古鷹型重巡洋艦
古鷹型重巡洋艦(ふるたかかたじゅうじゅんようかん)は、大日本帝国海軍がワシントン海軍軍縮条約締結後に初めて建造した一等巡洋艦の艦級である。同型艦は2隻。当初は二等巡洋艦として計画されたが、建造途中に軍縮条約が締結され、主砲口径が20cm砲であることから重巡洋艦(一等巡洋艦)に類別された。
概要[編集]
大日本帝国海軍は、八八艦隊計画において巡洋艦の整備を計画していたが、ワシントン海軍軍縮条約により建造計画は大幅に変更を余儀なくされた。この条約において、巡洋艦の保有排水量は制限されず、主砲口径が8インチ(20.3cm)を超える巡洋艦を「一等巡洋艦」(後の重巡洋艦)、それ以下の巡洋艦を「二等巡洋艦」(後の軽巡洋艦)と定義した。古鷹型は、元々夕張型軽巡洋艦の発展型として、排水量7,500トン級の二等巡洋艦として計画された「八四艦隊計画」の一部であった。しかし、建造中にワシントン海軍軍縮条約が締結され、その後のロンドン海軍軍縮条約を控えた軍縮の情勢下で、日本は限られた枠内で強力な艦船を保有するため、主砲を20cm砲とすることが決定された。これにより、本艦級は一等巡洋艦として類別されることになった。
古鷹型は、それまでの日本巡洋艦とは一線を画する設計が随所に採用された。従来の巡洋艦は、建造所によって設計思想が異なることが多かったが、古鷹型では一貫した設計思想に基づき、船体と兵装の統合が図られた。特に、20cm単装砲6基をすべて中心線上に配置したことで、両舷への斉射能力を大幅に向上させた。また、魚雷兵装も重視されており、強力な魚雷発射管を搭載していた。しかし、当時の日本の造船技術では、防御力と速力を両立させることに限界があり、条約排水量に収めるため、船体強度の不足や防御装甲の薄さといった問題も抱えていた。
同型艦[編集]
古鷹型重巡洋艦は2隻が建造された。
- 古鷹:三菱重工業長崎造船所で建造。1926年3月31日竣工。ソロモン諸島方面で活躍したが、エスペランス岬沖海戦で米軍艦隊の集中砲火を浴びて沈没。
- 加古:神戸川崎造船所で建造。1927年7月20日竣工。古鷹と共に第六戦隊を編成。第一次ソロモン海戦に参加後、帰途に米潜水艦S-44の雷撃を受け沈没。
艦体と兵装[編集]
古鷹型の船体は、当時としては革新的な「全部中心線配置」を採用し、主砲塔がすべて船体中心線上に配置された。これにより、全主砲の斉射が可能となり、攻撃力が大幅に向上した。竣工時の主砲は20cm単装砲6基であったが、これは当時の日本海軍の巡洋艦としては最大口径であった。しかし、単装砲塔は発射速度が遅く、また防御力も不十分であったため、後に青葉型で採用された20.3cm連装砲に換装する計画も存在したが、実現しなかった。
対空兵装としては、当初12cm単装高角砲4基を装備していた。これは当時の標準的な装備であったが、太平洋戦争開戦後には対空戦闘能力の不足が露呈し、25mm三連装機銃などが追加装備された。
魚雷兵装は、竣工時61cm連装魚雷発射管6基を装備しており、その強力な魚雷は日本海軍の夜戦における切り札となった。しかし、魚雷発射管は露天式であり、被弾時の誘爆の危険性が高かったため、後に一部が撤去され、魚雷格納庫が設置されるなど、防御力の向上が図られた。
航空兵装としては、当初は水上偵察機を搭載するのみであったが、後に呉式二号二型射出機が搭載され、偵察能力が強化された。
評価[編集]
古鷹型重巡洋艦は、日本海軍がワシントン海軍軍縮条約の制約下で、いかに強力な艦を建造しようとしたかを示す象徴的な存在である。設計においては、後の妙高型や高雄型といった、より強力な重巡洋艦の礎となった。しかし、条約排水量に収めるための無理な設計や、当時の技術水準の限界から、防御力や居住性には課題を残した。
太平洋戦争開戦時にはすでに旧式化が進んでおり、特に防御力の不足はソロモン諸島方面での激しい戦闘において致命的な欠点となった。しかし、その強力な雷装と日本海軍特有の夜戦術と相まって、第一次ソロモン海戦では連合軍艦隊に大きな損害を与えるなど、一定の戦果を挙げた。
豆知識[編集]
- 古鷹型の設計に際し、イギリス海軍のホーキンス級巡洋艦が参考にされたと言われています。
- 当初は魚雷発射管が甲板上にむき出しで設置されており、被弾時の誘爆の危険性が高かったため、乗員からは「缶詰魚雷」と揶揄されることもありました。
- 竣工時の主砲は20cm単装砲でしたが、後に青葉型で採用された20.3cm連装砲への換装が検討されたものの、重心の上昇や工期の関係で断念されました。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 『丸』編集部編 『世界の艦船 増刊第101集 日本巡洋艦史』海人社、2015年。
- 福井静夫 『日本巡洋艦物語』光人社NF文庫、1992年。
- 歴史群像編集部編 『歴史群像太平洋戦史シリーズVol.30 重巡古鷹・加古・青葉・衣笠』学習研究社、2000年。