重装甲偵察車 Sd.Kfz.234
Sd.Kfz.234(ドイツ語: Sonderkraftfahrzeug 234、特殊車両234)は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍が使用した重装甲偵察車である。高い機動性と強力な武装を兼ね備え、特に北アフリカ戦線や東部戦線で偵察任務や前衛任務に投入された。
開発[編集]
Sd.Kfz.231シリーズの後継として、クルップ社が新型重装甲偵察車の開発に着手したのは1940年のことであった。当時のドイツ軍は、従来の装甲偵察車が抱えていた路上での高速性や不整地走行能力の不足を認識しており、これらの問題を解決する車両を求めていた。
新型車両には、当時のドイツ軍の主力であったSd.Kfz.231の弱点である路上での低速性、不整地走行能力の不足、そして防御力の低さを克服することが求められた。特に北アフリカ戦線のような広大な地形での偵察任務には、より長大な航続距離と優れた砂漠地での走行性能が不可欠とされた。
当初の計画では、Sd.Kfz.231と同様に8輪駆動が踏襲されたが、エンジンには新開発の空冷ディーゼルエンジンが採用されることになった。これは、北アフリカのような高温環境下での運用を考慮したものであった。また、車体は全面的に再設計され、より傾斜装甲が多用されることで防御力も向上した。
バリエーション[編集]
Sd.Kfz.234には、主武装や用途に応じていくつかのバリエーションが存在する。
- Sd.Kfz.234/1:初期生産型。主武装は2cm KwK38機関砲と同軸のMG34機関銃を搭載したオープントップの砲塔を持つ。主に偵察任務に用いられた。
- Sd.Kfz.234/2 プーマ:最も有名なバリエーションであり、「プーマ」の愛称で知られる。Sd.Kfz.222の2cm KwK38に代わり、Sd.Kfz.222と同じ砲塔に5cm KwK39/1 L/60戦車砲を搭載し、大幅に攻撃力が強化された。この砲はIII号戦車L型にも搭載されており、歩兵支援や軽装甲車両との交戦にも対応できた。密閉式の砲塔は乗員の防御力を向上させた。
- Sd.Kfz.234/3:歩兵支援を目的として、オープントップの戦闘室に7.5cm StuK37 L/24短砲身戦車砲を搭載した型。これはIII号突撃砲の初期型にも搭載された砲であり、陣地攻撃や対戦車能力の低い目標に対する攻撃に威力を発揮した。
- Sd.Kfz.234/4:対戦車能力の強化を図るため、オープントップの戦闘室に7.5cm PaK40対戦車砲を搭載した型。これはSd.Kfz.234シリーズの中で最も強力な火力を持ち、連合軍の戦車に対抗することができた。終戦間際に少数生産された。
戦歴[編集]
Sd.Kfz.234シリーズは、1943年から配備が開始され、主に東部戦線と西部戦線で運用された。特にSd.Kfz.234/2「プーマ」は、その高い機動性と強力な武装により、偵察部隊の主力として活躍した。
高速で長距離を移動できるため、敵の側面や後方に回り込んで偵察活動を行うことが得意であった。また、強力な主砲により、遭遇した敵の偵察車両や軽戦車を撃破することも可能であった。その高い防御力と機動性は、乗員の生残性を高めることにも寄与した。
しかし、生産数は限られており、Sd.Kfz.234シリーズ全体でも約500両程度しか生産されなかった。これは、戦局の悪化に伴う資源や生産能力の不足が原因であった。
構造[編集]
Sd.Kfz.234は、新開発の空冷タトラ103型V型12気筒ディーゼルエンジンを搭載し、路上での最高速度は80km/hに達した。8輪全てが駆動し、全ての車輪に油圧サスペンションが装備されているため、不整地での走行性能も高かった。また、前後どちらにも操縦席があり、緊急時には素早い後退が可能であった。
装甲は最大で30mm厚の傾斜装甲が施されており、小銃弾や砲弾の破片、機関砲弾の一部に耐えることができた。車内には無線機が搭載され、偵察情報を迅速に後方に伝達することが可能であった。
豆知識[編集]
- Sd.Kfz.234シリーズは、その優れた走行性能と攻撃力から、連合軍兵士からは「地上のメッサーシュミット Bf109」とも称されたと言われている。
- 「プーマ」の愛称は、その俊敏な動きと攻撃性を表している。
- ドイツ軍が開発した最後の重装甲偵察車であり、その後の装甲偵察車の設計に大きな影響を与えた。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 広田厚司『ドイツ軍用車両』(大日本絵画、2002年)ISBN 978-4-499-22784-0
- カール・シュタール『ドイツ機甲師団戦車隊』(学習研究社、1999年)ISBN 978-4-05-602070-5