリンピック前に天雪から解任され、天雪が独自の構成、振り付けで結果を出したことによって日本スケート界への影響力を大きく落とす。これは綺更のペア復帰にあたって、常呂の影響を憂慮していたことへの朗報ともなった。
- 氷室とのペア解消をした天雪に対し、「神の子」はペアを組んでも「人」にはなれないと諭し、シングルに戻ることを勧める。
- 氷室 操(ひむろ あや)
- 元は女子シングルの選手であったが、身体が軟らかく、身長が148cmと小柄なため、周囲からペア転向を勧められていた。トライアウトを経て天雪のペアパートナーとなる。マスコミからは「シンデレラガール」ともてはやされる。
- 天雪が選んだ理由は技量や相性ではなく、「いかにも」な女性であり、他の女性ファンから憎まれやすいことを見越してのこと。
- 「公開処刑」状のデビュー試合後、ペア解消となり、天雪への復讐を誓う。後に、ロランの弟・アランと組んでペアに復帰することが単行本のキャラクター紹介で語られている。
- 暁星 優雨子(あけぼし ゆうこ)
- 天雪についての街頭インタビューで「観客席の女性ファンをときおり“ゴミ”を見るような目つきをするのがたまらない」と答えたことで、作中世界ではネットミームにもなっており、「ゴミ女」と作中世界でも通称されている天雪の大ファン。
- 大学時代は女子シングルのフィギュア選手であったが地方大会6位くらいで全国大会は未出場。そういった実績から、天雪ペア選考のトライアウトは書類選考で落選。
- 操と天雪のデビュー戦直後に、天雪の意図(操の「公開処刑」)に気付いて会場に駆けつけ、警備を突破し、天雪に「私はあなたの信者です」と接触する(その後は警察へ)。
- スケートの技量は上述のように凡庸なものであるが、過去に天雪がシングルで披露した演技については神がかり的なユニゾンを披露する。後に天雪のペア相手となることが語られている。「神の子と信者」から「人と人」との関係になれるのかが、最終話以降の部分のストーリー構想の1つとなる。
- 富士原 ロラン(ふじわら ロラン)
- 日本の男子シングル2位。天雪より年上。天雪と違って、かなり気さくで、頼まれれば着ぐるみを着ることも。
- 北京オリンピックにも日本代表として参加しており、ショートプログラムでは6位。しかし、フリースケーティングで重圧と会場の雰囲気に飲まれ大きく点を落とし、11位に終わった。
- イギリス、フランスの血を引くクォーターで、隼馬たちと同世代の弟・アラン[注釈 6]もフィギュアスケーターである。
- ペア選手
- 女性、男性の順で記す。日本国内で大会に出場する選手は以下の5組で全てであり、綺更と隼馬のお披露目では「6組目」とされていた。
- 霧島 夏日(きりしま なつひ)、霧島 夏夜(きりしま なつや)
- 現役選手であり、綺更と隼馬のコーチでもある。双子の兄妹でともに20歳。
- 日本のフィギュアスケート界を支えるキリシマグループの御曹司。
- 夏日は身長170㎝、夏夜は身長190cmとどちらも高身長。夏日は普段は眼鏡をしている。夏夜は筋肉質の身体をしており、脱いだらすごい。
- 夏夜はキリシマグループのキリンを模したマスコットキャラクター・「キリングくん」の着ぐるみの中の人もやっている。高校時代に夏日に大怪我をさせたこともあり、ペア演技の安全性には厳しい。
- 浅倉 結仁(あさくら ゆに)、 鈴枝 虎太郎(すずえ こたろう)
- 大学生ペア。ペア選手としては霧島兄妹と同期。虎太郎は通称「とら」。関西出身で隼馬の初関西人体験ともなった。
- 結仁は綺更や天雪とも面識がある。
- 恋人だったこともあり(虎太郎が振られた形)、恋人的な表現力が高い。
- ペア練習を始めて、男女を意識してしまう隼馬にアドバイスを与える形として、霧島兄妹から紹介された。最終話の全日本大会では虎太郎の失敗もあって最下位だったらしい。
- 三木 ことり(みき ことり)、我妻 丈(わがつま じょう)
- ツイストリフト[注釈 7]は世界クラス。
- 我妻が年上ということもあり、年の離れた兄妹的なペア。我妻は日本のペア選手としては、秦冴に注ぐキャリアを持っているが、ことりの相手に育児ノイローゼ気味でもある。冴の引退後は、我妻がペア現役選手最高齢となる。
- ことりは綺更より年上。島根県出雲地方出身で訛りがある。また、ひどいガニ股が直らない。
- 秦 冴(はた さえ)、漢見 寵児(あやみ ちょうじ)
- 冴が28歳。寵児は25歳。冴は人材皆無な日本ペア界を13年に渡って支えてきたベテラン選手。日本国内にペアの相手選手がいない時にも海外から選手を招聘してペア専任でやってきた。こういった事情もあり、他の日本ペアからは総じて慕われている。
- 2021年全日本選手権チャンピオンで、2022年北京オリンピック日本代表選手。オリンピック後に冴は引退する。
- 冴は既婚者で、夫・フェデリコ[注釈 6]はかつての操のパートナーでもあり、現在はコーチ。日本に帰化済み。
- 寵児は冴のペア相手としては5人めで、自己肯定感がいまいち低い。
- 夏日&夏夜ペアは世界選手権にも出場する現役選手とあって多忙なため、デビュー戦以降の綺更&隼馬ペアのコーチを行う。
- 第1話の時点では想定されていなかったキャラクターで、「ベテラン」を作中に登場させる必要から作られたキャラクターであるが、登場すると重要なポジションになった[1]。
使用楽曲[編集]
作中でフィギュアスケートで使用された楽曲を記す。
- 道~ラ・ストラーダ - 1954年のイタリア映画『道』(フェデリコ・フェリーニ監督)主題曲。髙橋大輔が2010年世界フィギュアスケート選手権、2010年のバンクーバー冬季オリンピックで使用した楽曲としても知られる。作中では秦&漢見など複数のペアが使用している。
- Atlas:Two - Sleeping at Lastの楽曲。上述。綺更&隼馬ペアが使用。
- シンデレラのワルツ - ディズニーのアニメ映画の曲ではなく、ソビエト連邦の作曲家セルゲイ・プロコフィエフが作曲したバレエ音楽。操&天雪ペアが使用。
監修内容[編集]
当初は、漫画で描かれている足の角度をチェックしたりする程度であったが、逸茂が(スケートで)一歩を進み出した時に進める距離といった細かいところを聞いてくることもあり、だんだんと高橋も入り込むようになり、スケートリンクに行って高橋自身で実験や検証をしたり、高橋の周囲にリサーチを行うようになった[1]。
脚注[編集]
注釈[編集]
- ↑ 元フィギュアスケーター。2012年世界選手権ペア3位[1]。2014年ソチピンピック日本代表選手[1]。
- ↑ Ryan O'Nealの音楽プロジェクト「Sleeping At Last」の楽曲。三浦璃来と木原龍一ペアが2022年から2023年にフリースタイルの曲として使用している。
- ↑ 2人の選手が隣り合った位置で同じ技を行なうこと。
- ↑ 半回転多いジャンプをアクセルジャンプと呼ぶ。前向きからジャンプして後ろ向きに着氷することになる。トリプルアクセルは「3回転半ジャンプ」。
- ↑ 採点では1/4回転不足で、厳密に成功したとは言い難い。
- ↑ a b 作中は未登場。
- ↑ 男性選手が女性選手を投げ上げて、女性選手は空中で回転。その女性選手を男性選手がキャッチして着氷する技。
出典[編集]
外部リンク[編集]
- 『ツーオンアイス』逸茂エルク - 少年ジャンプ公式サイト