Mi-24 (航空機)
Mi-24(ミル24、ロシア語: Ми-24エムィー・ドヴァーッツァチ・チトィーリェ)は、ソビエト連邦のミル設計局(現在のミール)が開発した攻撃ヘリコプターである。NATOコードネームは「ハインド(Hind)」。攻撃能力と兵員輸送能力を兼ね備えるという独自の設計思想に基づいて開発され、多数の派生型が開発されてきた。
開発経緯[編集]
ソビエト連邦における攻撃ヘリコプターの開発は、1960年代後半に本格化した。ベトナム戦争におけるアメリカのAH-1 コブラなどの攻撃ヘリコプターの戦果に注目したソ連軍は、陸上兵力に対する強力な航空支援手段の必要性を痛感していた。
これを受け、ミル設計局では、Mi-8輸送ヘリコプターをベースとした重武装ヘリコプターの研究を開始した。当初の構想では、単なる武装ヘリコプターではなく、兵員輸送能力も兼ね備えることで、攻撃後の歩兵展開や負傷兵の回収といった多様な任務に対応できる機体を目標としていた。この要求は、ソ連軍のドクトリンにおいて、ヘリボーンによる強襲作戦が重視されていたことにも起因する。
最初の試作機であるV-24は1969年9月19日に初飛行した。開発は順調に進み、1972年にはMi-24Dとして正式採用され、量産が開始された。
設計[編集]
Mi-24の最大の特徴は、その独創的な設計思想にある。攻撃ヘリコプターとしての重武装に加え、最大8名の兵員を収容できる兵員室を有している点である。この設計は、当時、西側諸国の攻撃ヘリコプターには見られないものであり、「空飛ぶ歩兵戦闘車」と評されることもあった。
機体構造は、被弾に強い頑丈な設計がなされている。乗員はタンデム配置で、前方に射撃手、後方に操縦士が座る。初期型では、前席が操縦士、後席が射撃手という配置だったが、D型以降は、視界確保と操縦士の負担軽減のため、タンデム配置が変更された。コックピット周辺には厚い装甲が施されており、小火器弾や対空砲弾に対する高い防御力を有する。
動力は、2基のクリモフ TV3-117ターボシャフトエンジンを搭載し、高い出力と信頼性を確保している。ローターは5枚ブレードのメインローターと3枚ブレードのテールローターで構成される。
兵装は、機首に旋回式の機関砲ターレットを装備し、左右のスタブウィングには、ロケット弾ポッド、対戦車ミサイル、ガンポッドなどを搭載できる。初期型では、YakB-12.7mmガトリングガンが搭載されたが、後のE型ではGSh-30-2K 30mm機関砲に換装されるなど、任務に応じて様々な兵装が選択可能である。対戦車ミサイルとしては、9K114 シュトゥールム (AT-6 スパイラル)や、より新型の9M120 アターカ (AT-9 スパイラル-2)などが運用可能である。
運用[編集]
Mi-24は、ソビエト連邦とその同盟国、およびワルシャワ条約機構加盟国を中心に多数が配備された。アフガニスタン紛争では、ソ連軍の主力攻撃ヘリコプターとして投入され、その強力な火力と堅牢性から「空飛ぶ戦車」として恐れられた。しかし、ムジャヒディンが運用したFIM-92 スティンガーなどの携帯式地対空ミサイルによって多数の機体が撃墜された経験は、対空脅威に対するヘリコプターの脆弱性を浮き彫りにした。
冷戦終結後も、Mi-24は世界各国で運用され続けている。チェチェン紛争、シエラレオネ内戦、イラク戦争、シリア内戦など、数多くの紛争地域でその姿が見られる。また、ロシア航空宇宙軍をはじめとする各国の軍隊では、近代化改修を施された機体が現役で運用されており、その信頼性と汎用性の高さが評価されている。
バリエーション[編集]
Mi-24は、その長い運用期間中に数多くの派生型が開発された。主要なものを以下に挙げる。
- V-24:最初の試作機。
- Mi-24A:初期生産型。
- Mi-24D:本格的な攻撃ヘリコプターとして再設計された型。タンデムコックピットを採用し、機首にYakB-12.7機関砲を装備。
- Mi-24V:Mi-24Dの改良型で、より強力なエンジンと新型の対戦車ミサイル9K114 シュトゥールムを搭載可能。最も多く生産された型の一つ。
- Mi-24P:Mi-24Vの機首機関砲をGSh-30-2K 30mm機関砲に換装した型。
- Mi-24VP:Mi-24VとMi-24Pの中間に位置する型で、両方の特徴を併せ持つ。
- Mi-24RKR:化学戦偵察・除染機。
- Mi-24K:観測・偵察機。
- Mi-24VM:Mi-24Vの近代化改修型。暗視装置、GPS、新型の兵装などを搭載。
- Mi-24PN:Mi-24Pの近代化改修型。Mi-24VMと同様の改良が施されている。
- Mi-35:Mi-24V/Pの輸出型。現代の戦場に対応するための改良が施されている。
主要運用国[編集]
豆知識[編集]
- Mi-24は、その頑丈な機体と強力な火力から、「クロコダイル」という愛称で呼ばれることもあります。特にアフガニスタン紛争での活躍により、このニックネームが定着しました。
- Mi-24は、映画「ランボー3/怒りのアフガン」や「ロード・オブ・ウォー」など、数多くの映画に登場し、その特徴的なシルエットは多くの人々に知られています。
- 世界各地の紛争地域で活躍してきたMi-24は、その設計思想から、輸送任務と攻撃任務を兼ねるという点で、現代のマルチロールヘリコプターの先駆けとも言える存在でした。