熱風の虎

出典: 謎の百科事典もどき『エンペディア(Enpedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

熱風の虎』(ねっぷうのとら)は、村上もとかによるバイク漫画[1]

概要[編集]

風を抜け!』(小学館、1986年 - 1988年)と合わせて、村上もとかによるバイク漫画2本のうちの1つである[1]。『風を抜け!』は「バイク漫画の金字塔」とも称されるが、村上の初長期連載作となった本作は、バイク漫画の草分け的な存在でありながら単行本の絶版が長らく続いていたことにより、「幻の名作」状態であった[1]。近年は電子書籍版の刊行によって、閲覧も容易となっている[1]

週刊少年ジャンプ』(集英社)にて、1976年27号から1977年9号に連載された。単行本は全5巻。また、同誌にて『虎のレーサー』が1975年21号から同年34号に連載されており、これが『熱風の虎』単行本にて「第一部 虎のレーサー」として採録されている[1]。このため、本作の開始を1975年とすることもある[1]

『週刊少年ジャンプ』で同時期に連載され、日本にスーパーカーブームを引き起こした『サーキットの狼』のバイク版とも言え、他のバイク漫画とは異なり、日本国外の名車(名バイク)が次々に登場するのが特徴である。

また、バイクレースだけではなく、2人で乗るサイドカーによるサイドカーレースを取り上げた漫画作品としても希少な例となる[1](唯一かも[2])。なお、サイドカーレースは2020年代に入っても、日本ではマイナーである[1]

あらすじ[編集]

「虎のレーサー」と呼ばれ日本中をわかせたレーサー・大番虎吉は松平オートバイ工業でテストライダーをしていたが、新車開発中の事故によりライダー引退を余儀なくされた。松平社長は会社の業績不振は、欧州市場に輸出するような大型バイクのラインナップが無いためと判断し、大型バイクの開発ならびに、レース出走といった経営戦略を打ち出し、虎吉に新車開発、新人ライダーの育成、レーシングチームの結成と監督を命ずる。

70名のライダー候補生の中には虎吉の息子・虎一の姿もあった。しかし、虎一は二次試験となるロードレースで、レース経験の不足を他の候補生に突かれて不合格となってしまう。さらには虎一がレース中に必殺技「サイドワインダー走法」を用いたことで、相手選手が死亡したこともあり、虎一は虎吉からも絶縁される。

父と袂を分かち、独自にレーサーへの道を模索する虎一は「タイガー」の異名をとる暴走族ヘッドのイサムを通じ、かつて虎吉とライバル関係にあったジョー鳥飼からスカウトされる。鳥飼は虎一とイサムを新型のサイドカーに乗せ特訓を施し、松平オートバイ工業へ殴り込みをかけ、シェイクダウン中だった松平の新車に挑む。結果、松平オートバイ工業の最新マシンを全車を廃車に追い込んだ(なお、虎一とイサムが乗るサイドカーも廃車)。

虎一とイサムは、世界の超一流バイクが集結するレースに挑む。

虎一はカワサキ・Z1で、イサムはミュンヒ4 1200TTSで出場。好敵手・氷巻明彦は、ロータリーエンジンを搭載し、リッター100馬力を超えるモンスターマシーン・バンビーン OCR 1000。氷巻はハンデとして周回遅れでスタートするのだが、瞬く間に周回遅れを脱し、トップ争いに加わる。

最終的に優勝したのは虎一であり、虎一と氷巻は日本を代表するライダーとして世界に舞台に競い合っていく。

執筆の経緯[編集]

村上の担当編集であった山路則隆(『はだしのゲン』(中沢啓治)の担当編集としても知られる[3])による企画で、実在のレーサー・浮谷東次郎(1942年 - 1965年)を題材にした「燃えて走れ」が1972年の『週刊少年ジャンプ』に掲載されて、村上はプロデビューすることになった[1]。山路は文芸編集志望であり、バイクレースについては、ほとんど知識がなく、当時の日本国内ではまだまだマイナーであったバイク漫画をやりたいと申し出たところ、すんなりと企画が通ってしまった。当時の『週刊少年ジャンプ』は週刊少年漫画誌としては後発であり、他誌がやらないような企画を積極的に取り入れていたという理由もある[1]

このように連載のスタートはスムーズであったが、前述のように編集の山路は専門外であるため、資料写真や文献を集めるといった内容ではアテにならず、村上自身がディーラーに赴いて実車を見せてもらったり、カタログをもらったり、街中を走っているバイクの写真を撮ったりといった苦労を背負うことになった[1]

中盤から、サイドカーレースに焦点を当てているが、主人公・虎一がサイドカーのハンドルを握る「ドライバー」ではなく、側車に乗る「パッセンジャー」であることも特徴に挙げられる。実際にサイドカーレースでは、パッセンジャーのテクニックによって勝敗が決まる点も大きく、パッセンジャーの体重移動のテクニックが「(読者である)少年心をくすぐる」と村上が考えたためである[1]

当初の構想では、 サイドカーレースを経て、再びバイクレースに戻る予定であったが、同時期に『週刊少年ジャンプ』に掲載されていた『サーキットの狼』の大ヒットによるスーパーカーブームに影響される形で、市販バイクによるバトル物へとシフトしていった[1]

主人公の虎一は日本製のカワサキ・Z1に乗るが、他は日本国外のバイクばかりというのは、上記のスーパーカーブームに依るものである。

登場する実車[編集]

架空のバイク[編集]

松平オートバイ工業
作中の松平オートバイ工業が製造するレーサー。以下の3種はいずれも一般的なチェーンではなくシャフトドライブ搭載である。
マツダイラ R-1[2]
排気量750cc、150馬力、DOHC
マツダイラ R-2[2]
排気量350cc、75馬力、DOHC
マツダイラ K-1[2]
耐久レース用
排気量1000cc、170馬力、DOHC
BMWRS10 タイガー2[2]
BMWRSエンジンを2機搭載したサイドカーレース用マシン

サイドワインダー走法[編集]

大番虎吉、大番虎一が用いる走法。「サイドワインダー」は「ガラガラ蛇」の意。

相手の背後にぴったり張り付いて走り、相手を自滅させる。相手のバイクを踏み台にしてジャンプする「サイドワインダー・ジャンプ」もある。

余談[編集]

バンビーン OCR 1000は高価であったこともあるが、全世界で数十台しか販売されたなかった[2]。そのうちの1台、日本で唯一、実車を保有している喫茶店が大阪にあり、「聖地」となっている(2015年時点)[2]。なお、この喫茶店はミュンヒ4 1200TTSも所有している模様。

脚注[編集]

  1. a b c d e f g h i j k l m 「村上もとかはオフ車好き!?」、『モトチャンプ』2021年7月号、三栄2021年、 90-101頁。
  2. a b c d e f g h i j k l トーマス @ ロレンス編集部 (2015年9月22日). “【一気読みレビュー!】粗くて荒っぽいが世界の名車、特にバンビーンOCRに蕩ける『熱風の虎』全5巻”. LAWRENCE. 2025年10月31日確認。
  3. “「悲惨すぎる」と連載に異論も ジャンプ編集長が「ゲン」続けた理由”. 朝日新聞. (2023年5月18日. https://www.asahi.com/articles/ASR5835SMR4DPTIL00F.html 2025年10月31日閲覧。