NHKラジオ国際放送での不規則発言
NHKラジオ国際放送での不規則発言(エヌエイチケイらじおこくさいほうそうでのふきそくはつげん)とは、日本放送協会(NHK)の外国語ニュース番組の中で同番組を担当していた外国人スタッフが日本の領土などについて、日本政府の公式見解とは異なる発言をしていた問題のことである[1]。
概要[編集]
2024年8月19日、NHKワールド・ラジオ日本並びにNHKラジオ第2放送で放送した『中国語ニュース』の中で、靖国神社の石柱への落書きを報じた際に、放送原稿を読み上げていた中国籍の外部スタッフが、約20秒間、沖縄県の尖閣諸島の帰属などをめぐって突然以下のように発言した[2]。
「釣魚島と付属の島は古来、中国の領土です。NHKの歴史修正主義宣伝とプロフェッショナルではない業務に抗議します」(中国語)
「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな。彼女らは戦時の性奴隷だった。731部隊を忘れるな」(英語)[3]
これらの内容は日本政府の公式見解と異なっており、原稿にもこうした表現はなかった。また放送原稿を読み上げている際にも、「『軍国主義』『死ね』などの抗議の言葉が書かれていた」と、原稿にはない文言を加えていた[4]。男性は48歳で、2002年にNHK国際放送で関連業務を開始[3]。放送時点では、関連団体であるNHKグローバルメディアサービスを通じてNHKと業務委託契約を結び、NHK原稿の中国語訳と生放送での読み上げ業務を担当していた[3]。NHKはこの事態を受けて、関連団体を通じて厳重に抗議すると共に、21日付でこのスタッフとの契約を解除した[3]。
NHK会長の稲葉延雄は、2024年8月22日に自由民主党の情報通信戦略調査会に出席して経緯を報告し「国際番組基準に抵触する極めて深刻な事態だと受け止めている」と謝罪した。調査会の自民党衆議院議員で事務局長の大岡敏孝は「放送法違反の案件で非常に深刻と受け止めている」と指摘[5]。NHKでは同月26日に総合テレビ・ラジオ第1で5分間の謝罪放送を行った[6]。
2024年9月10日、NHKは国際放送担当で理事の傍田賢治が同日付で辞任すると発表した。稲葉、副会長の井上樹彦、専務理事の山名啓雄、理事の中嶋太一と、中国人スタッフと委託契約していたNHKグローバルメディアサービスの幹部2人を役員報酬50%を1カ月自主返納とした他、国際放送局長ら5人を減給などの懲戒処分にした[7][8][9]。また同日、中国人スタッフの発言は「放送の乗っとりとも言える事態」だったうえ、「事案の発生時に即座に対処できなかっただけでなく、視聴者・国民への適時の説明などでも対応が十全でなかった」などとする調査結果を公表した[10]。同月11日、総務省は「放送法の規定に抵触すると認められ、看過できない」としてNHKを注意する行政指導をした[9][11][12]。なお、傍田は同月17日付で契約職員として再雇用され、メディア総局のエグゼクティブ・プロデューサーに就任[13]、標準額から10%減額した理事退職金が支給されている [14]。
NHKは不規則発言をおこなった外部スタッフに対して、放送に対する信頼を失墜させる民法上の不法行為だとして1100万円の損害賠償を求めて提訴したほか、刑事告訴についても検討するとした[15]。また生放送で発生したことから、英語を除くすべての言語の放送を事前収録に切りかえ[15]、さらに放送でのAI音声の早期導入を検討するとした[16]。
この外部スタッフは、当人のものとされるSNSなどの書き込みから、既に中国へ帰国したとされている[2]。NHKでの待遇や勤務条件にたびたび不満を漏らし、さらにネット上で自身の個人情報を特定された場合に中国政府から攻撃されるリスクがあるとして不安を訴えていたという[3][17]。
脚注[編集]
- ↑ “NHKラジオ国際放送での中国籍外部スタッフによる発言の経緯と対応について”. 日本放送協会 (2024年8月22日). 2024年11月4日確認。
- ↑ a b 日本放送協会 (2024年9月13日). “松本総務相 ラジオ国際放送問題 “NHKは再発防止取り組みを” | NHK”. NHKニュース. 2024年9月13日確認。
- ↑ a b c d e NHKラジオ国際放送での中国籍の外部スタッフによる発言について - NHK広報局 2024年8月25日(PDF)
- ↑ NHKニュースで尖閣諸島を「中国の領土」発言のスタッフ、靖国神社落書き事件でも勝手に文言 - 読売新聞 2024年8月25日
- ↑ NHKラジオ国際放送で「南京大虐殺を忘れるな。慰安婦を忘れるな」中国籍スタッフが発言 - 産経ニュース 2024年8月22日
- ↑ NHK「極めて深刻な事態」 中国籍外部スタッフ尖閣発言で5分謝罪放送 改めて調査表明 - 産経ニュース 2024年8月26日
- ↑ “NHKラジオ国際放送問題 会長の報酬50%返納、担当理事が辞任”. 毎日新聞. (2024年9月10日) 2024年9月11日閲覧。
- ↑ “会長ら報酬返納、担当理事辞任 中国語ニュース放送問題で―NHK”. 時事通信. (2024年9月10日) 2024年9月11日閲覧。
- ↑ a b “尖閣諸島を「中国の領土」など中国籍の外部スタッフが発言 NHK、総務省行政指導受け謝罪”. 日刊スポーツ (2024年9月11日). 2024年9月14日確認。
- ↑ “NHKラジオ不適切発言巡り調査公表、中国人男性「日本の国家宣伝のために、個人がリスクを負うことできない」…幹部処分”. 読売新聞. (2024年9月11日) 2024年9月11日閲覧。
- ↑ 日本放送協会 (2024年9月13日). “松本総務相 ラジオ国際放送問題 “NHKは再発防止取り組みを” | NHK”. NHKニュース. 2024年9月13日確認。
- ↑ “NHKに総務省「注意」、国際放送巡り行政指導 「使命に反する」”. 朝日新聞. (2024年9月11日) 2024年9月11日閲覧。
- ↑ “NHK「辞任の理事」トレンド入り、中国語放送問題で辞任も再雇用にネット「偽装辞任」「これぞ茶番」”. スポーツニッポン. (2024年9月26日) 2024年9月26日閲覧。
- ↑ NHK国際放送「尖閣発言」で引責辞任の前理事、退職金を10%減額 事実上の処分か - 産経ニュース - 産経新聞社 - 2024-11-5閲覧
- ↑ a b “ラジオ国際放送問題への対応について”. NHK. 2024年9月13日確認。
- ↑ NHK 中国籍スタッフ「南京大虐殺を忘れるな、慰安婦を忘れるな」不適切発言の詳細公表 刑事告訴も検討 - Sponichi Annex 2024年8月22日
- ↑ NHK尖閣発言の中国籍スタッフ 「バイトテロ」単独犯の見方、在日中国人は非難「最低」 - 産経ニュース 2024年8月29日