米国無線通信機 SCR-299

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SCR-299は、第二次世界大戦中にアメリカで開発・使用された移動式無線通信機である。特に長距離の音声および電信通信用に設計され、戦争遂行において重要な役割を果たした。SCRは「Signal Corps Radio」の略称である。

概要[編集]

SCR-299は、主としてアメリカ陸軍信号隊によって運用された。この無線機は、頑丈な設計と比較的高い出力により、戦場の厳しい環境下でも信頼性の高い通信を可能にした。その移動能力は、戦線の変化に対応し、前線部隊と後方司令部間の連携を維持するために不可欠であった。

開発と生産[編集]

SCR-299の開発は、第二次世界大戦開戦前の1940年代初頭に開始された。当時の移動式無線通信の需要が高まる中、より強力で信頼性の高い装置が求められていた。ウェスタン・エレクトリック社が主な製造を担当し、1942年から量産が開始された。

この無線機は、主に大型トラックに搭載され、車両全体が「通信トラック」として機能した。これにより、迅速な展開と撤収が可能となり、作戦の柔軟性が向上した。

技術的特徴[編集]

SCR-299は、主に以下のコンポーネントで構成されていた。

  • BC-610 送信機: 主力となる送信機で、2 MHzから18 MHzの周波数帯に対応し、電信(CW)で400ワット、音声(AM)で100ワットの出力を有した。これは当時の移動式無線機としては非常に強力であった。
  • BC-312 受信機 および BC-342 受信機: 周波数帯域をカバーする複数の受信機が搭載された。
  • PE-95 電源ユニット: 送信機と受信機に電力を供給するための発電機ユニット。通常、トラックのエンジンまたは専用のガソリンエンジンによって駆動された。
  • アンテナ群: 様々な種類のアンテナが用意され、使用目的に応じて選択された。これには、垂直型アンテナやダイポールアンテナが含まれた。

SCR-299の堅牢な構造と比較的高い出力は、敵の妨害(ジャミング)に対しても一定の耐性を持っていた。

実戦での運用[編集]

SCR-299は、ヨーロッパ戦線北アフリカ戦線太平洋戦線など、第二次世界大戦のあらゆる主要戦域で広範に使用された。

特に著名な運用例としては、1944年ノルマンディー上陸作戦後のパットン将軍率いるアメリカ第3軍の進撃において、前線部隊と司令部間の迅速な通信を確保するために重要な役割を果たしたことが挙げられる。パットン将軍は、この無線機の信頼性と有効性を高く評価したとされる。

また、航空支援の要請、砲兵の着弾観測、偵察情報の報告など、多岐にわたる軍事作戦において不可欠な通信手段として機能した。

派生型[編集]

SCR-299には、いくつかの派生型が存在した。

  • SCR-399: SCR-299の主要なコンポーネントはそのままに、より軽量化され、より迅速な展開が可能なように改良されたタイプ。
  • SCR-499: SCR-299のコンポーネントを固定局や半固定局向けに再構成したタイプ。

これらの派生型も、様々な任務で活用された。

戦後の影響[編集]

第二次世界大戦後も、SCR-299およびその派生型は、しばらくの間、アメリカ軍や同盟国で使用され続けた。その設計思想と技術は、その後の軍用無線通信機器の開発に大きな影響を与えた。堅牢性、信頼性、そして移動能力の重要性は、現代の軍用通信システムの基盤にもなっている。

豆知識[編集]

  • SCR-299の主要送信機であるBC-610は、アマチュア無線家にも人気があり、戦後、軍払い下げ品が民生用として広く利用された。
  • この無線機は、「ハモンドオルガン」という愛称で呼ばれることもあった。これは、その大きさと、発電機の動作音に由来すると言われている。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 『米軍無線機マニュアル』、光和堂、1998年。
  • 『第二次世界大戦 アメリカ陸軍装備品図鑑』、学習研究社、2004年。