ZSU-23-4M シルカ 自走高射機関砲
ZSU-23-4 “シルカ”(露: ЗСУ-23-4 «Ши́лка»)は、ソビエト連邦が開発した自走式対空砲である。「シルカ」という愛称は、ロシアのシベリアを流れるシルカ川に由来する。ソ連製の自走対空砲としては、初めて射撃管制レーダーを搭載し、全天候・昼夜間を問わない運用能力を獲得した。
開発経緯[編集]
第二次世界大戦後、航空機の高速化と低空侵攻能力の向上に伴い、従来の対空機関砲や高射砲だけでは対応が困難になっていた。ソ連軍は、戦車部隊に随伴し、移動中に敵航空機から防護できる新たな自走式対空兵器の開発を求めた。
1957年、ソ連軍は新たな自走対空砲の開発要求を提示した。これに対し、ムィティシ機械製造工場(MMZ)は、軽戦車であるPT-76の水陸両用シャーシをベースに、23mm機関砲4門とレーダーを組み合わせたシステムの開発に着手した。当初、23mm機関砲の代わりに37mm機関砲を搭載する案も検討されたが、火力と弾薬搭載量のバランスから23mm砲が選択された。
開発は順調に進み、1960年には試作車が完成。広範な試験の後、1962年にZSU-23-4としてソ連軍に採用され、1964年から量産が開始された。
構造と特徴[編集]
ZSU-23-4は、密閉式の全溶接構造の車体に、大型の砲塔を搭載している。車体はBMP-1歩兵戦闘車のシャーシをベースにしたものとされることが多いが、実際にはPT-76軽戦車の車体を延長・改設計したものである。
武装[編集]
主武装は、4門の2A7 23mm機関砲である。この機関砲は、毎分約1,000発の発射速度を持ち、4門合計で毎分4,000発という非常に高い発射速度を誇る。有効射程は2,500m、有効射高は1,500mとされている。弾薬は、HEI(高性能炸薬焼夷弾)とAPI(徹甲焼夷弾)の2種類が使用可能で、合計2,000発を搭載する。砲塔の俯仰角は-4度から+85度まで対応し、低空を飛行する航空機や、地上目標に対しても射撃が可能である。
射撃管制システム[編集]
ZSU-23-4の最大の特徴は、当時としては画期的な射撃管制システムである。砲塔後部に搭載された「イズムルード」(Emerald)と通称されるRATOレーダーは、索敵と追跡の両方の機能を持つ。レーダーは周囲を360度走査し、目標を捕捉すると自動的に追尾を開始する。レーダー情報は射撃管制コンピュータに送られ、目標の速度、方向、距離を計算し、機関砲の射撃に必要な諸元を自動で修正する。
このレーダーは、捜索モードと追跡モードの2種類のモードを持つ。捜索モードでは最大20kmの範囲を走査し、追跡モードでは目標を自動的に追尾し、射撃に必要なデータを供給する。ただし、レーダーは高出力のため、電磁波探知装置による逆探知のリスクや、地形の影響を受けやすいという欠点もあった。そのため、光学照準器も併用される。
装甲[編集]
ZSU-23-4の装甲は、軽度の小火器や砲弾の破片に対する防御を目的としたものであり、対戦車攻撃に対する防御力は低い。最大で15mm程度の厚さの圧延鋼板が使用されている。
機動性[編集]
車体はPT-76のシャーシをベースとしているため、不整地における高い機動性を有する。エンジンはV-6R液冷ディーゼルエンジンを搭載し、路上での最大速度は50km/h、航続距離は450kmである。
派生型[編集]
ZSU-23-4は、その運用期間中に様々な改良型が開発された。
- ZSU-23-4V:初期生産型。
- ZSU-23-4V1:マイナーチェンジ型。
- ZSU-23-4M “ビリュサ”(Бирюса):レーダーシステムを改良し、信頼性を向上させた型。
- ZSU-23-4M2:アフガニスタン紛争での運用経験に基づき、夜間戦闘能力を向上させた型。レーダーを撤去し、夜間照準装置を追加した。
- ZSU-23-4M3 “ジュグラフ”(Журавль):デジタルコンピュータと新型レーダー、レーザー測距儀を搭載し、目標捕捉能力と射撃精度を大幅に向上させた近代化改修型。
- ZSU-23-4MP “ベールイ”(Berya):イグラ携行式地対空ミサイル発射機を追加搭載した型。機関砲とミサイルの両方で目標を迎撃できる。
- ZSU-23-4M4 “マングース”(Mongoose):ウクライナが開発した近代化改修型。デジタル化された射撃管制システム、新型レーダー、熱線暗視装置、GPSなどを搭載。
- ZSU-23-4M5:ベラルーシが開発した近代化改修型。新型レーダーと光電子追尾システムを搭載。
- ZSU-23-4MPR “パンディール”(Pandir):ポーランドが開発した近代化改修型。新型のデジタル式射撃管制システムと夜間照準装置を搭載。
戦歴[編集]
ZSU-23-4 “シルカ”は、その登場以来、世界各地の紛争で使用され、その有効性を証明してきた。
ベトナム戦争[編集]
ベトナム戦争において、北ベトナム軍はソ連から供与されたZSU-23-4を効果的に運用し、アメリカ軍の戦闘機や攻撃機に大きな損害を与えた。特に、低空を飛行するヘリコプターや地上攻撃機に対して高い迎撃能力を発揮した。
中東戦争[編集]
中東戦争においても、ZSU-23-4はエジプト軍やシリア軍によって使用され、イスラエル空軍機に対して有効な防空網を形成した。特に、第四次中東戦争(ヨム・キプール戦争)では、その高い発射速度とレーダーによる精密射撃が、イスラエル空軍に大きな脅威を与えた。
アフガニスタン紛争[編集]
アフガニスタン紛争 (1978年-1989年)では、ZSU-23-4は本来の対空任務だけでなく、ムジャーヒディーンのゲリラに対する地上支援火器としても多用された。高仰角での射撃が可能なため、山岳地帯の隠れた敵陣地を攻撃するのに効果的であった。しかし、その高価さや、対空ミサイルと比較した際の射程の短さから、対空任務における重要性は次第に低下していった。
その他の紛争[編集]
イラン・イラク戦争、湾岸戦争、チェチェン紛争、イラク戦争、シリア内戦、そして2022年ロシアのウクライナ侵攻など、多くの紛争でZSU-23-4が使用され続けている。特に、低空脅威に対する有効な兵器として、現在でも多くの国で現役で運用されている。
運用国[編集]
ZSU-23-4は、ワルシャワ条約機構加盟国を中心に、ソ連の友好国に広く輸出された。現在でも多くの国で運用されている。
- アフガニスタン
- アルジェリア
- アンゴラ
- アルメニア
- アゼルバイジャン
- ベラルーシ
- ブルガリア
- カンボジア
- キューバ
- チェコ共和国
- エジプト
- エチオピア
- フィンランド
- ドイツ(統一前は東ドイツ)
- ハンガリー
- インド
- イラン
- イラク
- イスラエル(鹵獲したものを運用)
- カザフスタン
- ラオス
- リビア
- モザンビーク
- 北朝鮮
- パキスタン
- ペルー
- ポーランド
- ルーマニア
- ロシア
- セルビア
- スロバキア
- シリア
- ウクライナ
- ベトナム
- イエメン
豆知識[編集]
- ZSU-23-4は、その特徴的なレーダーの形状から、西側諸国では「ゲシュタポ」というあだ名で呼ばれることもあった。
- その高い発射速度と特有の射撃音から、兵士たちの間では「シャワー」や「じょうろ」とも呼ばれた。
- ZSU-23-4が装備する23mm機関砲は、航空機用の機関砲を転用したものである。
- アフガニスタン紛争では、ZSU-23-4の強力な火力は、隠れた敵部隊を掃討するのに非常に効果的であった。しかし、本来の用途である対空戦闘での使用は、FIM-92 スティンガーなどの携行式地対空ミサイルの登場により、難しくなっていった。
関連項目[編集]
- 対空砲
- 自走砲
- 機関砲
- PT-76 - ZSU-23-4のベースとなった軽戦車
- BMP-1歩兵戦闘車 - しばしばZSU-23-4のベースと誤認される車両
- 2S6ツングースカ - ZSU-23-4の後継機
- ゲパルト自走対空砲 - 西ドイツの同世代の自走対空砲
参考文献[編集]
- Jane's Armour and Artillery
- 『世界の軍用車両 1945-2000』 大日本絵画
- 『ソ連/ロシア陸上兵器』 グランドパワー別冊