UボートVII型

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概要[編集]

第一次世界大戦後、ヴェルサイユ条約によって潜水艦の保有を禁じられたドイツは、極秘裏に潜水艦の開発を進めていた。その成果の一つが、VII型潜水艦である。VII型は、当時としては革新的な設計を取り入れており、優れた航続距離、速力、そして潜航能力を誇った。

設計は、当時の主力であったUボートII型の拡大改良型として開始された。II型が沿岸哨戒用であったのに対し、VII型は大西洋での作戦を想定した外洋型潜水艦として設計された。その結果、魚雷搭載量の増加、燃料搭載量の拡大、居住性の改善などが図られた。

VII型は、その後の派生型を含め、ドイツ海軍のUボート部隊の中核を担い、連合国の海上輸送路に甚大な被害を与えた。しかし、連合国側の対潜戦術の進歩、特に航空機による哨戒とレーダーの発達により、戦争後期には大きな損害を出すようになった。

開発と種類[編集]

VII型潜水艦は、いくつかのサブタイプに分かれている。

VII A型[編集]

最初の生産型。10隻が建造された。U-27からU-36がこれにあたる。

  • 諸元 (U-27):
    • 排水量: 水上626トン、水中745トン
    • 全長: 64.5 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上17ノット、水中8ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 11本

VII B型[編集]

A型を改良し、燃料搭載量と魚雷搭載量を増加させた型。24隻が建造された。U-45からU-55、U-73からU-76、U-83からU-87、U-99からU-102がこれにあたる。

  • 諸元 (U-48):
    • 排水量: 水上753トン、水中857トン
    • 全長: 66.5 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上17.9ノット、水中8ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 14本

VII C型[編集]

VII型の中で最も多く建造された型。600隻以上が建造された。生産の簡略化や兵装の強化が図られている。

  • 諸元 (U-96):
    • 排水量: 水上769トン、水中871トン
    • 全長: 67.1 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上17.7ノット、水中7.6ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 14本
    • 主な武装: 8.8 cm SK C/35 L/45砲1門、2 cm Flak 30対空機関砲1門 (後に連装、四連装など複数搭載)

VII C/41型[編集]

VII C型をさらに改良し、耐圧殻を強化して潜航深度を増した型。91隻が建造された。

  • 諸元:
    • 排水量: 水上759トン、水中860トン
    • 全長: 67.1 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上17ノット、水中7.6ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 14本
    • 試験潜航深度: 250 m (最大300 m)

VII C/42型[編集]

VII C/41型をさらに強化した型で、耐圧殻の強化や、魚雷搭載量の増加が計画されたが、生産はされなかった。

VII D型[編集]

VII C型をベースに、機雷敷設能力を持たせた型。5隻が建造された。

  • 諸元:
    • 排水量: 水上965トン、水中1,080トン
    • 全長: 76.9 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上16.7ノット、水中7.3ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 12本
    • 機雷搭載数: TMA機雷15個 (またはTMG機雷30個)

VII F型[編集]

魚雷運搬潜水艦として設計された型。4隻が建造された。

  • 諸元:
    • 排水量: 水上1,084トン、水中1,181トン
    • 全長: 77.6 m
    • 機関: ディーゼルエンジン2基、電動機2基
    • 速力: 水上16.9ノット、水中6.2ノット
    • 魚雷発射管: 5門 (艦首4、艦尾1)
    • 魚雷搭載数: 39本

戦歴[編集]

VII型潜水艦は、第二次世界大戦開戦当初から終戦まで、ドイツ海軍Uボート部隊の中核として活躍した。特に大西洋の戦いにおいて、連合国の輸送船団に対する通商破壊作戦に従事し、多数の商船や軍艦を撃沈した。

初期の戦果は目覚ましく、「幸福な時間」と呼ばれる時期には、VII型を含むUボートがイギリスへの物資輸送を寸断寸前まで追い込んだ。しかし、連合国の対潜戦技術の進歩、特にソナーレーダー、そして航空機による哨戒網の強化により、Uボートの損失は急速に増加した。

戦争後期には、VII型を含むUボートは、より高性能なUボートXXI型などの新型潜水艦にその座を譲ることになるが、終戦まで第一線で運用され続けた。

現存する艦[編集]

現在、VII型潜水艦で現存しているのは、唯一U-995 (VII C/41型) のみである。ドイツラボー海軍記念館に保存されており、一般公開されている。

豆知識[編集]

  • VII型潜水艦は、その設計のバランスの良さから、後の各国潜水艦開発に大きな影響を与えたといわれている。
  • 映画『U・ボート』に登場する潜水艦は、VII C型をモデルにしている。
  • VII型潜水艦の艦名は、通称「エーミール」と呼ばれていた。これは、VIIをドイツ語で「ジーベン」と発音し、その頭文字「S」から取られたとされる。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 広田厚司「Uボート戦史」潮書房光人新社、2018年
  • 木俣滋郎「Uボート気まぐれ海戦史」光人社NF文庫、2015年
  • クレイ・ブレア「Uボート」文春文庫、2000年