日本の路面標示
本項では、日本の路面標示(ろめんひょうじ)について記述する。
概要[編集]
道路標示の管理[編集]
都道府県公安委員会が設置する道路標示の維持管理について、警察庁が都道府県警察に示す交通規制基準は、道路標識および道路標示が破損・滅失・褪色・摩耗その他の理由によりその効用が損なわれないよう、各種点検および点検結果の記録を確実に行い、適時取替え・補修・障害物の除去等を行うなど適正な維持管理に努めるものと定めている[1]。点検は、日常の警察活動の機会をとらえて設置状況の異常の有無を確認する常時点検、点検週間・点検月間の設定などにより定期的かつ計画的に行う定期点検、風水害等の災害の発生が予想される場合およびその発生直後などに行う特別点検の3種に区分されている[2]。同基準は、道路標示には原則として反射材料を用いるものとし、横断歩道や自転車横断帯などについては、交通事故の発生状況や沿道の状況等を勘案し、通常のペイントによる道路標示に比べて夜間・雨天時等における反射輝度や視認性に優れた高輝度の道路標示を設置するものとしている[3]。
2020年(令和2年)5月の衆議院内閣委員会において、国家公安委員会委員長は、警察庁が横断中の歩行者の事故の状況に照らして摩耗率の高いものから適切に更新するよう指示しており、都道府県警察において横断歩道の計画的な点検と補修に努めているものと承知しているとした[4]。その上で、約116万本に及ぶ全国の横断歩道の更新が「必ずしも十分行われていないとの指摘があること」も承知しているとし、横断歩道をはじめとする道路標識・道路標示の維持管理が適切になされるよう引き続き警察を指導するとした[4]。
道路標示の更新は国の計画上の指標にも位置付けられており、2021年(令和3年)5月に閣議決定された第5次社会資本整備重点計画は「信号機のない横断歩道の更新数」を指標に掲げ、2025年度(令和7年度)までに約8万本分の横断歩道を更新するとした[5]。2026年(令和8年)1月に閣議決定された第6次社会資本整備重点計画も同じ指標を掲げ、2030年度(令和12年度)末までに約8万本の横断歩道を更新するとしている[6]。2024年(令和6年)3月の衆議院国土交通委員会において、警察庁長官官房審議官は、第5次社会資本整備重点計画の指標を定めて取り組んでいるとし、道路標示の更新を含む交通安全施設等整備事業への補助金として2023年度(令和5年度)に約178億円を措置して各都道府県警察へ交付していると答弁した[7]。
摩耗した横断歩道を市町村が自主的に補修することの可否も、質問主意書とこれに対する政府の答弁書で取り上げられている[8]。政府は2019年(令和元年)12月の答弁書で、地方財政法第28条の2の規定に基づき地方公共団体相互間の財政秩序を維持することにより地方財政の健全性を確保することは現在においても必要であるとした[8]。また、同条は法令の規定と異なる地方公共団体の経費負担となる行為のすべてを一律に禁じるものではなく、そのような行為を原則として負担区分を乱すものとして禁じつつ、実質的にみて地方財政の健全性を害するおそれのないものは例外的に許容していると解されていると承知しているとしつつ、同条の規定の適用は個別具体的な事実関係に則して判断されるべきものであるとした[8]。2022年(令和4年)2月の衆議院予算委員会第一分科会において、警察庁交通局長は、都道府県警察が各種警察活動や合同点検等を通じて補修すべき箇所の把握に努め、市町村や地域住民の要望も踏まえて計画的に更新を行っていると述べた上で、横断歩道の維持管理は道路交通法に基づき交通規制を実施する都道府県公安委員会において一元的に実施することが適切であろうとし、摩耗状況に応じて優先順位を付けて効率的に更新を行うよう都道府県警察を指導するとしている[9]。
都道府県警察が道路標識・道路標示の修繕に関する要望を受け付ける例として、警視庁は標識・標示の修繕等に関する意見・要望の受付ページを設け、記載例として「『止まれ』の道路標示が消えかけている」を挙げている[10]。都道府県警察の決算の例として、警視庁は東京都議会の各会計決算特別委員会において、2019年度(令和元年度)の交通安全施設整備費(交通信号機の新設や改良、道路標識、道路標示の整備等に要した経費)の支出済額を146億9,600万余円と説明している[11]。2020年(令和2年)10月の同委員会で警視庁は、子供の安全確保のための対策として、道路管理者等と合同で約7,400施設の幼稚園・保育所等を対象とした散歩経路等の緊急点検を実施し、横断歩道の補修や歩行者用信号機の時間延長等の交通環境の整備を進めてきたと説明している[11]。
区画線の管理[編集]
道路管理者には、道路法第42条第1項により、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、一般交通に支障を及ぼさないように努める義務が課されている[12]。道路管理者が設置する区画線の維持修繕の優先順位について、2025年(令和7年)3月の衆議院国土交通委員会において、国土交通省道路局長は、特に地方公共団体が管理する道路では、視認性、交通の状況(交通量の多寡)、緊急輸送道路になっているかどうかといった路線の重要性など、現場の条件に応じてそれぞれの道路管理者において個別に判断がされていると答弁した[13]。
財政面については、同日の同委員会において、国土交通大臣が、単純な区画線の更新作業などは国からの財政支援の対象になっていないが、地方公共団体に向けては、区画線を反射率の高いものに更新する場合や交通安全対策として新たに設置する場合には国が交付金で支援を行っているとしている[13]。
同大臣は、路面標示には警察が管理する横断歩道などの道路標示と道路管理者が管理する車道の中央線などの区画線があるとした上で、道路管理者と警察で「それぞれの更新時期を合わせていないなどの課題」があると認識していると述べた[13]。また、先進的な地域の事例として、地方整備局・県・警察による路面標示に関する調整会議を設けて国・県・市町と警察が同時に施工している取り組みや、AIを活用した劣化の検知システム・耐久性の高い塗料などの技術開発を挙げ、これらを全国に周知し展開したいとしている[13]。
更新の時期については、千葉県内の一般幹線道路を対象に、施工後の経過年数別に収集した現場撮影画像の解析から剥離率を求め、折れ線回帰モデルによって推計した2019年(平成31年)の研究がある[14]。同研究は、少なくとも区画線の剥離率が急激に上昇する直前に当たる経過7年程度において区画線の更新時期を設定することが望ましいとしている[14]。
高速道路の区画線については、2026年(令和8年)に交通工学論文集に掲載された分析が、運転者による線形の認識とレーンキープアシストの正常な動作の面で重要度が高いとし、高速道路会社3社の区画線の維持管理では、点検員の目視による健全度判定に加えて補助指標として夜間再帰反射輝度が測定されていると報告している[15]。同分析では、剥離率と目視による健全度判定の間には一定の相関が見られ現行の点検手法が援用できるとされた一方、夜間再帰反射輝度と剥離率の間には強い相関は見られなかったとされている[15]。
区画線の整備は市区町村の事業としても行われており、東京都都民安全総合対策本部の資料では、都内の区市町村の交通安全施設整備事業経費のうち区画線の整備に係る2025年度(令和7年度)決算額は約9億5,400万円(うち特別区が約7億1,100万円)とされている[16]。
脚注[編集]
- ↑ 警察庁 2017, p. 18.
- ↑ 警察庁 2017, p. 46.
- ↑ 警察庁 2017, p. 45.
- ↑ a b “第201回国会 衆議院 内閣委員会 第15号 令和2年5月29日”. 国立国会図書館 国会会議録検索システム (2020年5月29日). 2026年9月9日確認。
- ↑ 『第5次社会資本整備重点計画』(レポート)、(PDF)国土交通省、2021年5月28日。2026年9月9日確認。
- ↑ 『第6次社会資本整備重点計画』(レポート)、(PDF)国土交通省、2026年1月16日。2026年9月9日確認。
- ↑ “第213回国会 衆議院 国土交通委員会 第2号 令和6年3月13日”. 国立国会図書館 国会会議録検索システム (2024年3月13日). 2026年9月9日確認。
- ↑ a b c “第200回国会 答弁第130号 かすれて見えなくなった横断歩道の補修を市町村が自主的に行うことに関する質問に対する答弁書”. 衆議院 (2019年12月13日). 2026年9月9日確認。
- ↑ “第208回国会 衆議院 予算委員会第一分科会 第2号 令和4年2月17日”. 国立国会図書館 国会会議録検索システム (2022年2月17日). 2026年9月9日確認。
- ↑ “標識・標示の修繕等”. 警視庁 (2025年7月1日). 2026年9月9日確認。
- ↑ a b “令和元年度各会計決算特別委員会第一分科会速記録第二号”. 東京都議会 (2020年10月12日). 2026年9月9日確認。
- ↑ “道路法”. e-Gov法令検索. 2026年9月9日確認。
- ↑ a b c d “第217回国会 衆議院 国土交通委員会 第2号 令和7年3月14日”. 国立国会図書館 国会会議録検索システム (2025年3月14日). 2026年9月9日確認。
- ↑ a b 兵頭知ほか 2019, pp. A_267-A_274.
- ↑ a b 阪本浩章ほか 2026, pp. A_79-A_87.
- ↑ 『区市町村における交通安全対策事業の現況』(レポート)、(PDF)東京都都民安全総合対策本部、2026年8月。2026年9月9日確認。
関連項目[編集]
- 道路標識
- 交通信号機
- 道路標識及び信号に関するウィーン条約 - 路面標示に関する規定がある。
外部リンク[編集]
- 各種団体
- 官公庁