オランダ領東インド陸軍
オランダ領東インド陸軍(オランダりょうひがしインドりくぐん、オランダ語: Koninklijk Nederlands Indisch Leger, 略称: KNIL)は、かつてオランダ領東インド(現在のインドネシア)に駐留していたオランダの陸軍部隊である。
概要[編集]
KNILは、1830年に設立されたオランダ領東インドにおける植民地軍であり、その主な任務は植民地の防衛と治安維持であった。当初はジャワ島の反乱鎮圧を目的として組織され、その後、スマトラ島でのアチェ戦争など、オランダの植民地拡大政策を支援するための多くの軍事作戦に従事した。
第二次世界大戦が勃発すると、KNILは日本軍の侵攻に対する防衛の最前線に立ったが、1942年の蘭印作戦により日本軍に敗れ、多くの兵士が捕虜となった。終戦後、KNILはインドネシア独立戦争においてインドネシア共和国軍と交戦したが、1949年のハーグ円卓会議によってインドネシアが独立を達成すると、1950年に解体された。
KNILの兵士は、オランダ人将校のほか、マドゥラ人、アンボン人、メナド人、ジャワ人など、様々な民族で構成されていた。特にアンボン人は、その忠誠心と戦闘能力を高く評価され、KNILの中核をなした。
歴史[編集]
設立から拡大[編集]
KNILは、ジャワ戦争(1825年 - 1830年)の終結後、植民地の安定化と効率的な統治のために、ヨハネス・ファン・デン・ボスによって1830年7月26日に正式に設立された。当初は、オランダ本国から派遣された部隊と、現地の傭兵から構成されていた。
19世紀後半には、オランダがインドネシアの全域を支配下に置くための「倫理政策」の一環として、KNILは大規模な軍事作戦を展開した。特にアチェ戦争(1873年 - 1904年)は長期にわたり、KNILはゲリラ戦に苦しめられながらも、最終的にアチェのスルタン国を征服した。この戦争を通じて、KNILは対ゲリラ戦の経験を蓄積し、その組織力と練度を高めていった。
二度の世界大戦と解体[編集]
第一次世界大戦中、オランダは中立を維持したため、KNILは大規模な戦闘に参加することはなかった。しかし、植民地の防衛力強化の必要性が認識され、近代的な装備の導入や訓練の改善が進められた。
第二次世界大戦が勃まると、日本が南進政策をとり、豊かな資源を有するオランダ領東インドは戦略上の重要性が増した。1941年12月の太平洋戦争開戦後、日本軍は蘭印作戦を発動し、KNILは連合国軍の一員としてこれに対抗した。しかし、装備の劣勢と圧倒的な日本軍の攻勢の前に、KNILは各地で敗退し、1942年3月には降伏した。多くのKNIL兵士は日本軍の捕虜となり、過酷な労働を強いられた。
日本が降伏した後の1945年8月17日、スカルノとハッタはインドネシア独立宣言を行い、インドネシア独立戦争が勃発した。再建されたKNILは、オランダ本国軍とともにインドネシア共和国軍と戦闘を繰り広げた。しかし、国際社会からの独立支持の高まりと、オランダ本国の疲弊により、最終的にオランダはインドネシアの独立を承認した。
1950年7月26日、KNILは正式に解体された。多くの元KNIL兵士は、新たに結成されたインドネシア国軍(Tentara Nasional Indonesia, TNI)に編入されたが、一部の兵士、特にアンボン人兵士は、独立後のインドネシア政府に対する不信感から、南マルク共和国建国運動に参加するなど、独自の道を歩むことになった。
編制[編集]
KNILは、歩兵部隊を主体とし、騎兵、砲兵、工兵、通信部隊なども有していた。20世紀に入ると、航空部隊(オランダ領東インド陸軍航空隊)や海軍部隊(オランダ領東インド海軍)も独立して組織されたが、緊密な連携を保っていた。
兵士の構成は、設立当初から多民族であった。オランダ人、ユーラシアン(インドネシア人とヨーロッパ人の混血)、そして現地の様々な民族(アンボン人、マドゥラ人、メナド人、ジャワ人など)から成っていた。将校はほとんどがオランダ人またはユーラシアンであった。
豆知識[編集]
- KNILの兵士は、制服の帽子の色が白であったことから、「白帽部隊 (witte mutsen)」とも呼ばれた。
- 第二次世界大戦中、日本軍は捕虜となったKNIL兵士に対して、独立を促すプロパガンダを行った。
関連項目[編集]
参考文献[編集]
- Cribb, Robert. Historical Dictionary of Indonesia. Scarecrow Press, 2004.
- Womack, Kenneth. The Dutch East Indies and the Pacific War: 1941-1942. University Press of Kentucky, 2012.