七つの大罪
七つの大罪(ななつのたいざい)は、キリスト教における七つの罪を指した用語。罪と悪魔を結び付けて考えることも多い。八つの枢要罪「暴食(大食)」、「色欲(肉欲)」、「強欲」、「憂鬱」、「憤怒」、「怠惰」、「虚飾」、「傲慢」が元となっている。「虚飾」と「傲慢」、「怠惰」と「憂鬱」はそれぞれ一つの罪となり、「嫉妬」が追加されることで七つの大罪となった。
曖昧さ回避[編集]
- 七つの大罪 (漫画) - 鈴木央による日本の漫画作品。
- 七つの大罪 (ホビージャパン) - ホビージャパンのコンテンツ。
七つの大罪と動物の関連付けの源流[編集]
その一方、13世紀に、ある聖職者によって中英語で書かれた『アンクレン・ウィッセ』(Ancrene Wisse、「アンカレスへの指針」の意)の第4部「誘惑について」において、著者は以下のように記述している。
| 罪(現代語) | 『アンクレン・ウィッセ』原文(中英語) | 訳 | ゲティングズのリスト |
| 傲慢 | þe Liun of Prude | 傲慢のライオン | ライオン |
| 嫉妬 | þe Neddre of attri Ontfule | 有毒な嫉妬の蛇(マムシ) | 蛇 |
| 憤怒 | þe Unicorne of Wreaððe | 憤怒のユニコーン | ユニコーン |
| 怠惰 | þe Beore of dead Sleawðe | 死んだ怠惰の熊 | 熊 |
| 強欲 | þe Fox of Yscungh | 貪欲の狐 | 狐 |
| 暴食 | þe Suwe of Giuernesse | 大食の雌豚 | 豚 |
| 色欲 | þe Scorpium | サソリ | サソリ |
割り当ての文献的・博物学的背景[編集]
以下、それぞれの動物がなぜその罪に割り当てられたのか、当時の文献学的・博物学的背景を詳細に分析する。
傲慢のライオン (The Lion of Pride)[編集]
【象徴の論理】 ライオンは「百獣の王」であり、その堂々たる態度、咆哮、そして支配的な性質から、すべての罪の根源にして王である「傲慢(Superbia)」の象徴とされた。 『アンクレン・ウィッセ』の著者は、このメタファーをさらに拡張し、「傲慢のライオンには多くの子供(Cub)がいる」と述べる。その子供たちとは、「自慢」「軽蔑」「偽善」「推定」「不服従」といった、傲慢から派生する細かな罪のことである。
【歴史的連続性】 ライオンを傲慢と結びつける伝統は比較的強固であり、後のスペンサー『妖精の女王』や多くの聖堂彫刻でも踏襲されている。しかし、後述するブルクマイアの版画では、傲慢は「孔雀(Peacock)」を伴って描かれることが多く、ここで既にゲティングズの記述(ブルクマイア説)との齟齬が生じている。
嫉妬の蛇 (The Serpent of Envy)[編集]
【象徴の論理】 エデンの園でイヴを誘惑した蛇は、人類に対する悪魔の「嫉妬」の化身と解釈されてきた。中英語の Neddre(Adder、マムシ)は、毒を持つ生物の代表である。 著者は「嫉妬深い人間は、マムシのように毒を吐く」と描写する。他人の幸福を見ると顔をしかめ(これが蛇の威嚇に似ている)、悪口という毒牙で噛みつくのである。
【比較図像学】 中世後期には、嫉妬は「骨をしゃぶる犬」として描かれることも多かった(他人の持ち物を欲しがる様子から)。しかし、『アンクレン・ウィッセ』は聖書的な蛇のイメージを固守している。
憤怒のユニコーン (The Unicorn of Wrath)[編集]
【象徴の論理】 現代のファンタジーにおいてユニコーンは純潔、清浄、癒やしの象徴であるが、なぜ13世紀の著者はこれを「憤怒」の化身としたのか。
その鍵は、聖書の誤訳と古代博物学の混同にある。 旧約聖書(詩編など)に登場するヘブライ語の「レーム(Re'em)」は、今日では「野牛(Wild Ox)」と翻訳される強力な獣である。しかし、古代のギリシア語訳聖書(七十人訳)はこれを「モノケロス(Monoceros、一角獣)」と訳し、ラテン語訳(ウルガタ)では「ユニコリス(Unicornis)」または「リノケロティス(Rhinoceros)」と訳された。
中世のベスティアリ(動物誌)において、ユニコーン(一角獣)とリノケロス(サイ)はしばしば混同されていた。イシドールスなどの記述によれば、リノケロスは「鼻の上に角を持ち」、象さえも倒す獰猛な獣であるとされた。 『アンクレン・ウィッセ』の著者は次のように書いている。
「憤怒のユニコーンは...その鼻の上に角を持ち、届くものすべてを突き刺す。」(The Unicorn of Wrath... bears on his nose the horn with which he gores all that he reaches.)
ここで「鼻の上に(on his nose)」と明記されていることから、著者がイメージしていたのは、優美な馬のような一角獣ではなく、怒り狂って突進するサイ(Rhinoceros)的な怪物であった可能性が高い。しかし、言葉としては「ユニコーン」が使われたため、後世の読者(およびゲティングズ)はこれを伝説の一角獣としてリスト化したのである。
この「憤怒=ユニコーン」という等式は、『アンクレン・ウィッセ』の系譜以外ではほとんど見られない極めて特異なものである。
怠惰の熊 (The Bear of Sloth)[編集]
【象徴の論理】 熊は冬眠する習性があることから、無気力、睡眠、活動停止の象徴とされた。ラテン語の罪名「アケディア(Acedia)」は、修道生活における霊的な無気力や倦怠を指す。 著者は、怠惰な人間を「悪魔の肩にもたれかかって眠る熊」のように描写している。彼らは重く、動きが鈍く、神への奉仕において死んだようになっている。
【比較図像学】 後の時代(ルネサンス期)になると、怠惰の象徴は「ロバ(Ass)」(頑固さと愚鈍さ)や「カタツムリ」に取って代わられることが多い。熊を怠惰の筆頭に挙げるのは、12-13世紀の説教文学に特有の古い伝統である。
強欲の狐 (The Fox of Greed)[編集]
【象徴の論理】 中世において狐は「狡猾さ」と「盗み」の代名詞であった。特に12世紀以降、フランスを中心に『狐物語(ロマン・ド・ルナール)』が流行し、狐のルナールは聖職者や農民を騙して鶏や食料を奪うトリックスターとして人気を博した。 『アンクレン・ウィッセ』において狐は、家禽(=善行や魂)を盗み食いする「強欲(Avaritia)」の象徴とされた。著者は「狐はガチョウを丸呑みにし...それでもなお、最も無実な獣のような顔をする」と述べ、強欲な人間が自身の貪欲さを「倹約」や「賢さ」として正当化する欺瞞性を指摘している。
【比較図像学】 ルネサンス期の芸術では、強欲はしばしば「ガマ(Toad)」や「アナグマ」で表される(土の中に財宝を溜め込むイメージから)。ここでも『アンクレン・ウィッセ』のリストは、視覚芸術の伝統とは異なる文学的な独自性を持っている。
暴食の雌豚 (The Sow of Gluttony)[編集]
【象徴の論理】 これは最も普遍的な象徴である。豚が泥にまみれて餌を貪る姿は、洋の東西を問わず「暴食(Gula)」の視覚的イメージとして定着している。『アンクレン・ウィッセ』でも、暴食者は「腹を豚の餌箱にする」と痛烈に批判されている。この象徴のみは、中世から現代に至るまで一貫して揺るがない。
色欲のサソリ (The Scorpion of Lust)[編集]
【象徴の論理】 サソリが色欲(Luxuria)の象徴とされる理由は、その身体的特徴の寓意解釈にある。著者は次のように説明する。
「サソリは蛇の一種であり、いくぶん女性のような顔を持ち、快活な表情を見せるが...その尻尾で刺す。」(The Scorpion is a kind of snake that has a face somewhat like a woman's... but stings with the tail.)
「サソリが女性の顔を持つ」という奇妙な記述は、ヨハネの黙示録9章に登場する「イナゴ」(顔は人間のようで、サソリの尾を持つ)の記述や、大プリニウス『博物誌』、ソリヌス『奇驚譚』などの古代文献における人面獣の伝承が融合したものである。 この「前門の美しさ、後門の死」という二面性が、誘惑の甘美さとその後に訪れる魂の死(地獄)という色欲の性質に重ね合わされたのである。
【比較図像学】 ルネサンス期においては、色欲の象徴として圧倒的に「山羊(Goat)」が優勢であった(性的な活力の象徴として)。サソリを色欲の主たる象徴とするのは、『アンクレン・ウィッセ』およびそれに影響を受けた一部の説教文学に見られる特徴である。
七つの大罪と動物象徴の変遷[編集]
| 罪 | アンクレン・ウィッセ (c.1200) | スペンサー『妖精の女王』 (1590) | ブリューゲル (1558) | ボッシュ (c.1500) | 一般的・通俗的イメージ |
| 傲慢 | ライオン | 孔雀 | 孔雀 | 孔雀 / 鏡を持つ女性 | ライオン / 孔雀 |
| 嫉妬 | 蛇 (Adder) | 狼 | 七面鳥 / 犬 | 犬 (骨をしゃぶる) | 蛇 / 犬 |
| 憤怒 | ユニコーン | ライオン | 熊 / グリフィン | 剣を持つ怪物 | ライオン / 熊 / 猪 |
| 怠惰 | 熊 | ロバ | ロバ | カタツムリ | ナマケモノ / ロバ |
| 強欲 | 狐 | ラクダ | ガマ (Toad) | ガマ | 豚 / 狼 / カラス |
| 暴食 | 豚 (Sow) | 豚 (Swine) | 豚 | 豚 / 怪物 | 豚 / ハエ |
| 色欲 | サソリ | 山羊 | 山羊 | 山羊 / 猿 | 山羊 / ウサギ |