B-17 フライングフォートレス
B-17 フライングフォートレス(英語: B-17 Flying Fortress)は、第二次世界大戦において主にアメリカ陸軍航空軍(USAAF)が運用した四発重爆撃機である。その堅牢な機体構造と防御武装から「空飛ぶ要塞」の愛称で知られ、連合国側の昼間爆撃戦略の要として多大な戦果を挙げた。
開発[編集]
B-17の開発は、アメリカ陸軍航空隊(United States Army Air Corps、USAAFの前身)が、長距離の沿岸防衛任務を想定した爆撃機を求めたことに端を発する。1934年、ボーイング社は、社内名称「ボーイング モデル299」としてこの要求に応募した。当時としては画期的な四発機であり、その巨大さから「フライングフォートレス(空飛ぶ要塞)」のニックネームが与えられたのは、シアトルの地元紙の記者が初飛行の様子を見て発した言葉がきっかけであったとされる。
試作機であるXB-17は、1935年7月28日に初飛行した。しかし、離陸時に機体制御を誤り墜落するという事故に見舞われた。しかし、その潜在能力は高く評価され、改良を加えられたYSB-17、そしてB-17Bと量産が開始された。初期の量産型は少数が生産されたに過ぎなかったが、第二次世界大戦の勃発により、その重要性が急速に高まった。
戦歴[編集]
B-17は、主にヨーロッパ戦線における昼間爆撃任務に投入された。堅固な編隊を組み、互いに援護し合いながら敵地奥深くへと侵攻し、ドイツの工業地帯や軍事施設を爆撃した。その防御武装は強力で、初期の型では13門のM2重機関銃が装備され、最終型のB-17Gでは、機首に新たに2丁の機関銃が追加され、合計13門の12.7mm機関銃を装備した。これにより、敵の戦闘機からの攻撃に対して高い抗堪性を示した。
しかし、B-17の昼間爆撃は、ドイツ空軍の激しい抵抗に直面し、多くの機体が撃墜された。特に、護衛戦闘機の航続距離が不足していた大戦初期には、多大な損害を被った。この経験から、P-51 マスタングなどの長距離護衛戦闘機の開発が促進された。
太平洋戦線においても、B-17は初期の段階で運用された。特にフィリピン防衛戦において、日本軍の進攻を阻止しようと試みたが、日本の零式艦上戦闘機や一式陸上攻撃機などの攻撃により大きな損害を被った。しかし、その後の戦いでは、対艦攻撃や長距離偵察任務にも投入され、その多用途性を示した。
終戦までに12,731機が生産され、最も多く生産された重爆撃機の一つとなった。大戦終結後も、一部の機体は輸送機や偵察機として運用され、ブラジル空軍では1968年まで現役であった。
特徴[編集]
B-17は、その頑丈な構造と高い防御能力で知られる。機体はジュラルミン製の応力外皮構造を採用し、被弾しても飛行を継続できるほどの高い抗堪性を持っていた。また、機体の各所に銃座が設けられ、全方位からの攻撃に対応できるよう設計されていた。特に有名なのは、機体下部のボールターレットであり、乗員が球状のターレットに搭乗して機銃を操作するものであった。
航続距離、爆弾搭載量、防御武装のバランスに優れており、当時の技術水準においては優れた性能を持っていた。特に、精密なノルデン爆撃照準器を装備し、昼間の高高度爆撃において高い命中精度を発揮した。
派生型[編集]
- XB-17:試作機。
- YB-17:少数生産された初期の評価試験機。
- B-17B:初期量産型。
- B-17C:防御武装を強化した型。
- B-17D:エンジンナセルの改良など。
- B-17E:機体尾部に遠隔操作式の尾部銃座を装備し、垂直尾翼を大型化。防御力を大幅に強化した型。
- B-17F:爆弾搭載量を増加させ、ノーズ部分を延長。ドイツ空軍との激しい戦闘の中で最も多く生産された型の一つ。
- B-17G:機首下部にチンターレット(顎部銃座)を増設し、正面からの攻撃に対する防御力を強化した最終量産型。最も多く生産された型であり、B-17の代名詞ともいえる存在。
- XB-38:アリソン製V-1710エンジンを搭載した実験機。
- YB-40:護衛爆撃機型。武装を大幅に強化したが、実用性に乏しく少数のみの生産に留まった。
豆知識[編集]
B-17の搭乗員は「フォーチュン・テラーズ(Fortune Tellers)」と呼ばれたことがあった。これは、彼らが生死を分ける運命の数時間を空中で過ごすためであった。また、損傷したB-17が奇跡的に帰還した話は数多く存在し、その頑丈さが伝説となっていた。中には、尾翼が吹き飛びながらも無事に帰還した機体や、エンジンが停止しても滑空して帰還した機体もあったという。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- ゴードン・スワンボロー、ピーター・M・ボウワーズ 『アメリカ陸軍航空軍全機(The United States Army Air Forces in World War II: The Official Guide to the Aircraft and Armament)』 原書房、1990年。ISBN 978-4562021516。
- デビッド・ドナルド編 『戦闘機・爆撃機大全(The Complete Encyclopedia of World Aircraft)』 光栄、1997年。ISBN 978-4877198751。