少子化
少子化(しょうしか)とは、
- 出生数(live births)が減少すること
- その国・地域の合計特殊出生率が人口置換水準 (replacement-level) を下回ること(en:sub-replacement fertility)[1]
- 年少人口の割合が低下すること(高齢化の類義語として)
- 年少人口が減少すること
を指し、いずれの意味であるかはその文脈に依拠する。
少子化の原因については、人口転換論を発展させた「第二の人口転換」、経済学による説明、ジェンダー公平性に着目する理論などの学説があり、各国政府は保育、育児休業、現金給付などの家族政策で対応してきたが、その効果の評価には出産時期の変化が期間合計特殊出生率に及ぼす影響(テンポ効果)などの難しさがある。置換水準を下回る出生率の長期化は人口減少と高齢化をもたらす(「学説」「少子化対策」「影響」の節を参照)。
少子化の測定[編集]
少子化の程度を測る指標として最も広く用いられるのは合計特殊出生率で、その年の年齢別出生率のもとで女性1人が一生に生む子ども数に相当する(期間合計特殊出生率)。1つの世代が生涯に生む子ども数(コーホート合計特殊出生率)とは区別される[2]。国立社会保障・人口問題研究所の出生動向基本調査では、2021年に妻45〜49歳の夫婦の最終的な出生子ども数が1.81人と報告されている[3]。人口が長期的に増減せず一定に保たれる出生率の水準(人口置換水準)は、死亡率の低い先進国では約2.1、日本では2023年時点で2.07である[4][5]。
期間合計特殊出生率は出産時期の変化に敏感で、出産年齢が上昇する局面では各世代の最終的な子ども数を過小に示す。この歪みは「テンポ効果」と呼ばれ、ジョン・ボンガーツ(John Bongaarts)とグリフィス・フィーニー(Griffith Feeney)が1998年に調整指標を提案した[6]。トマーシュ・ソボトカ(Tomáš Sobotka)らが国際連合人口基金(UNFPA)の委託で執筆した2019年の報告書(以下「UNFPAの委託研究」)は、こうした期間指標の性質が各国の比較や政策効果の評価を難しくするとしている[7]。また出生数は出産年齢にある女性の人口にも左右され、出生率が横ばいでも母親世代の人口が減れば減り続ける[4]。
現代の少子化原因[編集]
学説[編集]
置換水準未満の出生率が長期化する現象には、人口学・経済学・社会学からの説明がある。
- 第二の人口転換
- ロン・レスタギ(Ron Lesthaeghe)とディルク・ファン・デ・カー(Dirk van de Kaa)は1986年以降、同棲や婚外出生の増加、出産の先送り、低出生率の持続が、個人の自律や自己実現といった価値観の変化と結びついて進む変化を「第二の人口転換」として概念化した[8]。
- 経済学的説明
- 親が子どもの数より1人あたりの「質」への投資を選ぶとするゲーリー・ベッカーの「量と質のトレードオフ」や、女性の賃金上昇が育児の機会費用を高めるという説明が古典的な枠組みである。マティアス・デプケ(Matthias Doepke)らは2023年の総説で、高所得国では女性の就業率と出生率の関係が負から正へ転じ、家族政策、父親の育児参加、社会規範、柔軟な労働市場といった両立条件が国際的な差を説明すると整理した[9]。
- ジェンダー公平性
- ピーター・マクドナルド(Peter McDonald)は2000年に、教育や雇用でのジェンダー公平性が高まる一方、家庭内の役割分担の公平性が低い社会では、女性が就業と出産の両立を諦めて出生率が非常に低くなると論じた[10]。
- 低出生力の罠
- ヴォルフガング・ルッツ(Wolfgang Lutz)らは2006年に、出生率が1.5を下回った社会では、出産年齢人口の縮小、少ない子ども数の理想の内面化、若年世代の相対所得の低下が互いを強め、回復が困難になるとする仮説を提示した[11]。
- 東アジア型の少子化
- ジェームズ・レイモ(James M. Raymo)らは2015年に、東アジアでは出生に占める婚外出生が2〜4%と少なく出産が結婚と結びついているため晩婚化・未婚化が出生率低下に直結し、長時間労働や性別役割の非対称、教育競争が結婚と出産を抑制していると整理した[12]。
世界的動向[編集]
国際連合の『世界人口推計2024年版』によれば、世界の合計特殊出生率は1990年の3.31から2024年には2.25へ低下し、世界の国・地域の半数以上で人口置換水準の2.1を下回り、世界人口の3分の2が置換水準未満の国・地域に住んでいる。世界人口は2080年代半ばに約103億人でピークに達し、その後は減少に向かうと予測されている[4]。2024年に『ランセット』に発表された世界疾病負荷研究の予測では、2100年には204か国・地域のうち198が置換水準を下回る[13][14]。
先進国では、経済協力開発機構(OECD)の報告書によれば加盟国平均の合計特殊出生率は1960年の3.3から2022年に1.5へ低下した[15]。欧州連合ではEurostatによれば2024年の合計特殊出生率が1.34と過去最低を記録し、加盟国ではマルタ(1.01)が最も低かった[16]。
人口がすでにピークを越えた国・地域では東アジア・東南アジアの出生率(平均1.0)が最も低く、1980年代までは先進国に限られていた低出生率はアジアやラテンアメリカにも広がった[4][7]。
フランス国立統計経済研究所(INSEE)によれば、2025年の合計特殊出生率は1.56で第一次世界大戦末期以来の最低水準となり、死亡数が出生数を上回った[17]。
イスラエル[編集]
OECDの2024年の報告書によれば、イスラエルの合計特殊出生率は2.9で加盟国中最も高く、加盟国平均1.5の約2倍である[18]。
東アジア[編集]
厚生労働省の人口動態統計(概数)によれば、2025年の出生数は67万1,236人、合計特殊出生率は1.14であった[2]。国立社会保障・人口問題研究所の2023年推計(出生中位)は、総人口が2070年に8,700万人になると見込んでいる[19]。
影響[編集]
詳細は「日本の少子化#影響」を参照
人口置換水準を下回る出生率が続くと、移民のない人口では出産年齢の女性が世代ごとに縮小し、人口は減少に転じる。国際連合は、人口がすでにピークを越えた国・地域では高齢化した年齢構成が人口減少の主因となるため出生率が回復しても減少が続く場合があるとし、65歳以上人口の割合は2024年の17%から2054年に33%へほぼ倍増すると見込んでいる[4]。日本でも65歳以上人口の割合は2070年に38.7%になると推計されている[19]。
国際連合は、高齢者や女性を含む労働参加の促進と自動化による生産性の向上を、生産年齢人口が縮小する下で1人あたりの経済成長を維持する方策として挙げている[4]。『ランセット』の予測の著者らは、人口構成の変化が経済、食料安全保障、保健、環境、地政学的安全保障に及ぼす影響への備えを各国に求めている[14]。
日本では日本創成会議が2014年に、2010年から2040年にかけて20〜39歳の女性人口が半分以下になると推計される896の市区町村を「消滅可能性都市」として示した[20]。
少子化対策[編集]
少子化への政策的対応は、出生率の回復を目指す施策(家族政策)と、少子化がもたらす人口減少・高齢化に社会を適応させる施策に大別される[21]。UNFPAの委託研究によれば、出生率の引き上げを政策目標として掲げる政府の数は1986年の19から2015年には55に増えた[7]。
家族関係支出の国際比較[編集]
OECD加盟国は平均でGDPの2.29%(2019年)を家族向け給付に支出している。日本の政策分野「家族」の社会支出は2023年度に対GDP比1.93%である[22]。18か国のOECD加盟国を対象とした分析では、家族政策支出の増加が出生率と正の関係を持つことが報告されている[23](反例は「少子化対策」節の冒頭を参照)。
効果の評価の難しさ[編集]
政策の効果を測ることは容易ではない。第一に、最も使われる指標である期間合計特殊出生率は出産の時期の変化に敏感である(テンポ効果。「少子化の測定」の節を参照)[6]。UNFPAの委託研究は、大規模な家族政策の拡充は期間合計特殊出生率を一時的に押し上げるが、それは出産時期を早める効果で最終的な子ども数への影響は限定的なことが多いと整理している[7]。
第二に、家族政策は複数の施策が束になって導入・改廃されるため、個別施策の効果を切り分けることが難しい[7]。2000年代以降は制度改正の前後などを利用した準実験(自然実験)による因果推定が蓄積され、2021年には欧州・北米・オーストラリアの35研究を対象とする系統的レビューが発表された[24]。
効果に関する研究[編集]
保育の拡充について、2021年に発表された系統的レビューは最終的な子ども数を高めると結論し[24]、UNFPAの委託研究も、育児休業の終了直後から利用でき親の勤務時間に合った質の高い保育を広く提供することが高い出生率の維持に「不可欠」だとしている[7]。ノルウェー[25]、ドイツ[26]、日本[27]では保育の拡充が出生率を高めたことが報告されている。
育児休業は、UNFPAの委託研究によれば十分な所得補償がある場合に正の効果を持ちやすく[7]、2021年の系統的レビューは、拡充の効果は従来の理解より大きく持続的だが恩恵は高所得のカップルに偏り、父親割当の出生率への効果はスペインで負、北欧諸国では認められなかったと報告している[24]。ドイツが2007年に導入した所得比例の育児休業給付では、高所得・高学歴の女性で出生率が上昇したとする研究がある[28]。
現金給付は、期間出生率への小さな正の効果を示す研究が多いが、長期的な子ども数への効果は小さいか確認されていないと繰り返し指摘されている[7][24]。カナダのケベック州の新生児手当は期間出生率を約12%高めたと推定されているが[29]、UNFPAの委託研究は、現金給付は「子どもを早く持つことを促すが、より多くの子どもを持たせることは稀である」と要約している[7]。生殖補助医療への助成については、同研究が出生率への小さな正の効果を報告している[7]。
UNFPAの委託研究は、明示的な家族政策よりも労働市場や教育制度、ジェンダー規範に関わる制度のほうが出産行動に強く影響する場合があるとし、韓国で育児休業や児童手当、保育の拡充が進んでも出生率が極端に低下したのは厳しい労働市場条件や性別役割規範に政策が届いていなかったためだとして、整合した政策パッケージの必要性を指摘している[7]。同レビューも、政策は従来考えられていたより出生率にとって重要な可能性があると結論している[24]。一方、『ランセット』の予測の著者らは、こうした政策は「小さな押し上げ」をもたらし得るが多くの国は置換水準を下回ったままだろうと述べている[14]。
各国の政策と出生率の推移[編集]
フランス[編集]
フランスは第二次世界大戦後、家族手当、課税所得を世帯の人数で分割する「N分N乗」方式の所得税、保育ママ制度など包括的な家族政策を発展させ、1995年に1.65まで低下した出生率は2006年に2.01へ回復した。
スウェーデン[編集]
スウェーデンでは1980年代後半に出生率が急激に回復したことから少子化対策の成功例と言われ、日本において出産・育児への充実した社会的支援が注目されている[30]。しかし、前述した通り、スウェーデンは高コストであった従来の出生率改善策を放棄しており、より長期的な観点に立ったイギリス式モデルによる改革を行っている。
ドイツ[編集]
西ドイツの家族政策は長く男性稼ぎ手モデルを前提としていたが、2007年に所得比例の育児休業給付が導入され、2013年からは1歳からの保育利用の法的請求権が認められた[7]。合計特殊出生率は2016年に1.59まで上昇した後に低下し、2024年は1.36であった[16]。
ハンガリー[編集]
ハンガリーでは1993年以降の3人以上の子を持つ母親への養育支援や、2019年の4人以上の子を持つ女性の所得税免除などの施策がとられたが、UNFPAの委託研究は、政権ごとの家族政策の改変と給付削減が出生率に負の影響を与えたと指摘している[7]。合計特殊出生率は2011年の1.23から2021年に1.61へ上昇した後、2025年には1.31まで低下した[31]。
ポーランド[編集]
ポーランドは2016年4月に、2人以上の子を持つ親に非課税の給付を支給する「家族500プラス」制度を導入した[7][32]。Eurostatによれば、合計特殊出生率は2015年の1.32から2017年に1.48へ上昇した後、低下を続けて2024年には1.14となった[33]。
大韓民国[編集]
詳細は「大韓民国の少子化」を参照
大韓民国政府は2006年以降、保育補助、現金給付、住宅支援などの少子化対策に累計360兆ウォン超を投じてきた[34]。合計特殊出生率は2023年に0.72を記録した後2年連続で上昇し、報道はその背景として婚姻件数の回復や30代人口の厚みを挙げている[34][35]。
中華人民共和国[編集]
中華人民共和国は2016年に一人っ子政策を廃止し、2021年5月には第3子までの出産を認める方針を決定し[36]、2025年7月には3歳未満の子1人につき年3,600元の育児補助金を全国で導入することを発表した[37]。
日本の研究者の見解[編集]
日本の少子化対策について、研究者は次の見解を示す。経済学者の山口慎太郎は、子育て支援を次世代への投資と女性の就業支援の役割も持つ政策と評価している[38]。柴田悠は、保育を中心とする子育て支援が出生率と労働生産性を高めると論じた[39]。松田茂樹は出生率低下の主因を未婚化に求め、その対応を含む総合的な対策を提言している[40][41]。山田昌弘は、日本の少子化対策は結婚・出産が回避される原因に対応してこなかったため効果を上げなかったと論じ[42]、赤川学は、税金を投入しても少子化が改善しない状況を「少子化対策のパラドクス」と捉える[43]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ↑ 加速するインドの少子化〜人口ピークのタイミングは2040年代に早まる可能性〜(PDF) 日本総研
- ↑ a b 厚生労働省 (2026年6月). “令和7(2025)年人口動態統計月報年計(概数)の概況(PDF)”. 2026年9月8日確認。
- ↑ 国立社会保障・人口問題研究所 (2022年). “第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)”. 2026年9月8日確認。
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- ↑ 国立社会保障・人口問題研究所. “表4-3 女性の人口再生産に関する主要指標:1925~2023年”. 人口統計資料集(2025年版). 2026年9月8日確認。
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- ↑ 柴田悠 『子育て支援が日本を救う:政策効果の統計分析』 勁草書房、2016年。ISBN 978-4-326-65400-0。
- ↑ 松田茂樹 『少子化論:なぜまだ結婚・出産しやすい国にならないのか』 勁草書房、2013年。ISBN 978-4-326-65380-5。
- ↑ 松田茂樹 『[続]少子化論:出生率回復と〈自由な社会〉』 学文社、2021年。ISBN 978-4-7620-3068-0。
- ↑ 山田昌弘 『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?:結婚・出産が回避される本当の原因』 光文社〈光文社新書〉、2020年。ISBN 978-4-334-04468-8。
- ↑ 赤川学 『これが答えだ! 少子化問題』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2017年。ISBN 978-4-480-06936-8。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- Fertility rates(英語) - OECD