Abell 3266
Abell 3266は、レチクル座(南天の星座の一つ)の方向、およそ8億光年離れた場所にある銀河団。日本からはぎりぎり見える位置にあるも、一般的な望遠鏡では視認できない。
呼称[編集]
1958年に発表、1989年に内容が追加された銀河団のカタログであるエイベル・カタログ(Abell Catalogue)に収録されている[1]。1958年に発表されたオリジナル版と比較して、現在の版をACOカタログと呼ぶこともあるため、ACO 3266という名前もある[2]。
特徴[編集]
少なくとも800個の銀河を含み、それらが複数のサブ構造に渡って分布している[3]。総質量は太陽の6.64×1014倍[3]であり我々が住む地球の近傍にあるおとめ座銀河団よりかは規模が小さい。赤方偏移は0.0596±0.0002[4][5]、視線速度は17868±60 km/s[4]であり、ハッブル–ルメートルの法則を使えば、Abell 3266までの距離は7億9,830万±270万光年となる[注 1]。
合体(成長)途中で構造が強く乱れている銀河団でもあり、1337±67 km/s[5]という比較的高い速度分散や銀河団ガスからの非対称なX線放射が見られる[5][3]。ただし、銀河団内の正確な合体状態に関して統一的な見解は得られていない[5]。チャンドラX線観測衛星により、cD銀河を中心とし北東方向に伸びる合体軸に沿った冷たいフィラメント状の領域が発見され、ASCAによる観測では、合体軸に沿った温度変化が検出された[6]。また、MeerKATによる銀河団レガシーサーベイやオーストラリアコンパクト電波干渉計の観測により、いくつかの尾を引く電波銀河や多数の電波源の存在が明らかになっている[3][7]。
銀河団内で発生している天文現象の一つに、外向きではなく内向きに進んでいるように見える、凹型の電波遺物(銀河やサブ銀河団が衝突した際の衝撃波の残骸・痕跡)が、中心から南東に15.8′離れた場所に存在する[3][8]。この電波遺物は幅が約190万光年[注 2]で、形状から推定される衝撃波の進行方向が実際の向きとは逆なため、"Wrong Way Relic(間違った方向の遺物)" と呼ばれている[3][8]。内部の複雑な合体過程が影響しているとされるが、明確な原因は特定されていない。また2006年には、ESAのXMM-Newtonが、幅約300万光年、太陽の十億倍以上の質量を持つガスの塊を発見した。この塊は銀河団内を秒速約750キロメートルの速度で突き進んでいるとされている。そのため、(銀河団ガスからの動圧で)ガスが剥ぎ取られ、後方に彗星のような尾を持つ。ガス塊は、1時間あたり太陽1個分の重さを失っているとも言われている。
Abell 3266は、Abell 3128、Abell 3158、Abell 3164などほかの銀河団と共により大きな構造であるとけい座・レチクル座超銀河団を構成する[5][9]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ Abell, George O.; Corwin, Jr., Harold G.; Olowin, Ronald P. (1989). “A Catalog of Rich Clusters of Galaxies”. Astrophysical Journal Supplement 70: 1-138. . .
- ↑ “Abell 3266”. SIMBAD. 2025年9月14日確認。
- ↑ a b c d e f C. J., Riseley et al. (2022). “Radio fossils, relics, and haloes in Abell 3266: cluster archaeology with ASKAP-EMU and the ATCA”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 515 (2): 1871–1896. .
- ↑ a b “Results for object ABELL 3266 (Abell 3266)”. NASA/IPAC Extragalactic Database. 2025年9月14日確認。
- ↑ a b c d e Siamak, Dehghan; Melanie, Johnston-Hollitt; Matthew, Colless; Rowan, Miller (2017). “Dynamics of Abell 3266 - I. An optical view of a complex merging cluster”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society 468 (3): 2645-2654. . .
- ↑ Sanders, J. S. et al. (2022). “Studying the merging cluster Abell 3266 with eROSITA”. Astronomy and Astrophysics 661: 1-27. .
- ↑ Rudnick, Lawrence; Cotton, William; Knowles, Kenda; Kolokythas, Konstantinos (2021). “One Source, Two Source(s): Ribs and Tethers”. Galaxies 9 (4). . .
- ↑ a b “The “wrong-way” relic in Abell 3266 – by Christopher Riseley and Tessa Vernstrom”. Australia Telescope National Facility (2022年8月19日). 2025年9月16日確認。
- ↑ “The Horologium Supercluster”. An Atlas of the Universe. 2025年9月16日確認。