転勤
転勤(てんきん)は、企業や官公庁における人事異動のうち、勤務地が変更になるもの。
日本では、2025年(令和7年)に公表された研究で、人材確保への問題意識や女性活躍の課題を踏まえ、転居を伴う転勤を減らす・なくす方策を立てた企業があると報告されている[1]。また2024年(令和6年)4月からは、労働契約の締結時などに、就業場所・業務の内容に加えてそれらの「変更の範囲」を労働者に明示することが必要となった[2][3]。
概要[編集]
大都市圏の本部から地方の現場など、勤務地が変更となる人事異動。非違行為を起こした人物に対する制裁或いは会社にとって不都合な人物を僻地に飛ばす左遷(させん)もこれ。
転勤を行う理由としては
- 本人の能力開発・後進育成
- 1つの業務に長期間携わることによる慢心と取引先との不正防止
- 人気・不人気の勤務地の人数バランス取り
がある。
日本における転勤の実態[編集]
労働政策研究・研修機構(JILPT)は、厚生労働省雇用環境・均等局の要請に基づく課題研究として、常用労働者300人以上の企業10,000社と、それらの企業で転勤経験のある正社員80,000人を対象とするアンケート調査「企業の転勤の実態に関する調査」を行い、2017年(平成29年)10月に調査シリーズNo.174として結果を公表した(有効回収数は企業1,852件、正社員5,827件)[4]。同調査によれば、正社員(総合職)の転勤(転居を伴う配置転換)の状況は、「正社員(総合職)のほとんどが転勤の可能性がある」が33.7%、「正社員(総合職)でも転勤をする者の範囲は限られている」が27.5%、「転勤はほとんどない(転勤が必要な事業所がない)」が27.1%であり、「ほとんどが転勤の可能性がある」の割合は正社員規模が大きくなるほど高い[4]。
転勤の目的は「社員の人材育成」が66.4%で最も多く、次いで「社員の処遇・適材適所」「組織運営上の人事ローテーションの結果」などが挙げられた。転勤命令については、「会社主導ですべて決定」に近いとする回答の合計が79.7%、「社員の意見・希望を踏まえて決められている」に近いとする回答の合計が19.4%であった。勤務地を限定する雇用区分(勤務地限定正社員)がある企業は15.8%で、勤務地限定正社員と全国転勤型との年収差は「5〜10%未満」が27.4%で最も多い[4]。
新卒入社から定年までの転勤経験者1人あたりの転勤回数は、国内転勤では「1〜2回」が40.6%、「3〜4回」が31.4%、「5〜6回」が15.3%であった。国内転勤で「5回以上」とする割合は、正社員1,000人以上規模の企業や国内拠点数の多い企業で高い[5]。配偶者のいる転勤者に占める単身赴任者の割合については、「ほとんど単身赴任」とする企業が国内転勤で28.6%、海外転勤で37.1%であり、「半々」以上(「ほとんど単身赴任」「6〜7割が単身赴任」「半々」の合計)は国内転勤で68.2%であった[5]。
同調査で企業に過去3年間の転勤における家族的事情等の考慮を尋ねると、考慮したことがある事情は「親等の介護」が56.7%で最も多く、次いで「本人の病気」「出産・育児」「結婚」「子の就学・受験」「配偶者の勤務(共働き)」であった。過去3年間に配偶者の転勤を理由に退職した正社員が「いる」とした企業は33.8%で、配偶者の転勤に伴う勤務地変更の仕組みは「制度としてある」が2.0%、「制度はないが運用としてある」が16.1%である。正社員側では、転勤免除の配慮を求めたことが「ある」とする者が12.2%(男性11.6%、女性14.6%)で、その事情は「親等の介護」28.2%、「子の就学・受験」19.3%、「出産・育児」16.9%の順であった。転勤があることにより困難に感じることについて「そう思う」「ややそう思う」の合計は、「介護がしづらい」75.1%、「持ち家を所有しづらい」68.1%、「進学期の子供の教育が難しい」65.8%、「育児がしづらい」53.2%、「子供を持ちづらい」32.4%、「結婚しづらい」29.3%であった。JILPTは同調査の政策的インプリケーションとして、「転勤による社員の教育や組織の活性化等の効果に留意しつつ、転勤が人材確保・定着の制約とならぬように、異動・転勤の雇用管理の在り方を個々の企業が検討することが望まれる」と述べている[4]。
厚生労働省は2017年3月30日に「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」を公表した。これは「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の2015年改訂版が、転勤の実態調査を進め「企業の経営判断にも配慮しつつ」、労働者の仕事と家庭生活の両立に資する「転勤に関する雇用管理のポイント(仮称)」の策定を目指すとしたことを受け、同年1月から3月に開かれた研究会の報告書を踏まえて取りまとめられたものである。同資料は「転勤に関する雇用管理について踏まえるべき法規範」「転勤に関する雇用管理を考える際の基本的な視点」「転勤に関する雇用管理のポイント」の3部で構成され、「ポイント」では「勤務地を限定しないことを原則とする場合」や「勤務地の変更の有無や範囲により雇用区分を分ける場合」など複数のケースを想定した雇用管理の事例が紹介されている[6]。JILPTの上記調査は、この「ポイント(仮称)」の策定に向けた研究会および報告書の基礎資料として提供されたものである[4]。
家族生活への影響に関する研究[編集]
「単身赴任」も参照
配偶者の転勤に対応する人事制度について、川端由美子は2018年の研究で、勤務地変更、休職、再雇用といった制度が置かれている場合でも企業の対応は必ずしも徹底していないとしたうえで、勤務地変更の制度には、本人の勤務先が事業を行う地域の中で欠員のある職場を探す必要があり地方では選択肢が少ないこと、勤務地によって職務内容が変わるため勤務地と経験のある職務のいずれかを選ばざるを得ないこと、定期的な人事異動の一部として運用されるため実施までに時間差が生じることなどの困難があると指摘した[7]。西英子は2015年の研究で、双方が仕事を続けるために転勤に伴って別居する夫婦を、妻が家庭にいる単身赴任と区別して「double career-double residency」(ダブルキャリア・二地域居住)と定義し、調査から、就業を続ける女性は育児や家事について親に依存する傾向があると報告して、育児・生活・住宅・キャリアに関する情報の共有を提案した[8]。
単身赴任と健康との関係について、平賀裕之らは2006年、ある企業の男性社員1,570人の検診結果を「単身赴任(単身生活)群」と「家族同居群」に分けて年代別に比較し、高血圧の有所見率が30歳代で14.9%と4.1%、40歳代で21.4%と13.8%と、両年代で単身赴任群のほうが有意に高かったと報告した。同研究では肥満、糖尿病、高脂血症については両群に有意差が認められず、結論は「単身赴任・単身生活により高血圧が多くなる可能性が示唆された」とされている[9]。
転勤の見直し[編集]
JILPTは前述の2017年(平成29年)の調査において、介護や子育て等の様々な理由により男女ともに転勤に関して様々な配慮を求める社員が増加しており、共働き世帯の増加を背景に配偶者の転勤に関わる配慮をする企業もあると述べている[4]。同調査の時点では、勤務地を限定する雇用区分がある企業は15.8%、配偶者の転勤に伴う勤務地変更の仕組みが「制度としてある」企業は2.0%であった[4]。
大槻奈巳は2025年(令和7年)の研究で、転居を伴う転勤について新たな方策を実施した企業への聞き取り調査と、総合職で転居を伴う転勤の対象となる従業員へのウェブ調査の結果から、調査対象の企業が人材確保への問題意識や女性の活躍に関する課題を踏まえて「転勤を減らす・なくす方策」を立てていたとし、その内容として、エリアごとの採用にして原則としてその中の異動のみとすること、リモート(テレワーク)の活用によって転勤しなくても遠隔で仕事ができるようにすること、転勤できる従業員が転勤することの3つを挙げた。あわせて、転勤を見直すことによって雇用管理区分の統合、社内公募、中途採用、ブロック別の採用が進み、転勤の可否を従業員が示せるように変わっていたと述べている[1]。同研究は一方で、総合職で国内転勤の対象となる従業員では、男女とも転勤経験がない者より2回以上ある者のほうが、また均等待遇の下にあると考えている者のほうが、転勤の有無によって採用区分やコース別採用を設けること、賃金に差をつけること、女性については昇進を制限することを妥当と考える傾向があったとしている[1]。
2024年(令和6年)4月からは、労働基準法施行規則第5条の改正により、全ての労働契約の締結時と有期労働契約の更新時に、「雇い入れ直後」の就業場所・業務の内容に加えて、これらの「変更の範囲」を明示することが必要となった[2][3]。厚生労働省は、この「変更の範囲」を「将来の配置転換などによって変わり得る就業場所・業務の範囲」と説明している[3]。
なお都市伝説としてマイホームを買うと転勤の辞令が出るというものがある。これはマイホーム購入に際して住宅ローンを組むにしろ、キャッシュで一括で支払うにしろ、大金が一度に出ていくのと一定額の出費が年単位で発生するために辞めたくても辞められなくなる心理が働き、転勤を拒みづらくなると考えられているから。
脚注[編集]
- ↑ a b c 大槻奈巳「人材確保と企業の転居を伴う転勤への対応について」、『社会政策』第17巻第1号、社会政策学会、2025年7月1日、 42-59頁、 、2026年9月12日確認。
- ↑ a b “令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます”. 厚生労働省. 2026年9月12日確認。
- ↑ a b c 『2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました』(レポート)、(PDF)厚生労働省、2024年9月。2026年9月12日確認。
- ↑ a b c d e f g “調査シリーズNo.174『企業の転勤の実態に関する調査』”. 労働政策研究・研修機構 (2017年10月25日). 2026年9月12日確認。
- ↑ a b 『調査シリーズNo.174 企業の転勤の実態に関する調査 第I部 調査結果』(レポート)、(PDF)労働政策研究・研修機構、2017年10月、19, 25。2026年9月12日確認。
- ↑ “「転勤に関する雇用管理のヒントと手法」を公表します”. 厚生労働省 (2017年3月30日). 2017年5月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年9月12日確認。
- ↑ 川端由美子「配偶者の転勤に対する諸制度とその課題―異動,休職,再雇用の観点から―」、『日本労務学会誌』第19巻第1号、日本労務学会、2018年、 26-42頁、 、2026年9月12日確認。
- ↑ 西英子「共働き世帯における転勤事情と二地域居住に関する研究 地域生活支援の展望」、『日本建築学会計画系論文集』第80巻第717号、日本建築学会、2015年、 2607-2616頁、 、2026年9月12日確認。
- ↑ 平賀裕之、保田孝治、佐野敏明「単身赴任と生活習慣病」、『心臓』第38巻第5号、日本心臓財団、2006年、 437-442頁、 、2026年9月12日確認。