M577 コマンドポスト

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M577 コマンドポストは、M113装甲兵員輸送車をベースに開発された、アメリカ陸軍の装軌式コマンドポスト車両(指揮所車両)である。その高い機動性と汎用性により、さまざまな軍事作戦において指揮統制拠点として使用されてきた。

開発と設計[編集]

M577の開発は、ベトナム戦争中に移動式指揮所の必要性が高まったことに始まる。当時のM113は兵員輸送の主力であったが、より広範な通信機器と作戦要員を収容できる専用の指揮車両が求められた。

M577はM113の車体を延長し、より高い車高を持つ箱型の上部構造を持つ。これにより、内部空間が大幅に拡大され、複数の無線機、地図板、通信機器、そして指揮官とその幕僚のための作業スペースが確保された。車両後部には、展開式の大型テントを接続することで、さらに広い指揮スペースを確保することも可能であった。

動力はM113と同じくゼネラルモーターズ製ディーゼルエンジンを搭載し、優れた不整地走破能力と路上機動性を有している。兵装は通常、自衛用のM2重機関銃が1丁装備されている。

運用[編集]

M577は、アメリカ陸軍のみならず、北大西洋条約機構(NATO)加盟国をはじめとする多くの同盟国で採用され、長年にわたって運用されてきた。

ベトナム戦争[編集]

M577は、ベトナム戦争中に初めて実戦投入された。ジャングルや湿地帯といった厳しい地形においても、部隊の前進拠点としての役割を果たし、通信の中継や作戦指示の発令に貢献した。その機動性は、敵の攻撃から指揮官を保護しつつ、刻々と変化する戦況に対応することを可能にした。

冷戦期[編集]

冷戦期を通じて、M577はNATO軍の演習において重要な役割を担った。大規模な部隊の移動を伴う演習では、M577が移動式の指揮所として機能し、部隊間の連携を円滑に進める上で不可欠であった。また、ヨーロッパにおける潜在的な紛争に備え、迅速な指揮統制能力を確保するために配備された。

湾岸戦争以降[編集]

湾岸戦争においても、M577はその有用性を証明した。砂漠地帯での高速移動能力と、過酷な環境下での信頼性は、多国籍軍の作戦遂行を支える上で極めて重要であった。

その後も、アフガニスタン紛争イラク戦争といった現代の紛争においても、M577は改良を重ねながら運用され続けている。特に、C4I(Command, Control, Communications, Computers, and Intelligence)システムの進化に伴い、M577はデジタル化された指揮統制システムを統合したモデルも登場している。

派生型[編集]

M577は、その汎用性の高さからいくつかの派生型が開発されている。

  • M577A1:エンジンの改良やサスペンションの強化が施された初期の改修型。
  • M577A2:エンジンとトランスミッションの換装、NBC防護システムの追加など、より大規模な近代化改修が施された型。
  • M577A3:さらなる電子機器の搭載能力向上や、ネットワーク中心の戦場におけるC4Iシステムへの対応を強化した最新型。
  • M1068スタンダード統合指揮所システム(SICPS):M577A3をベースに開発された、より高度なC4Iシステムを統合した指揮所車両。

特徴[編集]

M577の主な特徴は以下の通りである。

  • 拡張された内部空間:M113に比べて車高が高く、広々とした内部空間を提供し、多数の通信機器と人員を収容できる。
  • 展開式テント:車両後部に接続可能な大型テントにより、静止時の指揮スペースを大幅に拡大できる。
  • 機動性:M113譲りの高い機動性により、部隊の前線まで移動して指揮を執ることが可能。
  • 汎用性:指揮所としての役割だけでなく、医療後送、通信中継、警戒監視など、様々な任務に対応できる。

豆知識[編集]

M577は、その箱型の特徴的な形状から、兵士たちの間では「ファイアリング・ポイント」や「バトル・タクシー」といった愛称で呼ばれることもあった。また、通信機器の多さから、車内は常に熱気と電子音に満ちていたと言われている。

関連項目[編集]

参考書籍[編集]

  • 『世界のAFV』(アルゴノート社)
  • 『アメリカ陸軍の戦闘車両』(光人社)
  • 『ミリタリー・ビークル・スペシャル』(イカロス出版)