白村江の戦い
白村江の戦い（はくすきのえのたたかい、はくそんこうのたたかい、朝鮮語:백강 전투 (白江戰鬪)）は、7世紀中葉の663年（斉明天皇7年/天智天皇2年）、朝鮮半島の白村江（現在の錦江河口付近か、熊津江下流との説がある）において、大和朝廷（当時の実質的な権力者は中大兄皇子）と百済の連合軍が、唐・新羅の連合軍と激突した国際戦争である。
背景[編集]
7世紀の東アジア情勢は、強大な勢力を誇る唐の出現によって大きく変動していた。朝鮮半島においては、伝統的に高句麗、百済、新羅の三国が鼎立していたが、唐は朝鮮半島の統一を目指し、新羅と同盟を結んで高句麗と百済への圧力を強めていた。
百済は、古くから日本と密接な関係を築いており、文化や技術を日本に伝えてきた。このため、百済が唐・新羅によって滅亡の危機に瀕すると、百済の要請を受けた大和朝廷は、百済復興支援のために援軍を派遣することを決定した。
経過[編集]
660年、唐・新羅連合軍は百済の都である泗沘城を陥落させ、百済を滅亡させた。しかし、百済の遺臣たちは各地で抵抗を続け、日本に亡命していた百済の王子扶余豊璋を国王として擁立し、百済復興を目指した。
大和朝廷は、斉明天皇の指揮のもと、大規模な遠征軍を組織し、朝鮮半島へと派遣した。この遠征軍には、当時の最高権力者である中大兄皇子も参加していた。日本からの援軍は、百扶余豊璋と合流し、百済復興のための戦いを開始した。
663年、日本・百済連合軍と唐・新羅連合軍は、白村江において一大決戦に臨んだ。この戦いでは、両軍が水軍と陸軍を動員して激しく衝突した。しかし、唐の水軍は日本の水軍を圧倒し、百済の陸軍も唐・新羅の精鋭部隊に敗れた。結果として、日本・百済連合軍は大敗を喫し、百済復興の夢は潰えた。
影響[編集]
白村江の戦いの敗北は、日本に大きな衝撃を与えた。当時、日本の軍事力は唐と比較してはるかに劣ることが露呈し、国防意識が飛躍的に高まった。
- 防衛施設の構築: 戦後、日本は大宰府の強化や水城、高安城などの山城の築造を急ピッチで進めた。これは、唐からの侵攻に備えるための防衛策であった。
- 律令国家体制の確立: 敗戦を機に、日本は国内の体制を立て直し、より中央集権的な律令国家の建設を加速させた。これにより、天皇を中心とする統治体制が強化され、国家としてのまとまりを強めた。
- 国際関係の変化: 朝鮮半島における日本の影響力は大きく後退し、唐と新羅が半島を支配する体制が確立された。日本は、これ以降、朝鮮半島への直接的な軍事介入を控えるようになる。
- 百済系渡来人の増加: 敗戦後、多くの百済の遺民や貴族が日本に亡命し、日本の文化や社会に大きな影響を与えた。彼らは、先進的な知識や技術を日本にもたらし、日本の発展に貢献した。
白村江の戦いは、日本の古代史における転換点の一つであり、その後の日本の国家形成と国際関係に多大な影響を与えた。
豆知識[編集]
- この戦いは、日本の歴史上、海外で行われた大規模な国際戦争として知られている。
- 戦いの場所である白村江の正確な位置については、現在でも諸説あり、特定されていない。
- 大和朝廷は、敗戦後も唐や新羅との外交関係を維持し、遣唐使などを派遣して積極的に大陸の文化を吸収した。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 坂本太郎『日本歴史大系 古代』（山川出版社、1987年）
- 遠山美都夫『白村江―古代東アジア大戦の謎』（講談社現代新書、1997年）