装甲偵察車 Sd.Kfz. 222
Sd.Kfz. 222は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツで開発・運用された4輪装甲偵察車である。正式名称は「特殊車両番号222」(Sonderkraftfahrzeug 222)、略して「Sd.Kfz. 222」と呼ばれる。偵察任務に特化した設計がなされており、高い機動性と比較的強力な武装を兼ね備えていたため、大戦初期から中期にかけてドイツ陸軍の装甲師団や偵察大隊において広く運用された。
開発と生産[編集]
Sd.Kfz. 222は、ドイツ軍の機械化された偵察部隊の要求に応える形で開発された。原型となったのは、ホルヒ社が開発した重型乗用車シャーシ(ホルヒ 801)をベースとする「シュヴェーラー・パンツァースパヘンワーゲン」(重装甲偵察車)シリーズである。このシリーズはSd.Kfz. 221、Sd.Kfz. 222、Sd.Kfz. 223といった派生型が存在するが、Sd.Kfz. 222は2 cm機関砲を搭載した火力強化型として位置づけられた。
生産は、1936年に開始され、1943年まで継続された。ホルヒ社のほか、アウクスブルク機械工場(MAF)などの企業が製造を担当した。総生産数は、Sd.Kfz. 22xシリーズ全体で約1,800両に上るとされる。
設計[編集]
Sd.Kfz. 222は、その特異な外観を持つ。車体は溶接構造の均質圧延鋼板で構成されており、最大で30 mm(前面)の装甲を有していた。これにより、小銃弾や砲弾の破片に対する防御力を確保していた。しかし、対戦車能力を持つ兵器に対しては脆弱であった。
武装は、開放式の砲塔に2 cm KwK 30 L/55機関砲、または後期型ではより改良された2 cm KwK 38 L/55機関砲が1門搭載され、同軸で7.92 mm MG34機関銃が1挺装備されていた。この2 cm機関砲は、当時の軽戦車や非装甲車両、歩兵に対して有効な攻撃手段となった。砲塔上部には金網状の対手榴弾ネットが設置されており、車内に手榴弾が投げ込まれるのを防ぐと同時に、上空からの視認性を低下させる効果もあった。
エンジンは、ホルヒ製のV型8気筒液冷ガソリンエンジンを搭載し、80馬力を発揮した。4輪駆動であり、路上では80 km/h、不整地では40 km/hの最高速度を誇り、高い機動性を有していた。特に、前進・後退ともに4速のトランスミッションを備えていたため、偵察任務における迅速な方向転換が可能であった。
乗員は3名で、車長、砲手、操縦手で構成された。車内は比較的狭く、長時間の任務は困難であったとされる。
運用[編集]
Sd.Kfz. 222は、ポーランド侵攻、フランス侵攻、バルカン戦線 (第二次世界大戦)、独ソ戦、北アフリカ戦線など、第二次世界大戦の初期から中期にかけて、ほとんどの戦線でドイツ陸軍の主力偵察車両として活躍した。その高い機動性と偵察能力は、電撃戦における迅速な情報収集に大きく貢献した。
しかし、大戦が中期に入ると、より重装甲の敵車両や対戦車兵器の出現により、Sd.Kfz. 222の装甲と火力は次第に不十分となっていった。特に、開放式砲塔は乗員を危険に晒す要因となった。このため、後期にはより大型で火力・防御力に優れた8輪装甲偵察車であるSd.Kfz. 234シリーズへと置き換えが進められていった。
終戦まで少数が運用され続けたが、その役割は限定的となっていた。
バリエーション[編集]
Sd.Kfz. 222には、直接的な大規模なバリエーションは少ないが、基本設計を共有する車両が存在する。
- Sd.Kfz. 221:7.92 mm MG34機関銃のみを搭載した、Sd.Kfz. 222の原型となる軽武装型。
- Sd.Kfz. 223:無線機とフレームアンテナを搭載した、通信・指揮用の車両。武装はSd.Kfz. 221と同様。
現存車両[編集]
現在、Sd.Kfz. 222の現存車両は非常に希少である。いくつかの博物館に収蔵されており、その姿を見ることができる。例えば、ドイツのドイツ戦車博物館(ムンスター)や、ロシアのクビンカ戦車博物館などに展示されている。
豆知識[編集]
- Sd.Kfz. 222は、その愛らしい見た目から「カブトムシ」の愛称で呼ばれることもあった。
- 無線機を搭載していないため、偵察中に発見した情報を後方の部隊に伝えるためには、別の通信車両(Sd.Kfz. 223など)や伝令を介する必要があった。
- 主砲の2 cm KwK 30/38機関砲は、III号戦車の初期型にも搭載されていたものと同じ系列の武装であった。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- Spielberger, Walter J. 『German Armored Cars and Reconnaissance Vehicles (The complete Illustrated history of German Armored Cars from 1906 to the Present Day)』 Schiffer Publishing、1995年。ISBN 978-0887406983。
- Doyle, Hilary L. 『Panzer Tracts No. 13 - Panzerspähwagen: Armored Cars Sd.Kfz. 3 to Sd.Kfz. 234』 Panzer Tracts、2001年。ISBN 978-0970364042。
- Chamberlain, Peter 『Encyclopedia of German Tanks of World War Two』 Arms and Armour Press、1999年。ISBN 978-1854095183。