水槌ポンプ

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水槌ポンプ(すいつい[1]ポンプ)または水撃ポンプ(hydraulic ram、hydram)は水力を動力源とするポンプ水撃作用の効果を利用し、ポンプに流入する水の一部が高い水圧を得て、元々の地点よりも高い位置に持ち上がるようにする。

水槌ポンプは汲み上げる水の運動エネルギーのみで動作するため、電源がなくとも動作する。ただし、永久機関ではない。


開発途上国での持続可能な開発と、先進国での省エネルギーの必要性が高まったため、注目が集まっている。

構造と動作原理[編集]

水槌ポンプには、動く部品はばねや錘で負荷をかけた「排水」と「揚水逆止弁」の2つしかなく、組み立ても容易で修理も簡単であり、非常に信頼性が高い。そして高い位置にある水源からの水を供給する入力管と、入力管を通って入ってきた水の一部をさらに高い位置に導く揚水管がある。

しくみ[編集]

1. 取水口 — 入力管
2. 排水弁であふれ出る水
3. 揚水口 — 揚水管
4. 排水弁
5. 揚水逆止弁
6. 圧力容器

初期状態では排水弁が開いていて、揚水弁は閉じている。

入力管に入ってきた水は排水弁(4)を閉じさせる。

排水弁が閉じると、入力管内の流水の運動量によって水撃作用が起き、ポンプ内の水圧が上がり、揚水弁を開け、一部の水が揚水管および圧力容器に流れ込むと同時に、圧力容器内の空気を圧縮する。

揚水管へと流入した水は水源から入力管へと下るよりもずっと高い位置まで水を持ち上げようとするため、その流れはゆっくりになっていき、流れが逆転しようとしたときに揚水逆止弁が閉じる。同時に、圧力容器内で圧縮された空気が容器内に流入した水を排出し、更に揚水口方向へと押し上げる。

全ての水が静止すると、静水圧に対して排水弁が再び開き、これまでの過程が繰り返される。

圧力容器にはクッションとして空気が入っており、排水弁が閉じたときの水圧変化の衝撃を緩和し、揚水管に流れ込む水の量を増やす役目を果たし、ポンプとしての効率を高めている。理論上は圧力容器がなくとも水槌ポンプは動作可能だが、効率は大幅に低下し、しかも衝撃が繰り返しかかることでポンプの寿命がずっと短くなる。ここで、圧力容器内の空気が徐々に水に溶け、量が減っていくという問題がある。解決策としては、水と空気の間に伸縮自在な隔膜を装備する方法があるが、発展途上国など修理や部品の入手が困難な場所ではなかなか難しい。もう1つの解決策としては漏らし弁のような機構を使い、ポンプのサイクル毎に空気の泡を自動的に加えるという方法もある[2]。もっと簡単な解決策としては、自動車や自転車のタイヤのチューブにいくらか空気をつめたものを圧力容器内に入れて、弁を閉じる方法もある。この場合、チューブは隔膜と同じ役目を果たすが、特製の隔膜に比べれば世界中どこでも入手可能という利点がある。チューブ内の空気でも衝撃を和らげる作用は十分発揮する。

典型的な効率は60%だが、最高80%も不可能ではない。入力管の材質は、硬質塩ビ管や鉄管などの非弾性的で頑丈なものがよい。さもないと、水撃作用によって発生した揚水管へ水を吐出するべきエネルギーが入力管を膨張させる方向へ拡散してしまい、効率は大幅に低下する。

問題[編集]

構造上、どうしても排水弁の打撃音が発生するため、設置場所によっては騒音となる。また、水撃の圧力に耐えられる頑丈さが必要である。

脚注[編集]

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文献情報・参考文献[編集]

  • Crowley, C.A. (August 1937). “Hydraulic rams furnish water supply to country homes”. Popular Mechanics: 306–311. 
  • Crowley, C.A. (September 1937). “Hydraulic rams furnish water supply to country homes”. Popular Mechanics: 437–477. 
  • Toothe v. Bryce, 25 Atlantic Reporter , pp. 182–190 .
  • Iversen, H.W. (June 1975). “An analysis of the hydraulic ram”. Journal of Fluids Engineering: 191–196. 
  • 『Hydraulic Ram: Fixing & Working』vol II、Spon〈Spons' Workshop Receipts〉、London、1921年、457–465。
  • 歌原定二「水槌ポンプに就ての實験」、『機械學會誌』第37巻第206号、1934年6月1日、 339-342頁、 NAID 110002446667
  • 佐藤恭三「水槌ポンプ性能曲線の一実験に就いて」、『岩手大学学芸学部研究年報』第17巻第2号、1960年10月、 23-26頁、 NAID 120001122824
  • 「水撃ポンプ製作ガイドブック - 自然の力で水を上げる(自然エネルギー・ガイド)」パワー社 1999年5月 ISBN 978-4827722543

関連項目[編集]

外部リンク[編集]