アウステルリッツの戦い

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アウステルリッツの戦い(アウステルリッツのたたかい、仏: Bataille d'Austerlitz、独: Schlacht bei Austerlitz)は、1805年12月2日にフランス帝国ナポレオン1世率いる大陸軍と、ロシア帝国アレクサンドル1世およびオーストリア帝国フランツ2世が率いる第三次対仏大同盟軍との間で行われた会戦である。この戦いは「三帝会戦」としても知られ、ナポレオン戦争におけるフランス軍の最も輝かしい勝利の一つとされている。

背景[編集]

フランス革命戦争以来、ヨーロッパ諸国はフランスの勢力拡大に警戒心を抱いており、幾度となく対仏大同盟を結成してきた。1804年にナポレオンがフランス皇帝に即位すると、その脅威はさらに増大した。イギリスの主導のもと、1805年にはロシア帝国オーストリア帝国スウェーデンナポリ王国が加わり、第三次対仏大同盟が結成された。

大同盟軍は、フランスの西方、すなわちライン川方面から侵攻する計画を立てていたが、ナポレオンはこれを看破。ブローニュに集結させていたイギリス上陸のための大陸軍を急遽東方へ転進させ、オーストリア軍のウルム要塞を包囲し、1805年10月20日、ウルムの戦いでマック将軍率いるオーストリア軍を降伏させた。これにより、大同盟軍は主力を失い、ロシア軍は単独でフランス軍と対峙せざるを得なくなった。

フランス軍はウィーンを占領し、さらに東へ進軍。ボヘミアモラヴィアの国境に近いアウステルリッツ(現チェコスラウコフ・ウ・ブルナ)付近で、ロシア・オーストリア連合軍と対峙することになった。

戦闘の経過[編集]

ナポレオンは、自軍が劣勢であると敵に誤認させるための巧みな戦略を立てた。彼は、自軍の右翼を意図的に弱体化させ、敵にそこを攻撃させるよう誘い込んだ。

1805年12月2日未明、霧が立ち込める中、連合軍はナポレオンの思惑通り、自軍の右翼(フランス軍の左翼)に集中攻撃を開始した。連合軍はプラツェン高地(現プラツェン記念碑付近)から部隊を抽出し、フランス軍の右翼に投入した。ナポレオンはこれを見越し、高地に隠していたスールト元帥率いる第4軍団に一斉攻撃を命じた。

霧が晴れると同時にスールト軍団はプラツェン高地を駆け上がり、頂上を占領していた連合軍を奇襲した。高地を奪われた連合軍は混乱に陥り、分断された。これにより、連合軍の連携は崩壊した。

フランス軍は中央を突破し、分断された連合軍の各個撃破を開始した。特に、凍結したザシャン池(仏: Satschan)に追い詰められたロシア軍は、フランス軍の砲撃により氷が割れ、多くの兵が溺死するという悲惨な結果となった。

午後には連合軍は完全に壊滅し、多くの捕虜と物資をフランス軍に奪われた。

結果と影響[編集]

アウステルリッツの戦いは、ナポレオン戦争におけるフランス軍の決定的な勝利となった。連合軍は甚大な損害を被り、特にロシア軍は壊滅的な打撃を受けた。

この戦いの結果、オーストリア帝国第三次対仏大同盟から脱退し、1805年12月26日にはプレスブルクの和約(現ブラチスラヴァ)が締結された。これにより、オーストリアは多くの領土を失い、ナポレオンが創設したライン同盟に事実上組み込まれることになった。神聖ローマ帝国も、この和約の影響を受けて1806年に解体された。

一方、ロシア帝国はナポレオンとの敵対を継続したが、この敗北はロシアの外交政策に大きな影響を与えた。

アウステルリッツの勝利は、ナポレオンの軍事的才能を世界に知らしめ、「太陽のアウステルリッツ」として後世に語り継がれることになった。しかし、この勝利は、ナポレオンが自身の軍事的天才を過信するきっかけとなり、後のロシア遠征などの失敗に繋がる遠因ともなった。

豆知識[編集]

  • アウステルリッツの戦いは、ナポレオン自身が「我がキャリアで最も輝かしい勝利」と評したほど、完璧な戦術が展開されたことで知られています。
  • 戦場の霧は、ナポレオンの作戦遂行に大きな役割を果たしました。この霧が、連合軍にフランス軍の部隊配置を誤認させ、奇襲の成功に繋がりました。
  • フランスの詩人ヴィクトル・ユーゴーは、自身の詩の中でアウステルリッツの戦いを「勝利の夜明け」と表現しています。
  • 現在のチェコ共和国のスラウコフ・ウ・ブルナには、アウステルリッツの戦いを記念する平和の記念碑が建立されています。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 辻政信 『ナポレオンの戦略』 中央公論新社、2000年。ISBN 978-4-12-003058-9。
  • 福井憲彦 『ナポレオンの時代』 岩波書店〈岩波新書〉、2002年。ISBN 978-4-00-430758-2。
  • 佐藤賢一 『ナポレオン』 集英社〈集英社新書〉、2006年。ISBN 978-4-08-720371-2。