排気量
排気量(はいきりょう)とは、内燃機関において燃焼によってピストンが上下運動する際に、シリンダー(気筒)内で掃気される空気・燃料混合気の容積を指す用語である。単位としては通常立方センチメートル(ccまたはcm³)が用いられ、国際単位系ではリットル(L)表記も見られる。
概要[編集]
排気量は内燃機関の基本性能を示す重要な指標であり、自動車、オートバイ、発電機、小型船舶など、燃焼をエネルギー源とする機械の多くで用いられている。排気量とはすなわち「どれだけの混合気を燃やせるか」の目安であり、大きいほど一度の燃焼で得られるエネルギーも大きく、馬力やトルクなどの出力性能が高まる傾向にある。ただしその一方で、燃料消費量や自動車税などへの影響も無視できない。
自動車においては、排気量の大小によりエンジンの性格が大きく変化する。小排気量エンジンは、取り込める混合気が限られるため、出力確保には高回転化によって燃焼回数を稼ぐ必要がある。これにより単位時間あたりの出力密度は高まるが、低回転域ではトルクが細くなるため、実用域では頻繁なシフト操作や回転数の維持が求められる。また、高回転型エンジン特有の振動や部品への負荷が課題となり、耐久性や静粛性とのトレードオフも生じやすい。このようなエンジンは、軽量車両やスポーツカー、あるいはオートバイなどで重宝される傾向にある。
一方で、大排気量エンジンは1回あたりに多くの混合気を取り込めるため、低回転でも大きなトルクを発揮しやすく、静粛で余裕ある走りが可能となる。アメリカ車や高級車、SUVなどに多く採用されており、エンジン回転数を抑えることで部品寿命や快適性の向上にもつながる。ただし、重量増や燃費の悪化といった欠点も抱えるため、燃費規制の厳しい現代では縮小傾向にある。
なお、近年では小排気量エンジンにターボチャージャーなどの過給器を装着することで、見かけの排気量以上の性能を引き出す「ダウンサイジングターボ」も広く普及している。
なお、エンジンの排気量はそのクラスの上限から数cc程度小さいものにしているのが通常である。例えば2000ccクラスのエンジンとして有名なスバル・EJ20の場合、車検証に記載される排気量は1994cc(1.99L)程度になっていることが多い。これは個体差による上振れにより、より上のクラスとして分類されないためのマージンである。また、オートバイは免許により運転できる排気量の上限が異なることもあり、普通自動二輪車免許しか有していない者が408ccのオートバイを運転すると無免許運転として検挙される。
排気量が同じでも、ターボチャージャーやスーパーチャージャーの有無、気筒数、エンジン形式(直列・V型・水平対向など)によって特性は大きく異なる。また、シリンダー径とピストンの移動距離の比率であるボアストローク比によっても実際の運転感覚やエンジンの特性は大きく変化する。
排気量の求め方[編集]
エンジンの排気量は、1気筒あたりのシリンダー容積に気筒数を掛けることで求められる。基本的な計算式は以下のとおりである。
- 排気量(cc)=(ボア半径² × π × ストローク)× 気筒数 ÷ 1000
ここでの単位はすべてミリメートル(mm)とし、計算後に1,000で割って立方センチメートル(cc)へ変換する。なお、「ボア半径」はボア(シリンダー内径)を2で割った値である。
スバル・EJ20型エンジンを例に挙げると、ボア92.0mm、ストローク75.0mm、水平対向4気筒という構成を持つ。このときの排気量は次の通り。
- ボア半径=92.0 ÷ 2=46.0mm
- 排気量=(46.0 × 46.0 × 3.1416 × 75.0) × 4 ÷ 1000
- ≒ 1994 cc
ボアストローク比[編集]
ボアストローク比とは、エンジンのシリンダー径(ボア)とストローク(ピストンの上下移動距離)の比率を指す用語であり、エンジンの性格や特性を理解するうえで重要な指標となる。排気量が同じであっても、この比率により回転特性や出力特性、さらにはエンジンの外形寸法や搭載性まで大きく左右される。
この比率によってエンジンは大きく以下の3つに分類される。
- ロングストローク型(ボア<ストローク)
- ストロークがボアよりも長く、ピストンの上下運動が大きいタイプ。低中回転域でのトルクに優れ、燃焼室がコンパクトになることから燃焼効率も高めやすい。ただし高回転化には不向きで、ピストンスピードの増大に伴う摩耗や振動が課題となる。ディーゼルエンジンや実用志向の乗用車に多く採用される。
- スクエア型(ボア=ストローク)
- ショートストローク型(ボア>ストローク)
- ボアがストロークよりも大きく、ピストン運動距離が短い分、高回転化が容易となる構成。バルブ径を大きく取れるため吸排気効率に優れ、同一時間あたりの燃焼回数を稼ぐことで高出力化に貢献する。一方、トルクは細くなる傾向があり、スポーツカーやバイクレースなど高回転領域を多用する用途で好まれる。
ロータリーエンジン[編集]
ロータリーエンジン(ヴァンケル型)は、レシプロエンジンとは構造が大きく異なるため、排気量の取り扱いも通常とは異なった手法がとられることが多い。
ロータリーエンジンは1ローターあたり3つの燃焼室を持ち、ローターが1回転するあいだに3回の膨張行程(実質的な燃焼)を行う構造を持つ。これに対し、レシプロエンジンは1気筒あたり2回転で1回の出力行程しかないため、同じ排気量表記でも出力密度や燃焼回数に大きな差が生じる。しかし、ロータリーエンジンの排気量は「片側燃焼室の容積×ローター数」によって表記されており、たとえばマツダ・13B型エンジンの場合、654cc×2ローター=1,308ccとされる。これはあくまで1回の燃焼あたりの容積に過ぎず、実際の出力特性は2,000~2,500cc級のレシプロエンジンに匹敵するとされる。
このため、日本における自動車税(自動車税種別割)では、ロータリーエンジン搭載車に対して「排気量×1.5倍の係数」を適用し、課税根拠としている。一方、2019年に自動車税率の改正があった際に「2019年9月30日までに初回登録を受けたRE車の総排気量は排気量×1.5とする」という規定が抜け落ちているのにもかかわらず従来通りの課税を行っていたため、2023年までの4年間近くも根拠なき課税が行われていたことが発覚[1]。全国の複数の自治体で還付する騒ぎとなった。
モータースポーツなどの競技分野では、さらなる係数(例:×2.0や×2.4)を用いて排気量換算が行われる場合もある。なお、モータースポーツにおいてはターボチャージャーに対しても係数(いわゆるターボ係数)を適用されることがあるが、日本の税制においてはエンジン本体の排気量のみで課税されている。
排気量と性能[編集]
排気量が大きいほど高出力を発揮しやすい一方、燃費や環境性能とのトレードオフも生じる。近年では、排出ガス規制の強化や燃費基準の達成を背景に、排気量の小さいダウンサイジングターボエンジンの採用例が増加傾向にある。
ただし、大排気量自然吸気エンジンのリニアな出力特性や音響、トルク感を好む自動車愛好家も多く、排気量は性能だけでなく「嗜好性」にも直結する重要な要素である。
関連項目[編集]
脚注[編集]
- ↑ https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/zei/jidousyazeiayamari.html 広島県税務課「自動車税の排気量区分に関する案内」