天の原ふりさけ見れば春日なる三笠の山に出でし月かも

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百人一首 七番歌・古今和歌集 収録
天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも
大空を振り仰いで見渡してみると、美しい月が出ている。
あの月は、ふるさとの奈良は春日にある三笠山にも、今出ている月なのだなあ。
──阿倍仲麻呂

解説[編集]

50歳の阿倍仲麻呂が詠んだ短歌

仲麻呂は19歳から遣唐使として中国に赴任しており、数十年振りの帰国に先立った宴会で、漢詩に著名で親交の深かった李白王維とともにこの詩を詠んだ。なおこのとき、王維と仲麻呂は漢詩を贈りあっている(後述)。

阿倍仲麻呂は科挙に合格し、当時の皇帝である玄宗にも重用されたビジネスパーソンであり、玄宗も優秀な人材を手放すことを躊躇していたので帰国を許されなかったという。

仲麻呂を乗せた遣唐使船は途中で嵐に呑まれて難破し、安南に漂着して日本への帰国は叶わなかった。

漢詩[編集]

この歌に関連して、仲麻呂と王維との贈答漢詩、後世の漢訳が存在する。

仲麻呂と王維の贈答漢詩[編集]

晁衡とは仲麻呂のこと。

銜命還国作  晁衡

原文 書き下し文 通釈
銜命將辭國 命(めい)を銜(ふく)み将(まさ)に国を辞せんとす 皇帝陛下の命令を受けて今から国を出ようとしている
非才忝侍臣 非才ながら侍臣を忝(かたじけの)うす 才はなかったが。ありがたく陛下にお仕えしてきた
天中戀明主 天中明主を恋(おも)い 陛下は天下から賢明な君主として慕われ
海外憶慈親 海外慈親を憶(おも)う 海外からは、慈悲深い親のようにおもわれている
伏奏違金闕 伏奏(ふくそう)して金闕(きんけつ)を違(さ)り 陛下に伏して奏上して、宮殿を辞するお許しを得た
騑驂去玉津 騑驂(ひさん)して玉津(ぎょくしん)を去らんとす 馬車に乗り、立派な港から旅立つ
蓬萊郷路遠 蓬莱(ほうらい)郷路(きょうろ)は遠く 日本へ帰る道は遠いが
若木故園鄰 若木故園の隣(となり) 未熟な若木のような日本は、立派な園である唐の隣にある
西望懷恩日 西を望み恩を懐かしむ日 西を望んで、陛下のご恩を懐かしむ日があり
東歸感義辰 東へ帰って義に感ずる辰(とき) 東の日本に帰って、義に感謝する時もあろう
平生一寶劍 平生(へいせい)一宝剣 私が平素から大切にしていた一振りの宝剣を
留贈結交人 留め贈る交を結びし人に 親しく交わった友に贈ろう

送秘書晁監還日本國  王維

原文 書き下し文 通釈
積水不可極 積水(せきすい)極(きわ)む可(べ)からず 水が深く積もった海は極める事はできないのだから
安知滄海東 安(いずく)んぞ滄海(そうかい)の東を知らん どうして青い大海原の東を知る事ができようか
九州何處遠 九州何れの処か遠き 世界では、どこが(日本より)遠いのだろうか
萬里若乘空 萬里空に乗ずるが若(ごと)し 万里の道を(馬車に)乗って空を行くようなものだろう
向國惟看日 国に向って惟(た)だ日を看る 日本国に向かうにはただ(東方の)太陽を見て
歸帆但信風 帰帆(きはん)但だ風に信(まか)す 帰りの船はただ風まかせ
鰲身映天黑 鰲身(ごうしん)天に映じて黒く 大海亀の身体は天に黒々と映えて
魚眼射波紅 魚眼(ぎょがん)波を射て紅(くれない)なり 魚の眼は赤々と波間に光る
鄕樹扶桑外 郷樹(きょうじゅ)扶桑(ふそう)の外 故郷の樹木は(日の出る神木のある)扶桑の外にあり
主人孤島中 主人(しゅじん)孤島の中(うち) あなたは絶海の孤島にいる
別離方異域 別離(べつり)方(まさに)異域なりて 別れては、まさに異郷となってしまうが
音信若爲通 音信(おんしん)若為(いかん)か通ぜん 便りをどのようにして通じることができるだろうか

後世の漢訳[編集]

望郷詩

原文 書き下し文
翹首望東天 首を翹(あ)げて東天を望めば
神馳奈良邊 神(こころ)は馳す 奈良の辺
三笠山頂上 三笠山頂の上
思又皎月圓 思ふ 又た皎月(きょうげつ)の円(まどか)なるを