ユーザビリティ
ユーザビリティ(英語: usability)は、「使いやすさ」を示す言葉。国際規格のISO 9241-11では、「ある製品を、特定の利用者が、特定の目的を達成しようとするにあたって、特定の状況で、いかに効果的に、効率的に、満足できるように使えるかの度合い」[1]。
定義[編集]
違い[編集]
ニールセンの定義するユーザビリティは、ISO 9241-11の定義よりも意味が若干限定的になっている。
ニールセンの定義では、ユーザが望む機能をシステムが十分満たしているかどうか、といった事柄はユーティリティ(実用性)に含まれる内容である。それと区別して、ユーザビリティは、その機能をユーザがどれくらい便利に使えるかという意味であるとされている。 一方、ISO 13407では、ニールセンがユーティリティと定義した内容も、ユーザビリティに含んでいる。つまりニールセンが定義するユーザビリティは、ISO 13407が定義するユーザビリティに内包される形となる。
ほかにISO 9126はソフトウェアの品質に関する規格で、理解性、修得性、操作性を挙げている。
訳語[編集]
ユーザビリティに類する日本語は、以下に挙げるような用語が、多数にわたって存在している。
- 使い勝手
- 使い勝手とは、使いやすさの程度を表す言葉であり、一般には「使い勝手がいい、悪い」という形で使われている。その意味合いはかなり広く、取り扱いが容易であること、操作が分かりやすいこと、便利な機能がついていること、などを意味している。その意味で、後述の大きなユーザビリティ(英語:big usability)やニールセンのユースフルネス(英語:usefulness)に近い概念であり、したがって、またISO9241-11の定義におよそ対応すると言ってよい。ただし、ユーザの利用状況や達成目標に適合している、というニュアンスまでは表現しえていないため、現在はユーザビリティというカタカナ語が一般的に使われている。
- 使いやすさ
- 使いやすさ (英語:ease of operation) とは、一般的には取り扱いが容易であることを意味している。前述のように使い勝手は使いやすさの程度をあらわす言葉であるが、使い勝手に比較すると使いやすさはその対象範囲が操作部位に限定される傾向がある。また時代的には、マンマシンインタフェースが研究対象とされていた時期によく使われていた。この意味で、操作性 (英語:operability) とも近い概念である。
- 利用性
- 利用性は利用のしやすさをあらわす言葉であり、「usability」の訳語として利用することも可能ではあるが、特定の達成目標に依存した面があり、またあまり一般的ではない。
- 使用性
- 使用性はISO9241-11をJIS規格にする際に「usability」の訳語として用いられた。その意味ではユーザビリティと等価であるともいえるが、必ずしも一般的な用語ではないため、特別な技術的文脈でしか使われていない。
- 可用性
- 可用性はユーザビリティに近い概念であるが、厳密にいうと「availability」の訳語であり、システムの壊れにくさを表すものである。
- 利用品質
- 利用品質は「quality in use」または「quality of use」の訳であり、英語においても「usability」とほぼ等価な意味合いで用いられている。ただ、この用語が使われるのは、品質 (quality) という観点で議論を行う文脈である場合が多く、品質保証や品質管理などに近い分野で使われることが多い。
- ユーザーテスト
- ユーザテストは、製品テスト、設計テスト、ユーザビリティテスト、設計検証など多くの名前で知られている。実際のシナリオで実際のユーザーとデザインをテストする非常に重要なプロセスであり、ユーザーの懸念やユーザビリティの問題を深く理解すれば、その問題を解決することができるとされる[2]。
背景[編集]
シャッケル[編集]
人間工学の大家であったブライアン・シャッケル(Brian Shackel)は、1991年の著作『Human Factors for Informatics Usability』の中で、ユーティリティ(utility、必要な機能があるか)とユーザビリティ(usability、ユーザがうまく使えるか)とライカビリティ(likeability、ユーザが適切だと感じられるか)という三つの側面の総和と、コスト(初期コストと運用コスト)とのバランスを考慮し、前者の比率が高いものほどアクセプタビリティ(バランスがとれており、購入するに最適である)が高いといえる、という構図を提案している。
この考え方は、以後のユーザビリティ概念(たとえばニールセン、ISO9241-11)に影響を及ぼしたと考えられる。
ニールセン[編集]
ウェブ・ユーザビリティの権威であるニールセンは、ユーザビリティに関して最初に出版された概論書『ユーザビリティエンジニアリング原論』 (1994) において、ユーザビリティの概念を、彼の考えた階層的概念構造の中に位置づけて示した。
それによると、ユーザビリティは、学習しやすさ (learnability)、効率 (efficiency)、記憶しやすさ (memorability)、エラー (errors)、満足 (satisfaction) といった品質要素から構成される概念として示されている。この定義は、いちおう人間工学、認知工学、感性工学的な側面を考慮したものになっているが、かならずしも網羅的、かつ相互排他的になっておらず、概念定義としては十分なものではない。また、それぞれの品質要素は、学習のしやすさや効率などの諸側面において問題がないようにと考えられており、いわばマイナスでない特性の集合となっている。
いいかえれば、ニールセンにおけるユーザビリティは、そのような問題点のないことを意味しており、マイナスの側面を0レベルまで向上させるという意味合いを持っている。彼がヒューリスティック評価という手法を提唱したのは、ユーザビリティテスト (usability test、usability testing) による評価が全盛の時代であり、それはいいかえれば評価がユーザビリティ活動の中心となっていた時代でもあった。
ニールセンは、ユーザビリティと対比させてユーティリティ (utility) という概念を位置づけている。これは機能や性能のように製品やシステムのポジティブな側面である。いいかえれば、0レベルからプラスの方向に製品の魅力を増してゆくものである。このように、彼の定義ではユーザビリティにはプラスの方向性は含まれておらず、その意味で、小さなユーザビリティ (small usability) と呼ばれることもある。
ニールセンは、ユーザビリティとユーティリティを合わせた概念として、ユースフルネス (usefulness) という上位概念を位置づけているが、これは後述するISO9241-11のユーザビリティ定義に近いものであり、大きなユーザビリティ (big usability) と呼ばれる概念に近い。
ISO[編集]
ISO 9241-11は国際標準化機構が制定するユーザビリティ定義に関する規格である。
規格番号は9241-11、名称は「Ergonomics of human-system interaction — Part 11: Usability: Definitions and concepts」である。ISO 9241シリーズ "Ergonomics of human-system interaction" の1つ。対応する日本産業規格は「JIS Z 8521 人間工学-人とシステムとのインタラクション-ユーザビリティの定義及び概念」である。
この規格が定義する「効果」と「効率」は相互排他的である一方、満足は部分的に効果と効率に従属する(効果的で効率的だと満足度が高い)。同時に感性的な側面(例: 審美性)は満足固有であり、効果・効率から独立している。
この規格による定義はNielsenの定義と比較してポジティブな側面を含んだ幅広いものになっており、その意味で大きなユーザビリティ (big usability) と呼ばれることもある。このISO9241-11のユーザビリティの定義は、その後、ISO 13407やISO 20282、CIF (ISO 25062)などの各種の規格においても用いられることになり、ユーザビリティに関する現在の標準的定義であるといえる。
満足は効果・効率に部分的に従属し、また価格やデザインなどユーザビリティ以外の要因によっても影響されるため、ユーザビリティの下位概念に満足を含めない立場もある[3]。
測定・評価[編集]
測定尺度は客観的結果に基づくものと主観的結果に基づくものがある。タスク所要時間の実測値と体感値、タスク完了信号とユーザの「終わった」という認識/思い込み[4]、が例として挙げられる。
測定対象は効果・効率・満足であり、さまざまな測定尺度がある。システムの実利用を伴う測定は、ユーザの実使用を観察・計測するユーザーテスト、ユーザ行動・心理を深く理解した専門家による専門家評価(エキスパートレビュー)に大別される。例えば客観的満足を対象としたユーザーテストでは行動観察に基づくシステムの再利用頻度が測定尺度として有用である[5]。
利用・目的[編集]
美的ユーザビリティ効果[編集]
美的ユーザビリティ効果(英: aesthetic–usability effect)は審美性がユーザビリティを向上させる現象である。
ユーザビリティはそれを感じるタイミングによって以下の2種類に分類される。
- 見かけのユーザビリティ(英: apparent usability): システムを見て感じるユーザビリティ、「使いやすそうさ」[6]
- 実質的ユーザビリティ(英: inherent usability): システム利用を経て得るユーザビリティ、「使いやすいさ」[7]
美しさと使いやすさ(審美性とユーザビリティ)は一見すると独立した概念である。しかし心理実験の結果[8]、美しいものは使いやすそうと感じられるうえに「使いやすそうさ」と「使いやすいさ」が無相関であることが明らかになった[8]。つまり実際の使いやすさに関わらず、人は美しいものを使いやすそうと感じる(思い込む)心理特性があることが明らかになった。これが美的ユーザビリティ効果である。バラバラのレイアウトよりグリット状に並んでいるほうが(実際にグリットが使いやすいとは限らないのに)「何となく使いやすそう」と感じられるのはこの効果による。
この効果は様々な事柄を示唆する。「たとえ使いやすくても、美しくないとそれが伝わらない」「使いやすそうでも、それは着飾っているだけで使いづらいかもしれない」「着飾れば、使いやすそうと誤認させて売り込めるかもしれない」「使いやすそうなだけのUIデザインは詐欺的である[9]」。
美的ユーザビリティ効果は予期的UXや一時的UXに似た、本格使用の前に発生するユーザビリティである。ゆえにWebページのような一回性のシステムでは美的ユーザビリティ効果が前面に出やすい[10]。一方アプリのような継続利用前提のサービスでは、ユーザーは実際の利用を繰り返す中で実質的ユーザビリティに基づいて(総)ユーザビリティの評価を更新していくため、美的ユーザビリティ効果の影響は相対的に逓減すると考えられる。ぱっと見スタイリッシュで使いやすいそうな家計簿アプリが実際に使い込むと操作数が多くて使いづらい、といったケースはこの例である。
脚注[編集]
- ↑ 編集統括), 安田英久(Web担 (2009年5月13日). “ユーザビリティ とは 意味/解説/説明 【usability】 | Web担当者Forum” (日本語). webtan.impress.co.jp. 2023年1月25日確認。
- ↑ Toptal - How to Conduct Usability Testing in Six Steps
- ↑ 黒須正明
- ↑ "客観的には,ユーザがタスクを完遂できていない状態でも,ユーザが正しく終了して次の行動の必要がないと思い込んでいる場合" JIS Z 8521:2020
- ↑ "満足の客観的測定は,行動観察に基づく(例えば,システムの再利用)" JIS Z 8521:2020
- ↑ "見かけのユーザビリティ(apparent usability) ... つまり使いやすそうに見えるインタフェース" 黒須. (2022). 見かけのユーザビリティの研究について. U-site. 2022-11-10閲覧.
- ↑ "実質的ユーザビリティ(inherent usability) ... 実際に使ってみて使いやすいインタフェース" 黒須. (2022). 見かけのユーザビリティの研究について. U-site. 2022-11-10閲覧.
- ↑ a b Kurosu, Masaaki、Kashimura, Kaori 『Apparent Usability vs. Inherent Usability: Experimental Analysis on the Determinants of the Apparent Usability』 Association for Computing Machinery〈CHI '95〉、Denver, Colorado, USA、1995年、292-293頁。。ISBN 0897917553。
- ↑ "使いやすそうに見えるインタフェースを設計するのはフェイクにも近いことですよ、ということだ。" 黒須. (2022). 見かけのユーザビリティの研究について. U-site. 2022-11-10閲覧.
- ↑ "無償サイトの場合には ... 少しインタラクションをしただけで簡単に他のサイトに移動してしまう ... 積み重ねという形でのユーザーエクスペリエンスが成立しにくい ... 無償サイトのユーザーエクスペリエンスは期待感と印象によって構成される傾向がある ... 見かけのユーザビリティ(apparent usability)... という点で、ユーザーの選択に影響している" 黒須. Webサイトのユーザビリティでは第一印象と長期的実利用のどちらが重要か/HCD-Net通信 #23. impress. 2022-11-10閲覧.