ChaO
『ChaO』(チャオ)は、2025年8月15日公開の日本のアニメ映画[1][2]。制作はSTUDIO4℃、配給は東映[1]。。原作をもたないオリジナル映画作品である[1]。
鈴鹿央士と山田杏奈がW主演で声優を務める[3]。鈴鹿と山田は声優が本業ではない。鈴鹿と山田が演じるステファンもチャオも不器用であり、その2人が引かれ合ってゆくというストーリーであるため、声優ではなく「少し不器用そうに聞こえる声」の2人を選んだと監督の青木康浩は語っている[4]。
制作[編集]
制作期間7年、一般的な劇場用アニメ映画の総作画枚数が3万枚から4万枚と言われるのをはるかに凌駕する総作画枚数10万枚以上という「超労作」である[2]。
内容[編集]
ハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話『人魚姫』を根底にすえたオリジナル作品で「平凡な青年がいきなり人魚王国の姫から求婚される」とあらすじを言い表すこともできる[2]。「異種族との結婚で大騒ぎになるドタバタコメディー」という視点では『うる星やつら』があり、「海から来た存在と人間の交流を描く日本のアニメ映画」としては、『崖の上のポニョ』、『夜明け告げるルーのうた』、『バブル』を挙げることができる。
近未来の上海を舞台にしており、香港映画やチャウ・シンチー監督作品のオマージュも多い(#登場人物・キャストも参照のこと)[5]。
あらすじ[編集]
人間と人魚が共存している近未来の上海[6]。新米記者ジュノーは港で偶然にも人間と人魚が共存することになった立役者のステファンを見かけ、ステファンの船に密航してインタビューを行う。
15年前の20XX年。人間と人魚とは互いに認識はしていたものの、国交は樹立されていなかった。船のスクリューで傷つく魚や人魚がいることを人魚王国のネプトゥーヌス国王が人間に訴えても改善の見込みは無いような状態だった。ステファンは幼いころに漁師だった両親をスクリュー事故で亡くしていたこともあり、「エアージェット」という魚を傷つけない推進方法の研究を造船会社で行っていた。しかしながら、エアージェットは既存のスクリュー推進と比べて価格も高く、速度も出ないためシー社長は乗り気ではなかった。
突然、ステファンは人魚王国の姫であるチャオに求婚される[6]。「人魚の姫が人間に求婚した」のは前代未聞でもあり、「人間と人魚との両種族の友好関係を樹立するものだ」として世界中で騒がれるようになった[6]。シー社長もステファンの結婚に乗り気で、エアージェットについても俄然、推進し始めた。
ステファンは自分がなぜ求婚されたのかも判らなかった。チャオはステファンのほうから結婚を言い出したというが、記憶にはない。周りに流されてステファンはチャオと結婚し、新婚生活が始まった[6]。人間社会での生活に慣れていないチャオは様々な事件も起こす。朝食に生きた電気ウナギを丸ごと出したり、チャオの父・ネプトゥーヌス国王が訪れた際には部屋の中でロケット花火を点火したり。しかし、マイベイに習って、ヒレ(指)を怪我しながらもステファンが食べられるよう、タチウオのフライ、エビチリ、蕪の煮物、フルーツなどなどを詰めた弁当を作るといった純粋で真っすぐな愛情をチャオから向けられ続け、ステファンのほうもあたたかい感情を持つようになっていった[6]。
ステファンの誕生日。完成したエアージェット船のお披露目が行われ、そこへチャオはロベルタに作ってもらった搭乗式ロボットをステファンへの誕生日プレゼントとして持ち込む。しかし、ロボットが暴走。海中でエアージェットに巻き込まれた後に空高くから落下して、ステファンとチャオは怪我をする。ステファンはこれまでの不満が爆発し、チャオにきつく当たってしまい、チャオは海へと帰っていった。
両親と暮らしていた漁村で、ステファンは幼いころにチャオと出会っていたことを思い出す。獲った魚の腹の中にあった玉がチャオだったのだ。ステファンは玉に「レイビン3号」と名付け、ずっと一緒とか語りかけていたのだった。
あれだけの事故のわりにはステファンとチャオの怪我が軽かったことから、エアージェットは安全なのではないかとマスコミ取材がシー社長の元へ詰めかけ、ほくほくのシー社長は、エアージェットの開発継続を発表。ステファンはエアージェット船を持ち出し、チャオを探しに大海へと乗り出した。
ジュノーは船上でチャオや2人の子供たちとも会い、静かに暮らしたいと船上生活を選んだことをステファンから聞かされた。
ステファンへのインタビューをまとめた記事原稿は編集長にも絶賛されるが、ジュノーはステファン一家の意志を汲んで、発表しないことを編集長に宣言。ジュノーもまた、異種族の編集長への愛を告白する。
スタッフ[編集]
- 監督 - 青木康浩[6]
- 音楽 - 村松崇継[6]
- 主題歌 - 倖田來未「ChaO!」(rhythm zone)[6]
- 挿入歌 - チャオ(⼭⽥杏奈)「あなたのために」
- 挿入歌 - ステファン(鈴鹿央士)「僕と結婚してください」
- アニメーション制作 - STUDIO4℃[6]
- プロデューサー - 田中栄子[7]
- キャラクターデザイン - 小島大和[7]
- 総作画監督 - 小島大和
- 美術監督 - 滝口比呂志
- 演出 - 古屋勝悟
- 脚本 - 木ノ花咲
- 配給 - 東映[6]
登場人物・キャスト[編集]
- ステファン
- 声 - 鈴鹿央士[3][6]
- 出勤時に中華鍋を頭にぶつけている[8]。幼いころはロボットのおもちゃ「レイビン2号」がお気に入りだったが、両親の死後、漁村の子供に取り上げられてしまった。魚の腹から出てきた玉・レイビン3号も奪い合いの結果、割れてしまい、玉の中にいたチャオは海へ帰ることになるのだが、ステファンはすっかり忘れていた。
- 青木は、主人公が最初からかわいい人やかっこいい人だったら、かわいかったり、かっこよかったりは当たり前なので、観客が「最初は何とも思わなかったけど、観終わったらチャオがかわいく思えた」と感じてもらえるものにしたくて、キャラクターデザイナーの小島へは「ちょっと冴えない感じの、地味めなキャラクター」とオーダーした[5]。
- 『少林サッカー』などの映画監督チャウ・シンチーの英語名・ステファン・チャウが名前の由来ではないかと推測されている[8]。
- チャオ
- 声 - 山田杏奈[3][6]
- 本名は「アオソンニチャオネプトゥーヌス」だが、覚えきれないステファンが途中の語を抜き取って「チャオ」と呼ぶようになった。簡単な名として「レイビン3号」もチャオは告げたが、ステファンは覚えていなかった。部屋の中でロケット花火を点火したのも、幼いステファンが「父親が帰ってきたら花火でお祝いする」と言ってたのを覚えていたためである(部屋の中で花火がダメなことは理解できていなかったが)。
- 「魚」姿の時はまんまるなフォルムをしている[2]。尾びれに靴をはいて出歩く。また、「魚」姿でも表情はコロコロと変わり、性格も素直[2]。
- 人魚族共通の特徴として、地上で「不安な気持ちが残っている時」は「魚」姿だが、水の中や「心を許した相手の前」では「人魚」姿になる[2]。「人魚」姿のチャオは、ミステリアスな雰囲気をまとい、目は細いツリ目、歯はギザギザであり[2]、首には鰓、肘には鰭があり指の間には水かきのような膜がある。ギザギザ歯にプロデューサーの田中栄子は難色を示したが、キャラクターデザインの小島大和が「これからはギザ歯」と押し通した。なお、ツリ目なども小島の趣味によるデザインとなっている。
- 声を担当した山田杏奈には「とにかくかわいく」とのオーダーが出ており、山田は「普段より高めのトーンで話すことを意識した」と語っている[4]。
- マイベイ
- 声 - シシド・カフカ[6][9]
- 慣れない地上生活にとまどうチャオをサポートする世話好きの女性[3]。
- 化粧がうまくできないといった抜けている点もある[10]。
- ロベルタからの告白を待っている。
- シシドがアニメでメインキャラを演じるのは今作が初となる[10]。
- ロベルタ
- 声 - 梅原裕一郎[6][9]
- ステファンの友人であり、チャオと結婚するまではステファンと同居していた。
- ロボット研究に勤しむ発明家[9]。マイベイのことを好いているが、打ち明けられずにいる。
- カッコいいしゃべり方をするキャラクターであるが、それは本質的なカッコよさではなく、ロベルタ自身が「こういう人間でありたい」と思っていることからのキザな言い回しになっている[10]。
- ネプトゥーヌス国王
- 声 - 三宅健太[6][11]
- 人魚王国を治める王たる威厳はあるものの、娘のチャオを溺愛する親バカ[11]。人間嫌いの面もあり、海に帰ったチャオを探しにステファンが訪れたときには、チャオを利用しようとしたとして、激怒した。
- ジュノー
- 声 - 太田駿静(OCTPATH)[6][11]
- 人間の新米記者。ステファンへの取材を行う[11]。
- 編集長
- 声 - 土屋アンナ[6][11]
- ジュノーの上司で、指導役[11]。ジュノーを怒っていることも多い[11]。
- ジュノーから「ふたこぶロケット砲」のあだ名を付けられるくらいの爆乳で、実は人魚である。
- オメデ大使
- 声 - くっきー![6]
- 女装しており、青ひげを生やしていつも鼻をほじっている[8]。人間と人魚の国交樹立を推進するためにステファンとチャオの結婚を推進する[3]。ステファンには日本における鶴、キツネ、蛇との婚姻例を挙げて、人魚との結婚を促している。
- チャウ・シンチー監督作品でリー・キンヤンがよく演じてきたキャラクター、一例では『少林サッカー』の美容室の店主など、そのものと言える[8]。
- シー社長
- 声 - 山里亮太(南海キャンディーズ)[6][11]
- ステファンが務めている造船会社の社長[12]。外見はハンプティ・ダンプティのようにまんまる巨体をしている[12]。
- ステファンとチャオの結婚を激しく押す[3]。当初はエアージェットは売れない、儲けにならないと判断していたが、ステファンとチャオの結婚をビジネスに利用しようと考え、下心が隠しきれていない[11]。2人のデートをアシストする[11]。
- 自分のことを「アニキ」と呼ぶようステファンに言ってたが、チャオを別れたと知るやアニキじゃないと手のひら返しする。その後、マスコミにエアージェットの安全性を取材されると再び手のひらを返し、ステファンがエアージェット船を持ち出してチャオを探しに出発した際にはサムアップで送り出す。
- ステファンの父
- 声 - 岡野友佑[6]
- 漁師。獲れた魚を「海からの贈り物」と考え、最小限だけ獲ればいい(獲り過ぎはよくない)と考えていた。
- ステファンの母
- 声 - 川上ひろみ[6]
- 漁船のスクリューにからまったイルカを助けようと海中で作業していたところ、スクリューが動き出し、母を救おうと海に飛び込んだ父もろともスクリューに巻き込まれて死亡した。
- ステファンの叔父、叔母
- 幼くして両親を亡くしたステファンを見守ってきた。叔父1人、叔母2人。自分がそうだったからと、「結婚してから生まれる愛もある」とステファンとチャオの結婚を推す。
- 2頭身キャラであり、監督の青木は師匠の芦田豊雄の影響を語っている。例えば芦田がキャラクターデザインを担当したテレビアニメ『魔神英雄伝ワタル』の「剣部シバラク」は作中で他のキャラクターにいじられるくらいに顔の大きなキャラクターである。
評価[編集]
賞歴[編集]
興行成績[編集]
2025年8月15日に日本全国300スクリーン超という大規模な公開が行われたが、公開3日間の興行成績は動員数で約1万人、興行収入約1500万円という数字であり「歴史的爆死」と評されている[1]。
日本映画産業の構造[編集]
同時期に公開された日本のアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』は公開1か月で動員数1827万人、興収257億円超となっており、比較として挙げられることもある[1]。
『鬼滅』はIP作品であり、原作漫画やテレビアニメシリーズ、アニメ映画、ゲーム化などメディアミックスの恩恵を受けて連日メディアによって取り上げられ、これを目にする人も多かった。一方、本作はSNSや口コミ頼みであり、知名度は『鬼滅』よりもはるかに低い[1]。
これに加え、観客心理も大きく影響したものと推測される[1]。映画館へ足を運び、移動費、チケット代、鑑賞時間といったコストがかかることから、「外れがない」保証付きのビッグタイトルを選びがちであり、特に日本社会では「みんなが観ているから自分も観る」といった同調圧力も強く働くため、ヒット作がさらにヒットを呼ぶ構造が固定化していると言える[1]。
こういったことから、映画業界の側もリスクを嫌って、人気IP作品にスクリーンを優先的に割く傾向が加速し、結果としてオリジナル映画作品は埋もれ、短期間での上映終了に追い込まれるといった悪循環が、本作に限らず繰り返されている[1]。
本作については、実際に映画館に足を運んだ人からの絶賛や、完成度を評価する声は少なくないのだが、こういった声が広く届けるメディア環境は弱体化していると言える[1]。現在では、批評誌や文化誌の影響力は低下しており、「商業的失敗」がすなわち「作品の価値が低い」と短絡的に判断されることも多くなっている[1]。
結果として、オリジナル映画は「挑戦しただけ損」と扱われるようになり、観客はむろんのこと、映画製作側もますます既存IPに流れるといった循環が起きている[1]。
本作の爆死危機は、単なる本作の不振に留まらず、日本映画産業が抱える構造的な歪みを象徴しているとも言える[1]。
脚注[編集]
- ↑ a b c d e f g h i j k l m “『鬼滅の刃』歴史的ヒットの裏で…アニメ映画『ChaO』歴史的爆死の危機”. 週刊実話WEB (2025年8月19日). 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c d e f g h i ヒナタカ (2025年8月22日). “過小評価すらされていない超労作アニメ映画『ChaO』を「今」見るべき5つの理由”. All About. p. 1. 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c d e f “映画『ChaO』にハマる女子続出の理由 人間と人魚姫が紡ぐ“運命の恋”に胸キュン!” (プレスリリース), (2025年8月8日) 2025年8月23日閲覧。
- ↑ a b 石塚恵理 (2025年8月28日). “人魚の存在が当たり前の世界で始まった恋…アニメ映画「ChaO」で共演の鈴鹿央士と山田杏奈が魅力語る”. 読売新聞 2025年8月31日閲覧。
- ↑ a b ヒナタカ (2025年8月22日). “過小評価すらされていない超労作アニメ映画『ChaO』を「今」見るべき5つの理由”. All About. p. 3. 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u “映画『ChaO』声優・登場人物・キャラクター・あらすじ一覧”. ORICON (2025年8月15日). 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c d “アニメ映画『ChaO』、仏アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞受賞 日本映画作品の受賞は8年ぶり”. ORICON (2025年6月15日). 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c d ヒナタカ (2025年8月22日). “過小評価すらされていない超労作アニメ映画『ChaO』を「今」見るべき5つの理由”. All About. p. 2. 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c “ChaO:マイベイ&ロベルタ 恋を見守る2人の超絶アクション! 本編映像公開 声優はシシド・カフカ&梅原裕一郎”. MANTANWEB (2025年8月10日). 2025年8月23日確認。
- ↑ a b c 永井和幸 (2025年8月11日). “映画『ChaO』マイベイ役・シシド・カフカさん&ロベルタ役・梅原裕一郎さんインタビュー”. animate Times. p. 1. 2025年8月31日確認。
- ↑ a b c d e f g h i j “ChaO:STUDIO4℃最新作 個性派キャラ続々! キャラPV公開 声優は山里亮太、三宅健太、太田駿静、土屋アンナ、くっきー!”. MANTANWEB (2025年5月26日). 2025年8月23日確認。
- ↑ a b 山崎伸子 (2025年8月18日). “クセ強キャラのオンパレード!常識を取っ払った『ChaO』のキャラクターデザインに込められた意図とは?”. Movie Walker. 2025年8月23日確認。