極限
数学に於ける極限とは数列ないし関数に対して引数(≒変数)を或る値(無限大もあり得る)に限りなく近づける事である(極限をとる事を極限移行と呼ぶ事もある)。この「極限をとる」という操作により数列や関数は様々な挙動を示す。それらを詳しく調べるのが極限論研究の目的となる。
数学の三大分野の1つである「解析学」はこの極限の世界を主戦場とする学問分野と言えよう。
数列の極限[編集]
高校初年級の数学で学ぶ数列ではその一般項(または第n項)を求めるのが主たる目標であったが高学年で学ぶ数学IIIでは数列の極限の概念が登場する。
自然数列(一般項)などは番号nを限りなく大きく(即ちの極限移行)しても数列自身も無限大になる(発散するという)だけであり、あまり興味が湧く物ではない。従って数列の極限の世界で関心があるのはの極限をとった時に所与の数列が或る有限値をとる場合(これを収束すると呼ぶ)であり、その有限値(極限値という)を可能な限り求めるのが最大の関心事なのである。
例えば一般項が
という形である場合、分子分母をnで割って
にの極限をとればは零に近づくので上記数列は有限値2に近づく(即ち2に収束する)。このように番号nを限りなく大きくした時の数列の挙動を調べるのが数列の極限の主たる目標な訳である。
記号の説明I[編集]
数列が番号nを限りなく大きくした時に極限値αに収束する事を記号&数式で
と表わす(※「lim」は「limit」の略)。上式は略式に
と書かれる事もある。
関数の極限[編集]
関数の極限は数列のそれとは少々異なり、引数を必ずしも無限大に近づけるものだとは限らず、場合によっては「代入」と同じ物と見做せるときすらある。
例えば分数関数
などは変数xを2に近づけたら一見分母が零になってゼロ除算が発生してしまいそうに見えるが分子を因数分解したらx-2が約分できる事により
と書けるからこの式にてxを2に近づけたら上記分数関数は6に近づく事が分かる。
この関数の極限はのちに微分法及び積分法の基盤となる概念であり、この理論の上に微積分が構築される事になる。
記号の説明II[編集]
関数の独立変数xを或る値aに限りなく近づけたときにこの関数が或る値lに近づくならばこの極限は以下の如き記号&数式で表される。;
これも略式に
と書く事ができる。
厳密な定義[編集]
極限の理論は上述のような曖昧な定義では精密に議論できない。ここでは極限の厳密な定義を紹介する。
イプシロン・エヌ論法[編集]
数列の収束の定義式は数列とその極限値との距離が番号を大きくとる事によって非常に小さな(零に近い)値にできる事を表わしていると言える。これを式で書けば
と表わせる。この主張は次のように言いかえる事ができる。;
「任意の(とても小さな)実数ε>0に対し或る(非常に大きな)自然数Nが存在すれば、数列の番号nがNよりも更に大きくなったとき
とする事ができる。」
そしてこれは論理記号を用いて以下のように表わす事ができる。;
斯くの如き記号を用いて収束を定義するやり方を「イプシロン・エヌ論法(ε-N論法)」と呼ぶ。[1]
イプシロン・デルタ論法[編集]
一方の関数の収束は以下のイプシロン・デルタ論法(ε-δ論法)と呼ばれる方法で定義される。
関数の極限の定義
をε-δ論法で書き直すと次のようになる。;
「任意の実数ε>0に対して或る実数δ>0をとった時x座標のaからの距離が|x-a|<δを満たすならば
が成り立つ。」
で、これを論理記号で書いたらこうなる。;
ちなみに「関数y=f(x)がx座標の点x=aで連続である。」とは
が成り立つ事であり、これは上述の(関数の)収束の定義に於いてとした物である。
関数f(x)が或る区間Iのすべての点で連続ならばf(x)はI上連続な関数またはI上の連続関数であるとゆー。この連続関数に於いては収束と代入を同一視する事ができる。
脚注[編集]
- ↑ εはerror(誤差)の頭文字のギリシャ文字版である。