チャレンジャー1

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チャレンジャー1(Challenger 1)は、イギリス陸軍が運用していた主力戦車である。1983年に制式採用され、それまでのチーフテンに代わる主力戦車として配備された。1990年代以降はチャレンジャー2への更新が進み、2001年にはイギリス陸軍から退役した。

開発経緯[編集]

チャレンジャー1の開発は、当初イラン向けのシーア・コンクァー(Shir 2)戦車計画に端を発する。1970年代、イランはイギリスのヴィッカース社に対し、チーフテンをベースとした新型戦車の開発を依頼した。しかし、イラン革命の勃発によりこの計画は中止された。

イギリス陸軍は、シーア・コンクァーの設計がチーフテンに比べて大幅に改善されており、将来の主力戦車として有望であると判断。その設計を流用する形で、自国向けの新型戦車開発を決定した。これがチャレンジャー1として結実することとなる。

開発は主にロイヤル・オードナンス社(後にヴィッカース・ディフェンス・システムズに統合)によって行われた。特徴的なのは、当時世界で最も先進的な複合装甲であったチョバム・アーマーを全面採用したことである。これにより、当時の対戦車ミサイル成形炸薬弾に対する高い防御力を獲得した。

特徴[編集]

チャレンジャー1は、特にその防御力と主砲の威力に重点を置いて設計された。

装甲[編集]

本車の最も特筆すべき点は、そのチョバム・アーマーである。チョバム・アーマーは、複数の異なる素材を組み合わせた複合装甲であり、特にHEAT弾(対戦車榴弾)に対する防御力に優れていた。チャレンジャー1の砲塔前面および車体前面は、このチョバム・アーマーによって覆われており、当時のNATO加盟国の戦車の中でもトップクラスの防御力を誇った。

武装[編集]

主武装には、ロイヤル・オードナンス L11A5 120mm施条砲を装備している。この砲はチーフテン戦車にも搭載されていたものと同系統であり、砲弾のラインナップも豊富であった。徹甲弾(APFSDS)のほか、HESH弾(粘着榴弾)も使用可能であった。施条砲であるため、西側主力戦車の主流となりつつあった滑腔砲と比較して、砲弾の初速や飛距離の面で劣るとの意見もあったが、HESH弾の命中精度においては優位性があった。

副武装としては、主砲と同軸に1丁の7.62mm機関銃、砲塔上部に1丁の7.62mm機関銃を装備している。

機動力[編集]

エンジンには、パクストン・ブチェーン ボア CV12 ディーゼルエンジンを搭載し、1,200馬力の出力を誇る。サスペンションはハイドロニューマチック・サスペンションを採用しており、悪路での走行性能や射撃安定性に寄与している。しかし、その重い装甲のために路上での最高速度は56km/hと、当時の他国主力戦車と比較してやや劣る面もあった。

運用[編集]

チャレンジャー1は、1983年にイギリス陸軍に制式採用され、主に西ドイツ(現在のドイツ)に駐留するイギリス陸軍ライン軍団に配備された。冷戦終結後も運用が続けられたが、その真価が発揮されたのは湾岸戦争においてであった。

湾岸戦争[編集]

1991年湾岸戦争において、チャレンジャー1は多国籍軍の一員としてイラク軍と交戦した。特にバスラ近郊で行われた「グランドスラム作戦」では、イギリス陸軍のチャレンジャー1部隊がイラク軍のT-72戦車と交戦し、圧倒的な戦果を挙げた。チャレンジャー1は、高い防御力によりイラク軍の攻撃を効果的に防御し、また、正確な射撃により多数のイラク軍戦車を撃破した。この戦いにおいて、チャレンジャー1は極めて高い戦闘能力と信頼性を示した。

退役とその後[編集]

湾岸戦争での活躍にもかかわらず、チャレンジャー1は1990年代後半から後継のチャレンジャー2への更新が進められた。2001年には、イギリス陸軍から全車が退役した。退役したチャレンジャー1の一部は、ヨルダンに売却され、同国軍によって運用が続けられている。

派生型[編集]

  • チャレンジャー指揮偵察車:砲塔を撤去し、通信機材などを搭載した指揮車両。
  • チャレンジャー装甲回収車:チャレンジャー1の車体を流用した装甲回収車。

豆知識[編集]

  • チャレンジャー1の愛称は、湾岸戦争での活躍から「砂漠の戦車」とも呼ばれた。
  • チョバム・アーマーは、その秘密保持のため、戦車の生産ラインでも極秘裏に扱われたと言われている。
  • チャレンジャー1は、イギリスで開発された戦車としては珍しく、砲塔後部に雑具箱が取り付けられていない。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]