T-34 メンター
T-34 メンター(英語: T-34 Mentor)は、米国のビーチクラフト社が開発した単発レシプロ練習機である。米国海軍などで広く採用され、その派生型は多くの国々で運用された。
開発経緯[編集]
T-34メンターの開発は、第二次世界大戦後、米国海軍が第二次大戦中に使用していた旧式の練習機を代替する新しい練習機を求めたことに端を発する。ビーチクラフト社は、自社のベストセラー機であるビーチクラフト ボナンザの設計をベースに、タンデム(縦列)式のコックピットを備え、より堅牢な構造を持つ練習機を提案した。
最初の試作機は1948年に初飛行し、良好な飛行性能を示した。これにより、米国海軍は本機をT-34として採用することを決定した。当初は陸上基地からの運用を想定したT-34Aが開発され、後に空母での運用を視野に入れたT-34Bが開発された。
機体と特徴[編集]
T-34は、低翼単葉の機体にレシプロエンジンを搭載した単発機である。主要な構造はアルミニウム合金製で、頑丈で整備しやすい設計となっている。コックピットは前席に訓練生、後席に教官が搭乗するタンデム配置を採用しており、良好な視界を確保している。
初期のT-34AおよびT-34Bは、コンチネンタルO-470レシプロエンジンを搭載しており、高い信頼性と十分な出力を有していた。後に開発されたターボプロップエンジン搭載型であるT-34Cは、より強力なプラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6Aエンジンを搭載し、性能が大幅に向上した。
飛行特性は素直で安定しており、新人パイロットの訓練に適していると評価された。また、簡単な曲技飛行も可能であり、訓練の幅を広げることができた。
運用国と歴史[編集]
T-34は、主に米国海軍と米国空軍で基本練習機として長年にわたり使用された。米国以外にも、日本、カナダ、アルゼンチン、チリ、メキシコ、フィリピンなど、世界中の多くの国々で採用された。
航空自衛隊では、T-34Aが1950年代から1970年代にかけて初等練習機として運用された。その信頼性の高さから、多くの航空自衛隊パイロットの育成に貢献した。
また、一部の国では武装を施したCOIN(対反乱)機としても使用され、軽攻撃任務にも投入された。現在でも、多くのT-34が民間機として飛行しており、その堅牢性が示されている。
派生型[編集]
- YT-34:試作機。3機製造。
- T-34A:米国空軍向け生産型。初期生産型。
- T-34B:米国海軍向け生産型。空母着艦訓練に対応するため、構造強化や着陸装置の改良が行われた。
- YT-34C:ターボプロップエンジン搭載型試作機。
- T-34C ターボメンター:ターボプロップエンジンを搭載した発展型。出力が向上し、性能が大幅に向上した。
- T-34C-1:武装型。軽攻撃能力を持つ。
- T-34N:民間型。
- その他各国でのライセンス生産型:一部の国でライセンス生産された。
仕様(T-34C ターボメンター)[編集]
- 乗員: 2名
- 全長: 8.75 m
- 全幅: 10.00 m
- 全高: 3.04 m
- 翼面積: 16.7 m²
- 空虚重量: 1,340 kg
- 最大離陸重量: 1,950 kg
- エンジン: プラット・アンド・ホイットニー・カナダ PT6A-25 ターボプロップエンジン × 1
- 出力: 715 shp (533 kW)
- 最大速度: 400 km/h
- 巡航速度: 290 km/h
- 航続距離: 1,300 km
- 実用上昇限度: 7,600 m
- 上昇率: 8.1 m/s
豆知識[編集]
T-34 メンターは、その信頼性と操縦の容易さから、多くの航空ショーでアクロバット飛行チームの機体としても使用されている。また、一部の機体は「ウォーバード」として民間オーナーによって維持され、飛行可能な状態で保存されている。
関連項目[編集]
- ビーチクラフト ボナンザ - 開発のベースとなった機体。
- 富士 T-3 - 航空自衛隊でT-34Aの後継として開発された練習機。
参考書籍[編集]
- 『ミリタリーエアクラフト年鑑』イカロス出版