タロット
タロット(Tarot)とは占いなどに使用されるカードの一種。「タロウ」「タロック」とも呼ばれる。タロットを用いた占いは「タロット占い」と呼ばれ、卜占[1]としての位置づけにある。
概要[編集]
タロットカードは14世紀に登場したマルムーク・カード[2]と呼ばれるプレイングカードが起源と言われている。このマルムーク・カードを起源とし、15世紀のイタリアで切り札的なカード、つまり現在の大アルカナ等が追加されたものがタロットの原型と言われる[3]。なお、同時期以降にフランスで定着したものが現在のトランプともいわれている。もともとは遊戯用であったものが、18世紀ごろに占い用に用いられたのがタロット占いの元祖と言われている。
タロットカードは22枚の絵札である大アルカナと4つのスート[4]に分けられた数札からなる56枚の小アルカナ[5]の78枚が基本的な構成となっている。占いの際は一般的には大アルカナと小アルカナのすべてを使用した78枚のカードで占うが、大アルカナだけで占ったり[6]小アルカナの特定のスートを使って占うこともある。
占い方は、カードをテーブルの上でシャッフルした後に揃え、カードの山を複数の山に分割してから再度まとめ(カット)、そこから何枚か引き出して占う。カードの上下も気にすることもあるため、(カードが痛むという問題はあるものの)シャッフルは念入りに行われる。シャッフルは一般的なトランプのようなオーバーハンドシャッフルが使われることもあるが、机の上でカードを広げ、回すようにシャッフルするウォッシュシャッフルが用いられることが多い。これは上下を含めて満遍なくシャッフルするために行われるものであり、オーバーハンドシャッフルと組み合わせて使われることもある。占者がシャッフルするものが基本であるが、場合によって被占者がカットすることもある。
タロット占いは並べた場所に意味を持ち、そこに配置されたカードによって占いの結果を読む。この特定の並べ方をスプレッドと呼び、一枚引きのワン・オラクルや 10 枚のカードを使ったケルト十字と呼ばれるもの、マジック・スプレッドのような六芒星とその中心にカードを配置するものなど様々なスプレッドがある。基本的には被・占者に近い方が下、遠い方がうえ。横にめくれば上下は逆にならず、縦にめくれば上下は逆になる。
歴史[編集]
ヨーロッパへの伝来[編集]
古い記録としてはドイツの僧ヨハネス(Johannes)が「LUDOUS CARTARUM」というカードゲームが一三七七年にドイツに齎(もたら)されたという記述を遺している。
また、一四八〇年にイタリアの歴史学者ジョバンニ・コペラツォ(Giovanni Covelluzzo)が、「サラセンの国からナイブと呼ばれるカード・ゲームが一三七九年にイタリアに渡来した」と書いている。
カスティーユの城主ジョン一世は、一三七九年にカード遊戯を禁止する法令を出した。このほかの文書を参考にしても、カードは一三六十年代から一三七十年代にかけて伝承したものであることが推定される。当初は賭博や遊戯に使用されたと推定されている。
中世ヨーロッパでゲームや賭博に使われていたタロットが、やがて占いで使われるようになった。占いでの使用は200年前ぐらいからである。
日本では昭和40年代に星占いと共に広まっている。
分類[編集]
タロットカードにはその構成や出自などから「~系」「~版」と区分されて呼ばれる。その中でも主にウェイト版とマルセイユ版、そしてトート版の三系統がメジャーなものとして流通している。一般的にはウェイト版やそれに準じたものが多く、占いの解説書や入門書にとってはウェイト版が採用されることも多い。マルセイユ版は最も伝統的な絵柄であり、特にヌーメラルカードは模様だけの絵柄であるために直感的なリーディングが難しいという側面がある[7]。トート版は古代エジプトの神であるトート(Thoth)にちなむカードであり、様々な占いの要素を取り込んだ神秘性が強いデッキとなっている。
ウェイト系[編集]
米国からでのシェアが高く、世界的にも広まっている。ウェイト版とは作者のアーサー・エドワード・ウェイトの名前からきている。占い用として最も広く使われているタロットであり、1909年にロンドンで発行されたデッキである。魔術結社である黄金の夜明け団(ゴールデン・ドーン)の教義を基に構築したタロットであり、より占い用として再構成されたタロットである。マルセイユ版との大きな違いとして、力と正義の位置が入れ替わっているほか、小アルカナにストーリー仕立ての絵柄が付与されていることが挙げられる。
- 無修正版
- ライダー版(英)。発行会社がライダー社であったことからライダー版とか、ライダー=ウェイト版とも呼ばれる。また、デザイナーのパメラ・コールマン・スミスの名も加えてライダー・ウェイト・スミス版とも呼ばれる。
- ユニバーシティ・システィム版(米)
- U.S. Games Systems 版(米)
- ミニ・ウェイト版(スイス)
- 修正版
- ゾラ・アストロロジカル・タロット(米)。ウェイト版に占星術を組合わせたもの。
- ダイナミック・ゲーム社版(米)
- デ・ローレンス版(米)。紺と赤の二色刷りが特徴。
- ホイ・ポロイ版(米)。ウェイト版を現代風に作画したもので、米国ではデパートで主に売られている。裏模様はキー。
- メリー・マーク版(米)。一枚ごとに英文の説明が記されている。
- メリー・マーク版の豆版。世界最小のサイズといわれるウェイト版。
- アルバノ・ウェイト版(米)。イーデン・グレイのタロット。クレイト・カラートーンで原版ではもっとも美麗。
マルセイユ系[編集]
もっぱら欧州に普及している。最も伝統的なタロットであり、もともとゲーム用カードとして使われていたころの名残を強く残しているのが特徴である。そのため、小アルカナは単純に数札としての絵柄が強く、一般的なトランプに極めて近いようなデザインになっている。
- なお、1650年頃に発行されたジャン・ノブレ版がマルセイユ版の元祖ともされており、現在のマルセイユ版は18世紀ころにマルセイユで使われていたデッキの復刻版ともいえるものである。
伝統版、修正版、双頭版などに分類される。
トート系[編集]
黄金の夜明け団に在籍していたアレイスター・クロウリーが作者であり、フリーダー・ハリスによるデザインのデッキである。占い的な絵柄がウェイト版よりも色濃く出ているのが特徴であり、大アルカナのいくつかのカード名が変更されているほか小アルカナの最も上位が騎士になっていたりするなど、前述のタロットに比べると大きく違っているものである。また、ウェイト版やマルセイユ版の大アルカナにあったキリスト教的要素を排除しているのも特徴である。
大アルカナ[編集]
大アルカナはそれぞれ固有の意味を持つ二十二枚で構成される。
「タロットといえば大アルカナ」といわれるほどイメージが強いカードでもあり、タロットを題材とした創作でも大アルカナのみの参照としていることもある。デッキによってはカードの順番が異なっていたり[8]、デッキオリジナルのカードが入っている[9]こともある。
大アルカナ全体が一つの円環という解釈もあり、「何もない『愚者』が旅立つところから始まって『世界』ですべてが完結し、また再び『愚者』から物語が始まる」と解釈する。ただし、「愚者」を「世界」の後にもってくるスタイル(マルセイユ版の古い形はこれ)もあるし、「世界」の直前に置くスタイル(ウェイト版はこれ)もある。本ページではザイン(C.C.Zain。本名はエルバート・ベンジャミン)のエジプシャン・タロットに倣って(1)を「魔術師」、(21)を「世界」、(22)を「愚者」に置いた。ただしタロットに書かれているのはギリシャ文字の「0」とヘブライ文字「ℵ」(Aleph)である
以下の表はウェイト版における一般的なカードの解釈を記述したものである。デッキによっては異なる解釈や入れ替わりがあるので注意されたい。
番号 | 名称(日本語) | 名称(英語) | 正位置の解釈 | 逆位置の解釈 |
---|---|---|---|---|
0 | 愚者 | The Fool | 自由、無邪気、可能性、旅立ち | 無計画、愚かさ、挫折、軽率 |
1 | 魔術師 | The Magician | 意志、創造、才能、チャンス | 未熟、詐欺、失敗、悪用 |
2 | 女教皇 | The High Priestess | 知恵、直感、神秘、静観 | 無知、無理解、感情的 |
3 | 女帝 | The Empress | 豊穣、母性、発展、愛情 | 過保護、停滞、浪費 |
4 | 皇帝 | The Emperor | 権威、安定、支配、実行力 | 独裁、頑固、無力 |
5 | 法王 | The Hierophant | 慣習、信頼、協調、教育 | 偏見、形式主義、反抗 |
6 | 恋人 | The Lovers | 愛、結婚、選択、調和 | 失恋、迷い、誘惑、優柔不断 |
7 | 戦車 | The Chariot | 勝利、前進、克服、意志 | 暴走、敗北、挫折 |
8 | 力 | Strength | 勇気、忍耐、自己制御 | 弱さ、怠惰、屈服 |
9 | 隠者 | The Hermit | 探求、内省、思索、成熟 | 孤独、閉鎖、悲観 |
10 | 運命の輪 | Wheel of Fortune | 幸運、転機、チャンス | 不運、停滞、抗えない運命 |
11 | 正義 | Justice | 公正、調和、正しさ、均衡 | 不正、不公平、誤解 |
12 | 吊るされた男 | The Hanged Man | 忍耐、自己犠牲、試練 | 無駄、徒労、停滞 |
13 | 死神 | Death | 終末、区切り、再生、変化 | 停滞、喪失、再出発の困難 |
14 | 節制 | Temperance | 調和、バランス、適応 | 不調和、浪費、極端 |
15 | 悪魔 | The Devil | 欲望、束縛、物質主義 | 解放、覚醒、克服 |
16 | 塔 | The Tower | 崩壊、破壊、衝撃、災厄 | 再建、緊張の緩和、回避 |
17 | 星 | The Star | 希望、ひらめき、癒やし | 失望、混乱、挫折 |
18 | 月 | The Moon | 不安、迷い、直感、幻想 | 誤解、欺瞞、錯覚 |
19 | 太陽 | The Sun | 成功、喜び、祝福、達成 | 失敗、不安定、空虚 |
20 | 審判 | Judgement | 復活、刷新、決断、評価 | 挫折、悔恨、行動の遅れ |
21 | 世界 | The World | 完成、達成、調和、満足 | 未完成、中途半端、未達成 |
小アルカナ[編集]
小アルカナはスートごとに 1 から 10 のヌーメラルカードと、ペイジ、ナイト、クイーン、キングの四枚のコートカードの計 14 枚で構成される。スートは
- 魔法の杖(ワンド。トランプでいうところのクラブ)
- 五芒星(ペンタクルス。同ダイヤ)
- 剣(スウォード/スワード/ソード。同スペード)
- 聖杯(カップ。同ハート)
の四つから構成され、それぞれに火・地・風・水という四大元素が対応している。また、それぞれのスートごとに杖は冒険、五芒星は価値、剣は試練、聖杯は愛というようなストーリーを持っている。タロット占いの際はこういったストーリーを加味してリーディングすることも珍しくない。また、各スートの 1、つまりエースはそのスートが持つ意味を極めて純粋に表しているカードであり、ある意味ではコートカードよりも強力な意味を持つカードとされている。
スプレッド[編集]
カードを決まった形に配置することはスプレッド(展開法)とよばれ、位置によって占う項目が決まっているものである。オーソドックスなスプレッドの場合、一枚引きのワン・オラクルから13枚引きのホロスコープまで、占適や占期に合わせて使い分けることもある。一方で慣れた占者の場合はオリジナルのスプレッドを考案することもあり、もっぱらそのスプレッドを多く使用する場合もある。
大アルカナのみを使用したスプレッドの場合、場合によっては枚数の不足や精度に影響を及ぼすため、必要枚数が多いスプレッドは避けられる事もある。また、小アルカナを併用することでより細かな結果を得られることもあり、占適によっては特定のスートを大アルカナに混ぜる[10]、という方法もある。
リーディング[編集]
スプレッドにより展開されたタロットの意味を解釈することはリーディングと呼ばれる。
タロットカードの一枚一枚には意味が込められており、例えば大アルカナの戦車(チャリオット)であれば「前に進む」という意味がある。これが正位置であれば自信のある行動とか、成功を手にするための前進、という意味にとることができる。一方、逆位置であれば暴走や空回りというマイナスな意味になってしまう。占者はこれらのタロットカード意味だけでなく、カードのスプレッドや小アルカナであればスートの意味や数字、または絵柄から想起される事象など、カードを様々な視点から観察し、結果を導き出す。尤も、占者によって拾い上げる情報はまちまちであることも多く、占うテーマによって情報の選別をしているものである。
リーディングは展開されたカードだけではなく、シャッフル時に飛び出したカードについてもリーディングされることがある。これはジャンピングカードと呼ばれ、飛び出したこと自体に意味がある(この場には相応しくないからカードが自ら飛び出た、つまりこのカードに起因する心配はないと解釈するなど)としたり、関係なくシャッフルに戻すこともあるなど、占者によって千差万別である。
一方で依頼者からのヒアリングがうまくいかないと占うテーマが定まらず、占いの精度が落ちることもあるという。特に親しい間柄の場合は愚痴聞きの方が多くなってしまうこともあり、一種の簡易カウンセリングとして利用されるケースがあるという。それを逆手に取り、易占だけでなく依頼者の安らぎになる空間を提供するという占者もいる。
余談[編集]
占い用としてはウェイト版が定番である。そのため、タロットの入門書や解説書はウェイト版について書かれたものが多く、更にウェイト版のシェアが進んでいる状況である。一方、マルセイユ版でも占うこともできるほか、クロウリーのトート版で占う人もいる。クロウリーが易にも通じていたことから、トート版は東洋思想とも相性が良いともされている。
タロット占いにおける禁忌として、同じ占命(テーマ)で何度も占っていはいけないというものがある。これは一般に一事再占の禁止とよばれ、占者の間ではよく知られているものである。また、人の健康やや生死について占うことも禁忌とされている。元は賭博用の遊戯カードにも使われていたものの、賭博の結果を占うことも禁忌とされやすい。
禁忌を犯したり、カードの「機嫌を損ねる」ような占い方[11]や扱い[12]をした場合は、なぜか逆位置ばかり出たり特定のカードばかりが出るようになったりすることもあるという。そういった場合は水晶などでカードに溜まった邪念を払う必要があるとされている。非科学的な行為と言われることもあるが、そもそもが魔術結社由来の占術であるタロット占いに対して非科学的と言われても今更な話である。
脚注[編集]
- ↑ 偶然性を使用する占い
- ↑ 10枚のヌーメラルカード(数札)と3枚のコートカード(人物札)、そして4つのスートに分かれている遊戯用カード
- ↑ https://www.phgenki.jp/original5.html タロットの歴史とトランプの歴史年表
- ↑ 一般的には「ワンド」「カップ」「ソード」「ペンタクル」の四つ
- ↑ 大小はサイズではないので、どちらも同じ大きさである。
- ↑ 初心者であったり、簡易的に占う場合にも使用される
- ↑ ウェイト版はヌーメラルカードにも絵柄があり、それぞれのスートがストーリー仕掛けになっているため直感的にリーディングしやすい、というメリットがある
- ↑ マルセイユ版とウェイト版では7と11が入れ替わっているほか、ウェイト版として販売されているデッキでも入れ替わっているものもある(Secret tarotなど)。
- ↑ THE FOUNTAIN TAROTにおけるTHE FOUNTAIN∞やJOYFUL JOURNEYのTRANSFORMATIONなど
- ↑ 人間関係を占うため、大アルカナとソードの小アルカナの組み合わせで占う、など
- ↑ 一事再占の禁止を破って何度も占ってみたときなど
- ↑ 粗末に扱ったり勝手に他人に触れさせるなど
参考資料[編集]
- アレクサンドリア・木星王『TAROT ― タロット入門と占い』((株)大陸書房。1975)
- 藤森緑 『続 初めての人のためのらくらくタロット入門』、2011年3月1日。