Sd Kfz 11
Sd Kfz 11(Sonderkraftfahrzeug 11、「特殊自動車11番」の意)は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍が使用した半装軌車の一種である。主に軽砲や対戦車砲、弾薬などを牽引するために開発され、各戦線で幅広く運用された。約9,000輌が生産され、その頑丈さと信頼性から、ドイツ軍の機甲部隊や砲兵部隊にとって不可欠な存在であった。
概要[編集]
Sd Kfz 11は、ドイツ国防軍の機械化を推進する目的で開発されたハーフトラックである。その主要な任務は、歩兵砲、対戦車砲、野砲といった比較的軽量な火砲や、弾薬、物資、人員の輸送であった。牽引車として設計されており、非装甲であるが、後部座席に兵員を搭乗させることが可能で、歩兵の迅速な移動にも貢献した。
車体は、前部に一般的な自動車と同じように車輪とステアリングを持ち、後部には無限軌道(履帯)を備える。この独特の構造により、整地での高速走行性と不整地での優れた牽引力および走破性を両立させていた。特に不整地における機動力は高く評価され、東部戦線の泥濘地など劣悪な路面状況でも効果的に機能した。
開発[編集]
Sd Kfz 11の開発は1930年代半ば、ドイツ再軍備宣言後の1934年にブッセによって開始された。当時のドイツ国防軍は、第一次世界大戦の経験から、歩兵部隊の機動力向上が喫緊の課題であると認識していた。特に、砲兵部隊が馬匹による牽引に依存していたため、より迅速な移動と展開が可能な機械化された牽引車両が求められた。
初期の試作車はHL-2として開発され、様々な改良が加えられた後、HL-4、HL-5と発展した。最終的にHL-6と呼ばれるモデルが、1938年にSd Kfz 11として制式採用された。複数の自動車メーカーが生産に加わり、ハンザ・ロイド、アドラー、ボルクヴァルト、ダイムラー・ベンツ、ヘンシェル、MZシュペールヴェルクなどが製造を担当した。これにより、大量生産が可能となり、ドイツ軍の戦力増強に貢献した。
バリエーション[編集]
Sd Kfz 11は、その汎用性の高さから、様々な派生型が開発された。
- Sd Kfz 11/1:煙幕展張車。煙幕弾を搭載し、煙幕を展開する役割を担った。
- Sd Kfz 11/2:有毒ガス汚染地域の偵察車。化学戦に対応した装備を備えていた。
- Sd Kfz 11/3:有毒ガス除去車。汚染された地域の除染作業に使用された。
- Sd Kfz 11/4:ロケット砲部隊の弾薬輸送車。特にネーベルヴェルファーなどのロケット砲の弾薬運搬に用いられた。
- Sd Kfz 11/5:砲兵観測班や通信班用の指揮車。通信機器などを搭載し、指揮連絡に使用された。
また、Sd Kfz 11のシャシーは、Sd Kfz 251半装軌装甲兵員輸送車など、他の軍用車両のベースとしても広く使用された。Sd Kfz 251は、Sd Kfz 11の車体を延長し、装甲を施したもので、ドイツ軍の主力装甲兵員輸送車として活躍した。
性能[編集]
Sd Kfz 11は、マイバッハHL 42 TRKM 直列6気筒液冷ガソリンエンジンを搭載していた。このエンジンは100 psの出力を発揮し、車両を整地で最高52 km/hまで加速させることができた。不整地での最高速度は大幅に低下するものの、その無限軌道による接地圧の低さと優れた牽引力により、泥濘地や雪上などでも安定した走行性能を発揮した。
燃料タンク容量は約110 Lで、航続距離は整地で約270 km、不整地で約140 kmであった。ステアリングは前輪と操向ブレーキを併用する方式で、小回りも効き、狭い場所での運用にも適していた。牽引能力は高く、最大3 t程度の牽引が可能で、10.5 cm leFH 18のような軽榴弾砲や、7.5 cm PaK 40といった対戦車砲の牽引に用いられた。
運用[編集]
Sd Kfz 11は、第二次世界大戦勃発直前の1938年からドイツ国防軍に配備され始めた。ポーランド侵攻、フランス侵攻、バルカン戦線、北アフリカ戦線、そして最大の激戦地となった東部戦線に至るまで、あらゆる戦線で運用された。
主な役割は、軽榴弾砲、対戦車砲、高射砲などの火砲の牽引と、それに付随する弾薬や人員の輸送であった。特に、迅速な移動が求められる電撃戦において、装甲部隊に追随できる機動力を持っていたため、その価値は非常に高かった。また、工兵部隊による橋梁建設資材の運搬や、通信部隊による通信ケーブル敷設作業など、多岐にわたる任務にも投入された。
戦争後期には、連合軍による空襲や燃料不足により、多くの車両が失われたが、その役割は最後まで重要視された。約9,000輌が生産されたものの、戦争末期にはドイツ軍の継戦能力の低下とともに、その生産数も減少していった。
豆知識[編集]
- Sd Kfz 11は、ドイツ軍のハーフトラックの中でも最も多く生産されたタイプの一つで、その頑丈さから兵士たちに「働く馬」と呼ばれていました。
- 映画『プライベート・ライアン』など、第二次世界大戦を題材にした多くの映像作品にも登場しています。
- 戦後、一部のSd Kfz 11は、連合軍に接収され、研究目的で使用されたり、民間用途に転用されたりした例もあります。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- 『ドイツ軍用車両集』 大日本絵画、1999年。ISBN 978-4-499-22691-0。
- 『ドイツ軍ハーフトラック』 グランプリ出版、2003年。ISBN 978-4-87687-251-1。
- 『アハトゥンク・パンツァー! Vol.9 Sd.Kfz.251 ハーフトラック編』 大日本絵画、2004年。ISBN 978-4-499-22857-0。