印象派
印象派(いんしょうは、フランス語: Impressionnisme)は、19世紀後半のフランスに始まった絵画を中心とした芸術運動である。
主に1870年代から1880年代にかけて、パリを拠点とした画家たちが、伝統的なアカデミックな絵画の規範に反発し、新しい表現方法を追求した。彼らは、スタジオでの制作よりも屋外での写生を重視し、光の移ろいや大気の変化、色彩の瞬間的な印象をキャンバスに捉えることを試みた。
概要[編集]
印象派の画家たちは、当時のサロン(官展)によって支配されていた絵画界の保守的な傾向に不満を抱いていた。彼らは、歴史画や神話画といった主題よりも、日常生活や風景、都市の景観などを題材に選び、筆触分割や点描といった技法を用いて、光と色彩の相互作用を表現した。
彼らの作品は、輪郭をぼかし、粗い筆致で描かれていることが多く、完成された絵画というよりも、目の前で感じた「印象」を素早く捉えたスケッチのように見えたため、当時の批評家からは酷評された。特に、ルイ・ルロワが1874年に、クロード・モネの作品『印象、日の出』にちなんで「印象派」と揶揄したことが、この芸術運動の名称の由来となった。しかし、この名称は後に彼ら自身によって受け入れられ、定着することとなった。
主要な画家と作品[編集]
- クロード・モネ:『印象、日の出』、『睡蓮』連作
- ピエール=オーギュスト・ルノワール:『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』、『舟遊びの昼食』
- エドガー・ドガ:『アブサン』、『バレリーナ』シリーズ
- カミーユ・ピサロ:『モンマルトル大通り』
- アルフレッド・シスレー:『モレのロワン運河』
- ベルト・モリゾ:『ゆりかご』
- エドゥアール・マネ(印象派の先駆者とされる):『オランピア』、『草上の昼食』
印象派の技法と特徴[編集]
印象派の画家たちは、以下のような技法や特徴を共有していた。
- 戸外制作(アン・プレン・エール):スタジオではなく、屋外で直接光と色彩を観察し、描くことを重視した。
- 光の表現:時間や天候によって変化する光の効果を捉え、描かれた対象の立体感や質感よりも、光そのものの表現に注力した。
- 色彩:パレット上で色を混ぜるのではなく、原色をキャンバス上で並置し、見る者の目の中で色が混じり合う効果を狙った(筆触分割)。
- 筆致:細部まで描き込むよりも、粗い筆致で素早いタッチを重ねることで、動きや生命感を表現した。
- 日常的な主題:神話や歴史といった伝統的な主題ではなく、風景、都市生活、肖像画、静物画など、身近な事柄を好んで描いた。
- 瞬間的な印象:対象の unchanging な本質ではなく、一瞬のうちに変化する視覚的な「印象」を捉えることを目指した。
印象派の発展と影響[編集]
印象派は、その後、ポスト印象派、新印象派、フォーヴィスムなど、多くの芸術運動に影響を与え、近代美術の出発点となった。彼らの絵画に対する革新的なアプローチは、後の20世紀の美術に大きな道を開いたと言える。
豆知識[編集]
印象派の画家たちは、当時、日本から輸入された浮世絵に強い影響を受けていた。浮世絵の平面的な構図、大胆なトリミング、鮮やかな色彩などは、彼らの視覚表現に新たな可能性を示唆したと言われている。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 高階秀爾『印象派の人々』新潮社、2006年。ISBN 978-4106006734。
- ジョン・リウォルド『印象主義の歴史』みすず書房、2004年。ISBN 978-4622070104。