ホンダ・ドリームCB750FOUR
ホンダ・ドリームCB750FOURは、本田技研工業が製造販売していたオートバイである。
概要[編集]
ドリームCB750FOURは、1969年(昭和44年)に発表された排気量736ccの空冷SOHC直列4気筒エンジンを搭載した大型自動二輪車である。本田技研工業が世界市場でのシェア拡大を目指し、特に北米市場を強く意識して開発された。当時としては画期的な性能と装備を誇り、世界のオートバイ史に大きな影響を与えた「名車」として知られる。
開発と発表[編集]
1960年代後半、北米市場ではハーレーダビッドソンに代表される大型オートバイが人気を博しており、日本のオートバイメーカーもこの市場への参入を模索していた。本田技研工業は、すでにCB450などで高性能車の実績を積んでいたが、さらなる大型化と高性能化が求められていた。
ドリームCB750FOURの開発は、当時の本田技研工業の総力を挙げた一大プロジェクトであった。エンジンの設計には、ホンダのレーシングマシンRCシリーズで培われた技術が惜しみなく投入された。特に、量産車としては世界初となる「油圧ディスクブレーキ」の採用は、当時のオートバイとしては画期的な安全装備であった。
1968年(昭和43年)の東京モーターショーでプロトタイプが発表され、翌1969年に市販が開始された。その発表は、世界のオートバイ業界に大きな衝撃を与えた。「超高性能」「超装備」「超低価格」の「三超」と呼ばれ、それまでになかったコンセプトは多くのライダーを魅了した。
車両構成[編集]
エンジン[編集]
搭載されたエンジンは、排気量736ccの空冷SOHC2バルブ直列4気筒である。最高出力は67ps/8,000rpm、最大トルクは6.1kgf·m/7,000rpmを発生した。このエンジンは、それまでの大型オートバイの主流であった並列2気筒やV型2気筒とは一線を画す、スムーズで高回転まで回る特性を持っていた。特に4本出しのマフラーから奏でられる独特の排気音は、多くのファンを魅了した。
シャーシ[編集]
フレームは、高剛性のダブルクレードルフレームを採用。フロントにはテレスコピックフォーク、リアにはスイングアームとツインショックの組み合わせが採用された。ブレーキは、フロントに量産車初となる油圧ディスクブレーキ、リアにはドラムブレーキが装備された。
デザイン[編集]
流麗なデザインもCB750FOURの魅力の一つであった。特に、燃料タンクからシート、サイドカバーにかけての一体感のあるデザインは、その後のオートバイデザインに大きな影響を与えた。カラーリングも、鮮やかなキャンディカラーが中心で、当時の若者たちの間で人気を博した。
モデルの変遷[編集]
ドリームCB750FOURは、発表後も細かなマイナーチェンジを繰り返しながら製造が続けられた。
- K0型 (1969年-1970年):初期型。砂型鋳造クランクケースが特徴で、通称「砂型」と呼ばれる。
- K1型 (1970年-1971年):量産性向上のため、金型鋳造に変更。タンクやサイドカバーのカラーリングが変更された。
- K2型 (1972年):テールランプの大型化、メーターデザインの変更など。
- K3型 (1973年):シート形状の変更、ヘッドライトステーの変更など。
- K4型 (1974年):燃料タンク容量の変更、カラーリングの追加など。
- K5型 (1974年):排ガス規制対応モデル。
- F0型 (1975年):通称「CB750FOUR-II」。集合マフラーとキャストホイールを装備したスポーティモデル。
- F1型 (1976年):F0型のマイナーチェンジモデル。
- F2型 (1977年):最終型。
評価と影響[編集]
ドリームCB750FOURは、その登場によって世界のオートバイ業界に「多気筒・高性能・大型化」という新たな潮流を生み出した。その後のカワサキ・Z1やスズキ・GS750など、他社の大型マルチシリンダー車の開発にも大きな影響を与えた。
また、北米市場での成功は、日本のオートバイメーカーが世界市場で存在感を示すきっかけとなり、日本のオートバイ産業の黄金期を築く礎となった。現在でも、その美しいスタイルと独特のエンジンフィーリングは多くのファンを魅了し、ヴィンテージバイクとして高い人気を誇る。
豆知識[編集]
- 開発当初、本田技研工業社内では「幻の750」と呼ばれていた時期があった。
- 当時、大型オートバイの主流が2気筒エンジンであった中で、4気筒エンジンは「エンジンが長い」と批判する声もあったが、結果的にその後の主流を確立することになった。
- 当時の販売価格は58万5000円と、大卒初任給が3万円台の時代には非常に高価な乗り物であった。
- CB750FOURは、日本の白バイにも採用されたことがある。
関連項目[編集]
参考書籍[編集]
- 『Honda CB750Four: The Superbike that Changed the World』(モーターマガジン社)
- 『絶版バイクFAN Honda CB750Four』(八重洲出版)
- 『名車アーカイブ ホンダCB750FOUR』(モーターマガジン社)