氷の海問題

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氷の海問題とは、月面の"Mare Frigoris"の日本語表記が、ラテン語訳に従った「寒さの海」ではなく、「氷の海」と誤訳されて表記されている問題である。英語名は、"Sea of Cold"である。

Mare[1]はラテン語で「海」、Frigoris[2]はFrigidum(寒さ)の所有格であり、ラテン語で氷はglacies[3]なので、「氷の海」は完全な誤訳である。

ラテン語読みルール[編集]

17世紀のガリレオ以降、望遠鏡で月や惑星などが詳しく観測され、月面の地形や新たに発見された衛星などの多くは、当時の神聖ローマ帝国の公用語であるラテン語で命名された。このため、日本語でも、多くの天体名がラテン語読みやその翻訳名で呼ばれるようになった[4]

アルテミスの呪い[編集]

2023年4月、ispace社は、初の民間月面探査機HAKURO-Rを「氷の海」に着陸させようとしたが、上空を降下中に実在しない「氷の海」を見つけることができないまま燃料が尽きてしまい、墜落した。

また、JAXAのSLIMも2024年にShioliクレーターに着陸したが、着陸中継の際に名前の由来をIAUの公式ページにある「日本人女性名」ではなく、「本にはさむ栞」と解説したため、逆立ちしてしまった。

2025年6月、ispace社は再びResilienceを「氷の海」に着陸させると発表した[5]が、着陸後の通信が確認できなかった。

このため、名前を間違えると、月の女神「アルテミスの呪い」があるという伝説が生まれた。


表記の変遷[編集]

年月 表記 書籍名 執筆者 出版社
1909 寒の海 「月」 一戸直蔵 裳華房
1931 氷の海 「天文年鑑」昭和6年版 天文同好会 新光社
1968 氷の海 「天文年鑑」1968年版P.54 冨田弘一郎 誠文堂新光社
1972 寒の海 「天文年鑑」1972年版P.60 小林悦子 誠文堂新光社
1978.2.15 氷の海 「天文・宇宙の辞典」    恒星社
1986.7 寒の海 「天文学辞典」奥付 鈴木敬信 地人書館
2025 寒さの海 「天文年鑑」2025年版 渡辺和郎 誠文堂新光社
2025 寒さの海 「星空年鑑」2025年版 アストロアーツ

脚注[編集]

関連項目[編集]

天体名のラテン語読みルール 天体名の日本語表記のルール