ブリュースターF2A-2 バッファロー

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F2A バッファロー(英語: F2A Buffalo)は、第二次世界大戦初期にアメリカ合衆国ブルースター・エアロノーティカル社が開発・製造した艦上戦闘機である。アメリカ海軍初の単葉機かつ引き込み脚を持つ艦上戦闘機として開発されたが、戦訓により旧式化が露呈し、早期に第一線から退いた。しかし、フィンランド空軍では独自の改良を施し、継続戦争においてソ連軍機に対し善戦したことで知られる。

開発経緯[編集]

1930年代半ば、世界各国で航空機の技術革新が進み、複葉機から単葉機への移行が進んでいた。アメリカ海軍も例外ではなく、グラマン F3Fなどの複葉艦上戦闘機の後継となる新型機の開発を模索していた。1936年、海軍は新型艦上戦闘機の要求仕様を各メーカーに提示した。この要求には、高い速度性能と上昇力、そして頑丈な着艦装置が求められた。

ブルースター社は、この要求に対し社内名称「モデル139」を提示した。これは、当時としては先進的な全金属製応力外皮構造を持つ単葉機であり、油圧式の引き込み脚と、操縦士の視界を確保するための高い位置に配置されたコックピットが特徴であった。競争試作では、グラマン XF4F-1(後のF4F ワイルドキャット)やセバスキー XFN-1(後のP-35の海軍型)などが参加したが、F2Aは特に優れた離着艦性能と操縦性を示し、海軍の評価を得た。

最初の試作機であるXF2A-1は1937年12月2日に初飛行し、良好な飛行性能を示した。1938年1月に海軍はF2A-1として量産発注を行い、これがアメリカ海軍初の単葉引き込み脚艦上戦闘機となった。

各型[編集]

F2Aは、生産時期と改良内容によっていくつかの型式が存在する。

  • XF2A-1:最初の試作機。ライト R-1820-22 サイクロンエンジン(950馬力)を搭載。
  • F2A-1:初期量産型。海軍向けに58機生産された。武装は機首のブローニングM2 12.7mm機関銃2挺と、左右翼内のブローニングM1919 7.62mm機関銃2挺。このうちイギリスに21機が輸出され、「バッファローMk.I」として運用された。
  • F2A-2:エンジンをライト R-1820-40 サイクロン(1,200馬力)に強化し、プロペラも変更された改良型。速度性能が向上した。43機生産された。
  • F2A-3:燃料搭載量を増加させ、航続距離を延伸した型。この改良により重量が増加し、運動性が低下したとされる。機体構造も強化された。108機生産された。武装はF2A-2と同様。

これらの他に、輸出型としてフィンランド向けのモデル239(F2A-1相当)や、オランダ領東インド向けのモデル339モデル439などが生産された。

運用[編集]

F2Aは、その先進的な設計にもかかわらず、第二次世界大戦の緒戦においては期待通りの活躍をすることはできなかった。

アメリカ海軍[編集]

F2A-1は1939年から空母に配備され、太平洋艦隊戦闘機隊に配備された。しかし、実戦投入される頃には、ヨーロッパ戦線での戦闘により航空機の急速な進化が明らかとなり、F2Aの性能は他国(特に日本海軍零式艦上戦闘機)の新型機に比べて見劣りするようになっていた。

太平洋戦争開戦時、F2Aは主にミッドウェー海戦などで日本海軍機と交戦したが、運動性、速度、航続距離のいずれにおいても零戦に大きく劣り、多くの損害を被った。特にF2A-3は、燃料増加による重量増が運動性をさらに悪化させ、パイロットからの評価は芳しくなかった。このため、アメリカ海軍はF4F ワイルドキャットの配備を急ぎ、F2Aは早期に第一線から退き、主に訓練機連絡機として運用されることになった。

イギリス空軍[編集]

イギリスは、第二次世界大戦開戦に伴う戦力増強のため、アメリカからF2A-1を「バッファローMk.I」として21機購入した。これらは主に東南アジア、特にシンガポールマレーシアに配備され、日本軍の侵攻に対する防衛戦で用いられた。しかし、ここでも日本軍の零戦や一式戦闘機」に対し苦戦を強いられ、劣勢を覆すことはできなかった。

フィンランド空軍[編集]

F2Aの数少ない成功例として特筆すべきは、フィンランドでの運用である。フィンランドは、冬戦争後の軍備増強のため、アメリカからブルースターモデル239を44機購入した。これらは、F2A-1から艦載機装備(アレスティング・フックなど)を除去した陸上機型であった。

フィンランド空軍は、これらの機体に独自の改良を施した。特に、エンジンをM-105(ソ連製)やBMW 132(ドイツ製)に換装したり、より強力な武装(MG 151/20 20mm機関砲など)を搭載するなどの改修が行われた。フィンランドのパイロットたちは、バッファローの堅牢な機体構造と比較的良好な操縦性を活かし、地の利を得た戦術と巧みなチームワークでソ連軍機に対し優位に立った。

継続戦争において、フィンランド空軍のバッファローはソ連のポリカルポフ I-16MiG-3ラヴォーチキン LaGG-3などと交戦し、高い撃墜率を誇った。あるフィンランドのパイロットは、バッファローで30機以上の撃墜を記録したとされる。これは、フィンランドのパイロットの高い練度と、ソ連軍機の運用状況など、様々な要因が複合した結果であった。しかし、戦局の悪化に伴い、フィンランドも新型機への更新を進め、バッファローは1948年までに全機が退役した。

諸元[編集]

F2A-3のデータ

  • 乗員: 1名
  • 全長: 7.80 m (25 ft 7 in)
  • 全幅: 10.67 m (35 ft 0 in)
  • 全高: 3.63 m (11 ft 11 in)
  • 翼面積: 23.2 m² (250 ft²)
  • 空虚重量: 2,146 kg (4,732 lb)
  • 最大離陸重量: 3,247 kg (7,159 lb)
  • エンジン: ライト R-1820-40 サイクロン 空冷星型9気筒、1,200 hp (895 kW) × 1
  • 最大速度: 517 km/h (321 mph)
  • 航続距離: 1,550 km (963 mi)
  • 実用上昇限度: 10,100 m (33,100 ft)
  • 上昇率: 9.3 m/s (1,820 ft/min)
  • 武装:
    • 機首: 12.7mm機関銃 × 2
    • 翼内: 12.7mm機関銃 × 2 または 7.62mm機関銃 × 2(F2A-1)
  • 爆装: 100ポンド爆弾 × 2 (45 kg)

豆知識[編集]

  • F2Aは、愛称である「バッファロー」よりも、そのずんぐりとした見た目から「フライング・バレル」(空飛ぶ樽)と呼ばれることもありました。
  • フィンランド空軍では、F2Aを「ブルーステル」(ブルースター社のフィンランド語訛り)と呼び、親しまれていました。
  • F2Aの設計は、その後のブルースター社の艦上爆撃機SB2A バッカニアにも影響を与えました。
  • 現在、世界中でF2Aの現存機はわずか数機しかなく、そのほとんどが博物館に収蔵されています。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 酣燈社『世界の傑作機 No.79 ブルースター F2A バッファロー』
  • 光人社『第二次世界大戦世界の戦闘機』
  • 文林堂『航空ファン別冊 艦上戦闘機発達史』