一式砲戦車
一式砲戦車（いちしきほうせんしゃ）は、大日本帝国陸軍が第二次世界大戦中に開発・採用した砲戦車である。秘匿名称はホイ。既存の九七式中戦車の車台を流用し、九十式野砲を搭載した自走砲として開発された。
概要[編集]
一式砲戦車は、日中戦争における国民革命軍の堅固な陣地に対する火力支援能力の不足、および来るべき対ソ戦においてソビエト連邦軍の強力な戦車に対抗できる対戦車兵器の必要性から開発が開始された。しかし、日米開戦が迫る中、対戦車戦闘よりも既存の野砲を自走化することによる歩兵支援、陣地攻撃に主眼が置かれた。
開発は1941年（昭和16年）に開始され、既存の九七式中戦車（チハ車）の車台を流用し、九十式野砲を搭載する計画が進められた。車体上部に大きな固定戦闘室を設け、その中に九十式野砲を搭載する方式が採られた。これにより、限定的ながらも全周射撃が可能となった。1942年（昭和17年）に制式化され、「一式砲戦車」の名称が与えられた。
特徴[編集]
一式砲戦車は、九七式中戦車の車体をベースとしているため、走行装置などは九七式中戦車と共通である。しかし、砲の搭載スペースを確保するため、車体後部にエンジンを移し、車体中央から前部にかけて巨大な固定戦闘室が設けられた。この戦闘室はオープントップ構造であり、砲手の防護は限定的であった。
主砲には、口径75 mmの九十式野砲が採用された。この砲は元々牽引式の野砲であり、その威力は歩兵支援や軽装甲車両に対しては十分であったものの、連合軍の新型戦車、特にアメリカのM4中戦車に対しては力不足であった。後に、より強力な九十七式七糎半野戦高射砲（高射砲を改修し対地攻撃能力を付与したもの）を搭載した一式砲戦車（II型）の開発も試みられたが、生産は進まなかった。
装甲は、車体前面が50 mmと比較的厚く、防弾鋼板が使用されていた。しかし、側面や後面は薄く、特にオープントップの戦闘室は上空からの攻撃に脆弱であった。
戦歴[編集]
一式砲戦車は、主に太平洋戦争末期のフィリピン、沖縄、満州、そして日本本土決戦に備えて配備された。しかし、生産数が限られていたこと、および連合軍の圧倒的な物量と航空優勢の前に、大きな戦果を挙げることはできなかった。
フィリピンの戦い (1944-1945年)では、ルソン島のリンガエン湾防衛戦などに投入されたが、多数が撃破された。沖縄戦においても数両が投入されたが、地形的な制約やアメリカ軍の猛攻により、ほとんどが失われた。ソ連対日参戦においても、満州に配備されていた少数が戦闘に参加したが、ソ連軍のT-34戦車などに対しては有効な打撃を与えることができず、一方的に破壊されることが多かった。
バリエーション[編集]
- 一式砲戦車（I型）：九十式野砲を搭載した基本型。
- 一式砲戦車（II型）：九十七式七糎半野戦高射砲を搭載した改良型。試作のみで、量産には至らなかったとされる。
豆知識[編集]
一式砲戦車は、そのユニークな形状と、九七式中戦車をベースとした国産自走砲であることから、模型やゲームなどでも題材とされることがある。開発当初は対戦車戦闘も想定されていたが、結果的には歩兵支援車両としての性格が強かった。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 陸軍機甲部隊、歴史群像シリーズ、学習研究社、2002年
- 日本の戦車と軍用車両、グランドパワー、デルタ出版、各号
- 日本陸軍の戦車、ガリレオ出版、2010年