零式観測機
零式観測機(れいしきかんそくき)は、第二次世界大戦中に大日本帝国海軍が使用した水上偵察機である。略符号はE13A。主に戦艦や巡洋艦に搭載され、偵察、着弾観測、哨戒などに幅広く使用された。連合国側のコードネームは「ジェイク (Jake)」。
概要[編集]
零式観測機は、九四式水上偵察機の後継機として、愛知航空機によって開発された。1938年(昭和13年)に初飛行し、1941年(昭和16年)に零式観測機として制式採用された。
本機は、長大な航続距離と優れた安定性を持ち、偵察任務において高い評価を得た。また、簡単な武装も可能であり、限定的ながら哨戒や対潜哨戒にも用いられた。太平洋戦争の全期間を通じて使用され、日本の水上艦艇の「目」として重要な役割を担った。
開発経緯[編集]
1937年(昭和12年)、海軍は九四式水上偵察機の後継となる新型観測機の要求仕様を各メーカーに提示した。愛知航空機はこれに応じ、九七式艦上攻撃機の主翼を流用した双フロート単葉機として設計を進めた。
試作機は1938年(昭和13年)に完成し、様々な試験飛行が行われた。この試験を通じて、愛知航空機は航続距離の延伸と安定性の向上に注力した。最終的に、九四式観測機を大幅に上回る性能が確認され、1941年(昭和16年)に「零式観測機」として制式採用された。採用名称の「零式」は、採用年の皇紀2601年(西暦1941年)の下二桁に由来する。
機体構造[編集]
零式観測機は、低翼単葉の双フロート機である。機体は全金属製で、主翼は愛知D3A(九九式艦上爆撃機)のものを流用している。主フロートは2基あり、安定性を確保している。
操縦席は密閉式で、前席に操縦士、後席に偵察員が搭乗した。後席には必要に応じて後方旋回式機関銃を装備することができた。また、主翼下には軽爆弾を搭載する能力も有していた。
エンジンは三菱製の「金星」または「瑞星」を搭載し、高い信頼性と十分な出力を誇った。これにより、長時間の飛行が可能となり、広範囲の偵察任務に対応できた。
運用[編集]
零式観測機は、主に日本の戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、水上機母艦、特設水上機母艦などに搭載された。カタパルトによって射出され、任務終了後は着水し、艦のクレーンによって回収された。
主な任務は以下の通りである。
- 偵察:敵艦隊の捜索、敵基地の偵察など。
- 着弾観測:艦砲射撃の弾着位置を観測し、射撃修正を行う。
- 哨戒:潜水艦の捜索、海上交通路の護衛など。
- 連絡:艦隊間の連絡、遭難者の捜索など。
太平洋戦争初期には、その長大な航続距離と優れた光学機器により、多くの戦果報告に貢献した。しかし、戦争が激化し、連合国軍の航空優勢が確立されると、敵戦闘機との遭遇も増え、多くの機体が失われた。それでも、終戦まで第一線で使用され続けた。
バリエーション[編集]
- 零式観測機一一型(E13A1):初期生産型。
- 零式観測機二一型(E13A1a):一部改良型。後席機関銃の強化など。
- 零式観測機二二型(E13A1b):レーダー搭載型。ごく少数生産に留まった。
主要諸元[編集]
- 乗員:2名または3名
- 全長:11.30 m
- 全幅:14.50 m
- 全高:4.70 m
- 翼面積:36.00 m²
- 自重:2,642 kg
- 全備重量:3,640 kg
- 発動機:三菱 金星四三型 空冷星型14気筒 1,080 hp(離昇)
- 最大速度:370 km/h (高度2,200 m)
- 航続距離:2,090 km
- 実用上昇限度:8,700 m
- 武装:
- 7.7 mm旋回機関銃 × 1(後席)
- 250 kg爆弾 × 1 または 60 kg爆弾 × 4
豆知識[編集]
- 零式観測機は、その堅牢性と信頼性の高さから、パイロットからの評価も高かった。
- 太平洋戦争中、撃墜された零式観測機の中には、フロート部分が浮遊したまま海面を漂い、乗員が数日間にわたって救助を待つことができた例も報告されている。
- 戦後、一部の機体がインドネシア独立戦争においてインドネシア軍に鹵獲され、使用された。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 雑誌『丸』編集部編 『日本海軍機大図鑑』 光人社、1999年。
- 碇義朗 『日本海軍航空隊史』 光人社、1989年。
- 文林堂 『世界の傑作機 No.59 零式観測機』 文林堂、1996年。