装甲戦闘車両 M10ブッカー
M10ブッカー(英語: M10 Booker)は、アメリカ陸軍が将来の戦闘車両として導入を進めている装甲戦闘車両である。軽量かつ空輸が可能な設計でありながら、十分な火力と防御力を兼ね備えることを目指している。
概要[編集]
M10ブッカーは、アメリカ陸軍の「機動防護火力(Mobile Protected Firepower, MPF)」プログラムの一環として開発が進められてきた。このプログラムは、歩兵旅団戦闘チーム(Infantry Brigade Combat Teams, IBCTs)に、より高い火力と防護力を持つ車両を提供することを目的としている。これらの部隊は、これまで重装甲のM1エイブラムス戦車などを運用することが困難であった。
M10ブッカーは、ジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(General Dynamics Land Systems, GDLS)によって設計・製造されている。ベースは、同社が開発したグリフィンII軽戦車であり、これはエイブラムスXの技術の一部も取り入れている。主武装として105mm砲を搭載し、30mm機関砲を搭載したストライカー装甲車を上回る火力を持つとされている。防御力については、最新の複合装甲技術が用いられており、対戦車ミサイルやロケット推進榴弾(RPG)などに対する一定の防御能力を持つと推測されている。
開発経緯[編集]
MPFプログラムは、2015年頃に概念検討が開始され、2017年にはGDLSとBAEシステムズの2社が候補として選定された。両社はそれぞれ試作車両を開発し、広範な試験が行われた。
- 2015年: アメリカ陸軍、MPFプログラムの概念検討を開始。
- 2017年: GDLSとBAEシステムズが試作車両の開発契約を獲得。
- 2022年: GDLSの提案が選定され、初期生産契約を締結。
- 2023年6月10日: ジョージア州のフォート・スチュワートで行われた式典で、「M10ブッカー」と命名されたことが発表された。この名称は、第二次世界大戦で功績を挙げたロバート・D・ブッカー・ジュニア伍長に敬意を表して付けられた。
- 2025年以降: 最初の実戦部隊への配備が予定されている。
設計と特徴[編集]
M10ブッカーは、以下の設計思想に基づいている。
- 空輸能力: C-17グローブマスターIII輸送機で複数両の空輸が可能であり、迅速な展開を可能にする。
- 火力: 105mm主砲は、既存の主力戦車と比較しても十分な対装甲火力を提供する。
- 防御力: 軽量化と空輸能力を維持しつつ、最新の装甲技術により乗員の生存性を高める。
- 機動性: 不整地や市街地など、多様な地形での高い機動性を確保する。
車両の重量は38トン程度とされており、これはM1エイブラムスの半分以下である。しかし、砲塔はM1エイブラムスの砲塔の設計思想を受け継いでおり、小型化された車体に強力な火砲を搭載している。
運用[編集]
M10ブッカーは、主に軽歩兵部隊や空挺部隊に配備される予定である。これらの部隊は、これまで対戦車能力や要塞化された陣地への攻撃能力が限定的であったが、M10ブッカーの導入によりその能力が大幅に向上することが期待されている。また、迅速な展開能力を活かし、緊急展開部隊の一員としても運用される可能性がある。
豆知識[編集]
- M10ブッカーの愛称は、ロバート・D・ブッカー・ジュニア伍長にちなんで名付けられたが、ブッカー伍長はチュニジアでの戦いで名誉勲章を授与された人物である。
- 105mm砲は、かつてM60パットン戦車や初期のM1エイブラムス戦車に搭載されていた実績のある口径である。
- この車両は「軽戦車」と称されることもあるが、アメリカ陸軍は公式には「機動防護火力車両」という分類を使用している。