チェンジ (小山ゆうの漫画)

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チェンジ』(英語: Change)は小山ゆうによる高校野球漫画。

週刊少年マガジン』(講談社)において1987年31号から1988年30号まで連載された。単行本は全5巻。後に全3巻の文庫版などでも復刻された。講談社からの単行本5巻には矢島正雄原作の「ぼくの粗大ゴミ」(『少年ビッグコミック増刊号』(小学館)1983年4月1日号初掲載)が収録されていたが、全3巻本には収録されていない。

大喜多紀明は、本作が異郷訪問譚[1]の「裏返し構造」になっていると指摘する[2]。本作は、日本の異訪問譚形式の漫画としては初めてというわけではないが、本作以前においては数が少なく、萌芽期の作品の1つであろうと推測される[2]

あらすじ[編集]

小学生である高杉早は,田舎にある医療センターに入院していた。早の部屋に二人の死神が現れた。死神は新米とその先輩であり、近く早が死ぬことになるので、その魂を運びに来たのだった。早は病院の近くで菊川西高校の野球部が練習をしていることを知り、見学に行き、部員たちと仲良くなった。翌日、練習試合をするというので早は招かれることになったが、翌朝に早は交通事故で死んでしまった。

早の死を悲しんだ新米死神は、死神の生命と引き換えに49日間だけ死人に仮の生命と体を与える方法があることを知り、死神にも大いなる苦痛が襲い掛かるにも関わらず、反対を押し切って、早を生き返らせる。早は高校生の新しい身体を得て、生き返った。

早の記憶は失われていたが、野球に対する情熱は残されており、部員が8人しかいない(前述の練習試合の際にはサッカー部員が助っ人キャチャーをしていた)菊川西高校野球部にキャッチャーとして入部する。自分の家も覚えていない早であったが、先輩死神がうまいことして野球部主将で投手・下田明の遠縁として下田の家に住むことになった。精神は小学生のままの早は天真爛漫に野球部のメンバーに甲子園に行こうと呼びかける。これまで一勝もしていなかった野球部の面々も、当初はやる気がもたなかったが、次第に練習にも参加するようになった。甲子園大会出場をかけた地方初戦が始まり、守備の不調、1点先取されるというものはあったものの下田の好投もあって延長戦の末に第1回戦を勝利する。

早は次第に生まれ変わる前の記憶を取り戻し始めた。新米死神は早に「恋」も体験して欲しいと、下田に秘密を打ち明ける。早の生命は残り10日であった。早も先輩死神に懇願し、急速な老いと苦痛に苦しむ新米死神に会い、自分の秘密を知ると残りの残りの仮の生命を精いっぱい生きることを改めて決意する。

精神面でも急速に大人びた早は下田と恋愛関係になった。下田は自分だけで秘密を抱えきれず、浜岡学園の投手・望月が早に告白しに来た際に早自身が告げたことで、他の野球部員たちも全員が早の残り寿命を知る、次の対戦相手である甲子園最有力候補の「浜岡学園」に勝利することを全員で改めて誓うのだった。浜岡学園との試合の日は早の49日め。望月の立ち上がりの悪さから先制し逆転もされたが、チーム一丸となって、ついには再逆転を果たす。試合後、ロッカールームで早は消滅してしまう。

寿命の尽きた新米死神は、天界に引き上げられ、真の慈愛の心を持つ者として、神より新たな1000年の寿命と安らぎが神から与えられる。新米死神は早が地上で幸せに生きることを神に願った。早は子供を亡くした夫婦の娘として転生したが、それまでの記憶は失われることになった。

残された野球部員たちからの早についての記憶は無くなっており、優秀なキャッチャーがいて浜岡学園に勝利したが、その後、転校していったのでメンバー不足として予選は途中で辞退したことになっていた。下田が登校していると、今日から菊川西高校に転校してきたという早と出会う。早と下田は初対面であったが、互いに会ったこ とがあるような気がした。

登場人物[編集]

高杉 早(たかすぎ さき)
裕福な家庭に生まれたが: 事故により車椅子生活を送っている。成績も悪く、両親や兄、姉にも疎まれており、田舎の医療センターに来ることになったのも、半ば以上に厄介払いである(実家の近所で車椅子生活が目撃されると、風聞に悪いという考えもあった)。
空想の中で野球をプレイすることだけが唯一の楽しみであった。
野球ボールを指一本でスピンさせることができる特技を持っており、高校生の姿になってもできたことで、下田が早が小学生からの生まれ変わりであることを確証する。
高校生の姿になったが、精神は小学生のままであり、中学生で習うことはわかないので学業成績も悪い(小学生のときも出席日数が少ないこともあって成績は家族の中で唯一悪かった)。
(新米死神)
他の死神も同様であるが、固有名称は作中では呼ばれない。死神も複数人が登場するため、便宜上、本項では「新米死神」と称する。
小学生の早の魂を運ぶために、先輩死神と早の元に来たが、1日近く早かった。小学生の早が死ぬにあたって、満足する人生だったのか知るために記憶を覗いて、早が両親や家族、一部の例外を除いた使用人たちからも疎まれていたことを知る。
早が死に魂を回収した際に、44年前に死人を生き返らせる方法を実行した例があることを知ると、それが自分の寿命を代わりに与える行為であり、苦痛に苛まれると言われるが、躊躇なく実行した。先輩死神らの協力を得て、数回、地上に現れ、早や下田と会っている。
最終日となる49日めは浜岡学園との対戦当日であり、新米死神の寿命が尽きかけていたことから、前日あたりから早の身体を物体が素通りしたり、他の人に見えなくなるような現象が生じた。試合中は精神だけで持っているような状態で、他の死神が試合内容(主に早の活躍)を報告することで生き延び、心臓が停止しても早に生命を送りつづけた。試合の終盤、早は視力もぼんやりとしたものになっている。
(先輩死神)
新米死神と同様に固有名詞では呼ばれないので、便宜上、本項では「先輩死神」と称する。
新米と共に早の病室に現れ(早本人を含め、一般人には見えない)、死んだ魂を運び、船に乗せ、49日の船旅後、輪廻やら天国行、地獄行になるみたいなことを説明する。
44年前に行われたという死人を生き返らせる方法を新米に伝授した。
7人の死神が念を凝らすことで、短時間ではあるが新米を一般人にも見えるような形で地上に方法があることを探し出し、実行する。ただ、この方法だと早への生命供給が滞るので、新米が離れている時間が長くなると早の体調も悪くなるし、新米が戻った際に老いる速度や苦痛も高まる。
菊川西高野球部
下田が入学したころは、まだ2桁人数の部員がいたが、3年になった今では8人のみ。練習試合、公式戦を含めて1勝もしていない。練習場も実績のあるサッカー部の第2練習場として優先的に使用されている。
野球部は存続も危ぶまれていたが、浜岡学園に勝った後は新入部員も増え、下田たちが卒業後も安泰なようである。
下田 明(しもだ あきら)
3年生。主将で右投げピッチャー、5番打者。実家は酒屋であり、自分が跡を継ぐものと達観しているが、他の仕事を経由してからなどと進路希望で口にするなど、納得してはいない。
中学時代から望月とは競い合う中であったが、実家のこともあり、プロ野球は諦めて望月とは異なる菊川西へと進学した。
球種はストレートとカーブで、早に推されてフォークボールも身に着ける。フォークボールは、1回戦では決まらないことのほうが多かったが、浜岡学園戦には実用できるレベルになる。試合が長丁場になっても、球威はあまり劣らず、浜岡学園戦では終盤になって球速150km/h超を記録する。
浜岡学園戦勝利後は、親からも「酒屋を継ぐのはいつでもできる」と再びプロ野球を視野に入れることになった。
畠山 耕作(はたやま こうさく)
3年生。サードで3番打者。部員からは最も巧いと言われる。
早が入部直後も早朝練習などには加わっていなかった。
卒業後は東京に出て、報道メディア系の仕事に就くことを夢見ていたが、1回戦勝利の後に父親が倒れ、家計のためにも地元就職を余儀なくされたことで自暴自棄になる。早からの説得を受け、また早いの余命を知り、奮起して打倒浜岡学園を目指して他の部員ともども練習に打ち込むようになる。
2輪免許を持ちバイクも持っているが、そのバイクは1回戦勝利後、下田と早との初デートに貸し出され、山中でクラッシュすることになる。
富岡 太一(とみおか たいち)
3年生。ファーストで4番打者。野球部随一の巨体でパワーもあるが足は遅い。1回戦で死球を受け、恐怖症に陥った。その後、体力不足から早が倒れた際には代わりにキャッチャーを務め、身体を張って打球を止めることで、恐怖症を克服する。
遠縁に県会議員がいるようで、黒豆田からは就職の際には縁故を利用することをアドバイスされている。
佐分利 健(さぶり けん)
2年生。8番打者でライト。内気な性格をしており、女子と話したこともない。野球のほうは下手な部類で、落球などで足を引っ張ったことも多々。それでも、早や下田のプレイに発奮し、体力不足で倒れた早が右翼を守っていた際には、早に飛んできた打球を身体を張って止める。
水野 紀夫(みずの のりお)
7番打者でショート。
鈴木 厚(すずき じゅん)
2番打者でセカンド。
林 哲男(はやし てつお)
6番打者でレフト。
杉下 新吾(すぎした しんご)
1番打者でセンター。俊足の持ち主で、下田は「陸上部からのスカウトを断っている」と言う。
黒豆田(くろまめだ)
菊川西高等学校で生徒の進路指導を担当している教諭。野球部の監督でもあるが、試合には興味をもっていない。ユニホームも腹のボタンが留められない(去年は留まったらしい)。
島本商業(しまもとしょうぎょう)
予選大会での菊川西の1回戦の対戦相手。なお、早は女子であり本来ならば出場資格も無いのだが、菊川西は部員が8人しかおらず、万年敗退なので影響もないということで試合成立となっている。女子である早に馴れ馴れしくしていたが、先頭打者に決まったフォークボールと早のささやき戦法に翻弄される。
浜岡学園(はまおかがくえん)
高校野球の強豪高校。春の大会では準決勝まで進出している。今大会でも優勝候補であり、菊川西高校の3回戦の対戦相手。なお、菊川西高校の2回戦は相手高校が不祥事を起こして辞退したため、不戦勝。
望月(もちづき)
3年生で左投げ投手。中学時代は下田と共にプロを目指し、エースの座を争うライバルであり、友人だった。下田はプロを諦めたが、名門校に進学し、春の大会では準決勝で敗れるまでは完封という好成績を残し、プロ野球スカウトたちに注目されることになる。
決起集会のための飲食物を下田酒店から下田と早が運んできたことで、早と会い、一目惚れする。3回戦前に早の余命のことを知り、半信半疑で動揺したこともあり、3回戦では先取点を許してしまう。
3回戦を観戦に来ていたプロ野球スカウトたちからも不調を指摘されていた。早に対し、全力で対戦しなければ失礼と精神的に持ち直してからは、コンスタントに150km/h台の投球を行い、終盤には160km/h超も投げた。

脚注[編集]

  1. 大雑把に言うと「主人公が現代社会から異界を訪れる物語」。
  2. a b 大喜多紀明「小山ゆう『チェンジ』にみられる裏返し構造 ―漫画作品における異郷訪問譚の事例―PDF」 、『人間生活文化研究』第30号、大妻女子大学人間生活文化研究所、2020年、 146‐150。