タイタン問題
タイタン問題とは、土星の第6衛星Titanの日本語表記が、伝統的なラテン語読みルールに従った「ティタン」[1]や「チタン」ではなく、英語読みの「タイタン」と表記されている問題である。
ラテン語読みルール[編集]
17世紀のガリレオ以降、望遠鏡で月や惑星などが詳しく観測され、月面の地形や新たに発見された衛星などの多くは、当時の神聖ローマ帝国の公用語であるラテン語で命名された。このため、日本語でも、多くの天体名がラテン語読みやその翻訳名で呼ばれるようになった[2]。
「天文同好会」(東亜天文学会の前身、山本一清会長)が執筆した昭和3年版「天文年鑑」では、惑星の衛星名として、ラテン語読みの「フォボス」、「エウロパ」、「チタン」、「ヒペリオン」などと書いている。「ダイモス」、「エンケラドス」、「ヤペタス」など、一部に多少ラテン語読みから外れた表記もみられるが、おおむねラテン語読みルールに従っており、英語読みルールとはなっていない。[3]
「タイタン」の起源[編集]
1973年1月25日付の朝日新聞に、「土星の衛星タイタンに生命?」と題する記事が掲載された[4]。 ラテン語読みルールを知らない外電の記者が、アメリカ・NASAの研究者カール・セーガンによる英語読みの「タイタン」という呼び方をそのまま配信したものとみられる。これが「タイタン」と表記した最初の例とみられる。
1979年9月にアメリカの惑星探査機パイオニア11号が土星に接近した時、 ラテン語読みルールを知らない外電の記者が、NASAの発表した英語読みの「タイタン」という呼び方をそのまま配信したため、マスメディアがそのまま報道して、その後タイタンという呼び方が広まった [5] [6] [7]。
さらに1980年11月にボイジャー2号が土星に接近した際にも、外電がNASAによる「タイタン」という英語読みの呼び方を配信した [8] [9]。
「ティタン」対「タイタン」[編集]
以上のように、外電の配信した記事が英語読みの「タイタン」という呼び方が広まった大きな原因であるが、それでも伝統的な ラテン語読みルールに従った「ティタン」と書く書籍は、少なくなかった。Titanを英語読みの「タイタン」と呼ぶことは、木星を「ジュピター」と呼ぶのと同様で、間違いではないが日本語名ではないからである。
1979年刊行の「天文・宇宙の辞典」初版(恒星社)では、「ティタン」と書いていたが、ボイジャーの土星接近後の1983年に刊行された改訂版でも、ボイジャーによる「ティタン」の写真を紹介している。 [10]
誠文堂新光社の「天文ガイド」、「天文年鑑」、「藤井旭の天文年鑑」は、2025年現在でも「ティタン」と書いているが、アストロアーツの「星ナビ」、「ステラナビゲータ」は「タイタン」と書いている。