陸上自衛隊 軽装甲機動車
軽装甲機動車(けいそうこうきどうしゃ、英語: Light Armored Vehicle, LAV)は、陸上自衛隊が装備する装甲兵員輸送車である。主に普通科部隊に配備され、人員の輸送や偵察・警戒任務に用いられる。
概要[編集]
軽装甲機動車は、1990年代後半に進められた陸上自衛隊の近代化計画の一環として開発された車両である。国際連合平和維持活動(PKO)など、海外派遣任務における隊員の安全確保の必要性が高まったことを背景に、従来の高機動車や73式小型トラックでは不十分であった防弾性能を有する車両として導入が決定された。開発は小松製作所が担当し、2000年度から部隊への配備が開始された。
本車は、車体全体にわたって装甲が施されており、小銃弾や砲弾の破片、一部の対人地雷に対する耐弾性を持つ。NBC防護機能も有しており、化学兵器や生物兵器による攻撃下でも活動が可能である。車体上部にはキューポラがあり、5.56mm機関銃MINIMI、12.7mm重機関銃M2、あるいは01式軽対戦車誘導弾を搭載することが可能である。これにより、火力支援や自衛戦闘にも対応できる。
エンジンはいすゞ自動車製の水冷直列4気筒ディーゼルエンジンを搭載し、高い機動性を有する。不整地走破能力にも優れており、日本の地形だけでなく、海外の様々な地形での運用も考慮されている。
開発経緯[編集]
陸上自衛隊は、湾岸戦争後の国際貢献への関心の高まりとともに、海外派遣任務の機会が増加した。しかし、当時の高機動車や73式小型トラックといった輸送車両は、装甲が施されておらず、現地でのテロや紛争に巻き込まれた際の隊員の安全確保が課題となっていた。
これに対応するため、1997年度から新型の装甲車両の研究が開始された。防衛省(当時防衛庁)は、市販の車両をベースとせず、ゼロから防弾性能の高い車両を開発する方針を採った。複数のメーカーが開発提案を行い、最終的に小松製作所の案が採用された。
試作車両は1999年に完成し、各種試験を経て2000年度に制式化された。その後、2000年代を通じて本格的な量産が開始され、陸上自衛隊の各部隊へ順次配備された。
特徴[編集]
- 防御力: 車体全体が装甲鋼板で覆われており、小銃弾や砲弾の破片、対人地雷の爆発に耐えることができる。防弾ガラスも装備されている。
- NBC防護: 空気清浄装置と陽圧装置を備え、NBC兵器による攻撃下でも車内を汚染から保護する。
- 武装: 車体上部のキューポラには、用途に応じて5.56mm機関銃MINIMI、12.7mm重機関銃M2、01式軽対戦車誘導弾などを装備可能。
- 機動性: 高出力のディーゼルエンジンと4輪独立懸架により、舗装路での高速走行だけでなく、不整地での高い走破性を実現している。最低地上高も高く、悪路での走行に適する。
- 積載能力: 4名の乗員に加え、個人装備や一部の物資を積載可能。後部ドアからの乗降が可能である。
運用[編集]
軽装甲機動車は、主に陸上自衛隊の普通科部隊、偵察隊、施設科部隊、化学防護隊などに配備されている。
- 人員輸送: 戦場や危険地域における人員の安全な移動手段として使用される。
- 偵察・警戒: その防御力と機動性を活かし、敵情偵察や警戒任務に従事する。特に市街地戦闘やゲリラ戦においては、隊員の安全を確保しながら情報収集を行う上で重要な役割を果たす。
- 国際貢献活動: イラク復興支援活動や南スーダン国連平和維持活動など、海外派遣任務において隊員の護衛や移動に使用され、その防御力が高く評価された。
派生型[編集]
現在までに、軽装甲機動車の大きな派生型は確認されていない。しかし、用途に応じた内部改修や、無線機などの搭載装備の変更は行われている。また、研究段階では、より重武装を施した火力支援型や、対戦車ミサイルのプラットフォームとしての活用も検討されたことがある。
豆知識[編集]
- 軽装甲機動車の開発コードネームは「M-V」であった。
- 車体の特徴的な形状は、V字型車体を意識したものではなく、対弾性能と内部空間の確保を両立させるために設計された結果である。
- 導入当初、その愛称を公募する案も出たが、結局は正式名称である「軽装甲機動車」が広く用いられている。
- 国際貢献活動で派遣された際には、現地の気候や環境に合わせて、車体色や装備が一部変更されることもあった。