嶋袋寿純
嶋袋 寿純(しまぶくろ すずみ、2001年 - )は、沖縄の学芸員。沖縄国際大学卒業[1]。対馬丸記念館学芸員。
経歴[編集]
南風原町出身。小学生の時、対馬丸の生存者で2023年に死去した平良啓子さんがモデルの絵本「ケーイ」を読んで対馬丸事件を知り、平和学習に関心を持った。大学3年から始めた平和ガイドの経験を通し平和の伝え方を考えるようになり、沖縄国際大学に在学中はガイドとして修学旅行生を対象に本島南部のガマを案内。「自分と同じように対馬丸をきっかけに沖縄戦を知りたいと思う人が増えてほしい」と考え、2024年4月から対馬丸記念館の学芸員として勤務している[2]。
対馬丸記念館では、沖縄戦当時を想像して戦争の悲惨さを実感してもらうとともに、現在の状況と重ねて子どもたちに考えてもらうことも目的に対馬丸平和継承プログラムを企画。また、2025年度の対馬丸記念館企画展も担当しており、戦時中、アメリカ軍などの攻撃により沈没した県関係の船について、これまで沖縄県によって確認されていた26隻に加えて新たに5隻の存在を明らかにした。5隻のうち、1943年3月、避難訓練中に台湾・基隆沖で沈没した高千穂丸では少なくとも県民2人が亡くなったほか、県民も乗船し、1945年2月に久米島沖で沈没した嘉進丸ではおよそ40人が命を落とした。ほかの3隻(泰仁丸、福成丸、南丸[3])は大東島沖で沈められたが、県民の被害は確認されていない。
人物・主張[編集]
台湾有事について[編集]
嶋袋本人も同行した対馬丸平和継承プログラムを企画では、台湾統一を目指して軍事演習を続ける中国に対して警戒される「台湾有事」について、政府が約12万人を船舶と航空機で九州・山口に避難させる計画作りを急ぐ点を示して「今の状況は当時とすごく重なる」とし、沖縄戦当時の疎開と現在進められている南西シフトの関係性を指摘した。嶋袋は、当時と同じく有事に無防備な民間船での避難を想定することに不安を拭えないと語り、「対馬丸も戦艦じゃないのは明らかなのに狙われた。安全に避難ができるのだろうか」と懸念を露わにした[4]。
戦時撃沈船舶について[編集]
2025年度の対馬丸記念館企画展では対馬丸以外の戦時撃沈船舶の住民の被害について、これまで全体を把握する調査が十分行われていなかった点を指摘。嶋袋の調査によって確認された5隻の存在をきっかけに更に調査を進めるとした[5]。この調査の結果は2025年6月20日発刊の『沖縄県史ビジュアル版14 沖縄戦』に反映された[6]。
また、2025年7月6日開催の「沖縄・平和と人権博物館ネットワーク」シンポジウムでは、地上戦のイメージが強い沖縄戦について海での戦没者の視点に言及し、海上戦没者の特徴として遺骨が戻ってきていない状況を指摘した[7]。
平和教育について[編集]
戦後80年の慰霊の日を前に、琉球新報社が開催した座談会「沖縄戦の継承と平和について考える」では、対馬丸記念館で実施している教員の研修受け入れについて、教員自身の意識の問題を指摘した。教員の姿勢が子どもたちに与える影響を示し、教員にとっても意味のある平和学習にすべきだとした。また、子どもの中から戦争の話が怖いから聞きたくないという声が出ている側面についても平和学習の課題とし、子どもや親子向けなど年齢層に合わせた沖縄戦の教材を作っていくことの重要性を述べた[8]。
西田発言について[編集]
琉球新報社主催の座談会では、西田昌司参議院議員が2025年5月3日の憲法記念日に沖縄のシンポジウムで発言をした「ひめゆり発言」についても言及した。西田発言を知らない知人がいることから、政治的な文脈の理解は平和学習に関わっているかどうかで大きく異なることを指摘し、さまざまな視点から学び向き合うことが重要だと述べた[8]。
脚注[編集]
- ↑ 光太, 玉寄 (2024年1月28日). “人間の尊さ伝える教育を 当時13歳の大城さん、生き別れの弟「今もどこかで…」 40人が戦争体験に耳傾ける 沖縄・糸満” (日本語). 琉球新報デジタル. 2025年7月7日確認。
- ↑ “「事件の悲惨さ周りに伝えて」 学芸員・嶋袋寿純さん” (日本語). 沖縄タイムス+プラス (2024年9月30日). 2025年7月7日確認。
- ↑ 遥子, 田吹 (2025年6月14日). “「海の戦争忘れない」対馬丸の他にもこんなに…撃沈船パネル展 那覇 沖縄” (日本語). 琉球新報デジタル. 2025年7月7日確認。
- ↑ “魚雷で沈んだ学童疎開船対馬丸の航路、児童が追体験…遺体流れ着いた島で黙とう「悲しみは残り続けるんだ」” (日本語). 読売新聞オンライン (2024年8月20日). 2025年7月7日確認。
- ↑ “沖縄戦当時に米軍の攻撃で沈没した船を新たに5隻確認 学童疎開船「対馬丸」の記念館が企画展 | 沖縄のニュース|RBC 琉球放送 (1ページ)” (日本語). RBC 琉球放送 (2025年6月15日). 2025年7月7日確認。
- ↑ 愛也, 外間 (2025年6月24日). “沖縄戦の情報、分かりやすく 「県史ビジュアル版」発行 県教委” (日本語). 琉球新報デジタル. 2025年7月7日確認。
- ↑ 琉球新報朝刊 (2025年7月6日). “非戦へ 歴史、自分事に 8館平和シンポ” (日本語). 琉球新報デジタル. 2025年7月7日確認。
- ↑ a b 琉球新報社 (2025年6月22日). “<これからの平和教育 座談会>教師も戦争を知らない世代 どう学び、伝える?SNSの影響は?【沖縄戦80年 慰霊の日特集】” (日本語). 琉球新報デジタル. 2025年7月7日確認。