リミテッド・スリップ・デフ

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リミテッド・スリップ・デフとは、デファレンシャルギア(デフ)の動作を必要に応じて制限する機構である。略してLSDと呼ばれるほか、日本では差動制限装置とも呼ばれる。なお、LSDを持たないデファレンシャルギアのことはオープンデフとよばれる。

概要[編集]

自動車において左右輪の回転差の吸収などに使われているデファレンシャルギアであるが、脱輪や氷上などで片側の車輪に係る抵抗が著しく少なくなった場合に抵抗の少ないほうに動力を多く分配して空転してしまうという欠点がある。こうなってしまうと脱輪していないほうの車輪に動力が伝達されず、脱輪して抵抗がないタイヤが空転するだけで脱出できないという状態なってしまう。その問題を解決するために差動を制限させ、もう一方の車輪にも動力を伝えるための機構がLSDである。同じく差動を制限させるデフロック(差動せずに固定させるもの)とは異なり一定の回転差やトルクの差が発生するまでは差動を制限しないという特徴がある。

LSDは駆動輪のデファレンシャルギアに使用されるほか、AWDにおいてはセンターデフにも採用されることがある。そのため、フルタイムAWDの場合は3つのLSDを装着することもある[注 1]

また、差動を制限する方式によりいくつかの方式に分けることができ、車輪間のトルクの差に応じて差動を制限するトルク感応型、回転差に応じて制限する回転感応型などがある。

種類[編集]

トルク感応型

トルセンLSDに代表されるトルク感応型LSDはデフに一定以上のトルク反力が入力されると差動を制限するタイプのLSDである。トルセンLSDのほか、シュアトラックLSDやヘリカルLSDなどが存在する。

回転感応型

ビスカスカップリング式LSDに代表される回転感応型LSDは回転差が生じた場合に差動を制限するパッシブタイプのLSDである。メンテナンスフリーで安定したフィーリングがあるという利点があるものの、反応速度が遅いことからスポーツ走行や本格的なオフロードには向かないとされている。しかし、機械式のように急激な反応ではなく穏やかな特性であるため、フルタイムAWDのセンターデフにも使われることもある。

電子制御式

LSDの差動効果を車載コンピュータやドライバーが任意に調整できるものもあり、スバルのドライバーズコントロールセンターデフ(DCCD)もこの一種である。かつてのDCCDは機械式と電子制御LSDを組み合わせた機構であったが、現在では電子制御LSDのみの実装となっている。

機械式

現在は一般向けではないLSDとして俗にいう「機械式LSD」というものがある。多版クラッチにより差動制限する方式であり、空転を検知するとクラッチが圧着して動力を両方に伝達する仕組みである。歴史は古く、かつ強力な差動制限力を発揮することからかつては純正で採用されたこともあるが、その寿命の短さやメンテナンスの煩雑さから現在では競技用を除いてあまり使用されることは無い。一方、ドリフト走行においては(FRの場合)駆動輪の空転が容易になることから装着されることの多いパーツである。また、機械式LSDは細かな調整も可能で加速時だけに効果を発揮する1wayLSDや減速時にも効果を発揮する2wayLSD、減速時の効きがマイルドな1.5wayLSDなどがあり、かつてはバキバキというようなチャタリング音を発することもあり、音で機械式LSDを入れていることが分かったものである。

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. 例として、インプレッサWRX(GF/GC型かつSTiやRAなどではない素のWRX)でMTの場合だとセンターデフがビスカス式LSD、前後輪のデフがシュアトラック式LSDであった