アリオット・ヴァードン・ロー
アリオット・ヴァードン・ロー（英語: Alliot Verdon Roe、1877年4月26日 - 1958年1月4日）は、イギリスの航空の先駆者であり、後に世界的な航空機メーカーとなるアブロ（A.V. Roe and Company）の創設者である。彼はイギリスにおける航空の発展に多大な貢献をし、その功績は「イギリス航空の父」とも称される。
幼少期と教育[編集]
アリオット・ヴァードン・ローは、1877年4月26日、ロンドンのパトニーで生まれた。彼の父親であるエドウィン・バーノン・ローは医師であった。幼い頃から機械や工学に強い興味を示し、その後の人生を決定づけることになる航空への情熱を育んだ。彼は幼少期から模型飛行機を製作するなど、航空に対する並々ならぬ関心を持っていた。正規の工学教育は受けなかったものの、独学で物理学や空気力学の知識を習得していった。
航空への初期の関心[編集]
ローの航空への関心は、当時の多くのパイオニアと同様に、初期のグライダーや飛行船の実験に触発されたものであった。彼は、ライト兄弟が1903年に飛行に成功したというニュースに大きな衝撃を受け、自らも飛行機を製作し、飛ばすことを決意した。当時のイギリスでは航空に関する研究はまだ黎明期にあり、ローはほとんど独力で研究を進める必要があった。
1906年、彼は自転車製造会社で働きながら、自作の模型飛行機で実験を重ねた。そして、動力飛行の可能性を追求するため、本格的な航空機の設計・製作に着手した。この時期、彼は航空に関する文献を読み漁り、既存の知識を貪欲に吸収した。また、自らのアイデアに基づき、様々な翼型や構造を考案し、試作を繰り返した。
最初の飛行と試練[編集]
アリオット・ヴァードン・ローは、1907年に初めて自作の動力模型飛行機を飛ばすことに成功した。この成功は彼に大きな自信を与え、実物大の飛行機製作へと駆り立てた。彼はブルックランズの自動車レース場跡地で自作の航空機「アヴロプレーン」の試験を開始した。1908年6月8日、彼は動力飛行には至らなかったものの、自身の設計した機体で短距離のホップ（跳躍飛行）を成功させた。これはイギリス国内における動力付き航空機による初の飛行に近いものであった。
しかし、彼の飛行実験は常に順調だったわけではなかった。資金難、技術的な問題、そして周囲の理解の欠如など、数多くの困難に直面した。彼は度々、機体を破損させ、修理と改良を繰り返した。しかし、彼の粘り強さと航空に対する情熱は衰えることなく、常に前向きに挑戦を続けた。
そして、1909年7月13日、ついに彼は自作の三葉機「アヴロ・トライプレーン」でブルックランズにおいて本格的な動力飛行を成功させた。これはイギリス人による、そしてイギリス製の航空機による初の動力飛行として歴史に名を刻むことになった。この成功は、イギリス国内の航空開発に大きな弾みを与え、ローの名を広く知らしめることになった。
アブロの設立[編集]
1910年1月1日、アリオット・ヴァードン・ローは、兄弟であるハンフリー・ヴァードン・ローとともに、世界で初めての飛行機製造会社の一つである「A.V. Roe and Company」（通称アブロ）を設立した。当初は小規模な事業であったが、ローの卓越した設計能力と革新的なアイデアにより、アブロは急速に成長を遂げた。
アブロは設立後、数々の画期的な航空機を開発した。初期の代表的な機体としては、アヴロ 504が挙げられる。この機体は第一次世界大戦中に練習機として大量生産され、その頑丈さと信頼性から多くのパイロットを育成した。アヴロ 504は、その後の航空機開発の基礎を築いたと言っても過言ではない。
第一次世界大戦中、アブロはイギリス軍に多数の航空機を供給し、その生産能力を大きく拡大させた。戦後も、民間航空機の開発や、爆撃機、偵察機などの軍用機の開発を続けた。ローのリーダーシップのもと、アブロは常に航空技術の最先端を走り続け、イギリス航空産業の発展に貢献した。
戦間期と第二次世界大戦[編集]
1928年、アリオット・ヴァードン・ローはアブロの経営権を売却したが、航空分野への関心は失われなかった。彼はその後も、航空技術の研究開発に関わり続け、様々な航空関連プロジェクトに助言を与えた。
第二次世界大戦中、アブロは再びイギリスの戦争遂行に不可欠な役割を果たした。特に、爆撃機「アヴロ ランカスター」は、第二次世界大戦における連合国側の最も成功した重爆撃機の一つとして知られている。ランカスターは、その高いペイロード能力と航続距離により、ドイツ本土への戦略爆撃において重要な役割を担った。ローは直接ランカスターの開発には関わっていなかったが、彼が設立したアブロがこのような重要な航空機を生み出したことは、彼の航空技術への貢献がいかに大きかったかを物語っている。
その他の貢献[編集]
アリオット・ヴァードン・ローは、航空機の設計・製造だけでなく、航空技術の普及と発展にも尽力した。彼は多くの航空関連団体に所属し、講演活動や執筆活動を通じて、航空の重要性を訴え続けた。また、彼は航空機の安全性向上にも強い関心を持ち、初期の段階から様々な安全装置や飛行計器の開発を提唱した。彼の多岐にわたる貢献は、現代航空の礎を築く上で不可欠なものであった。
死と遺産[編集]
アリオット・ヴァードン・ローは、1958年1月4日にハンプシャーで80歳で死去した。彼の死は、航空界に大きな損失をもたらしたが、彼が残した遺産は計り知れない。彼が設立したアブロは、その後も革新的な航空機を開発し続け、イギリス航空産業の中核を担った。彼の功績は、現代の航空機開発や宇宙開発にも大きな影響を与えている。
現在、アブロはブリティッシュ・エアロスペース（現在のBAEシステムズ）の一部となっているが、その名は航空史に燦然と輝いている。アリオット・ヴァードン・ローは、真の先駆者として、その功績は今後も語り継がれるであろう。
豆知識[編集]
- アリオット・ヴァードン・ローは、ベジタリアンであった。
- 彼は非常に倹約家であり、初期の航空機の部品にはスクラップ材を再利用することもあった。
- 彼の自宅には、常に航空に関する模型や部品が散乱していたと言われている。